表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/67

ドワーフの職人と料理人

 次の日、私は再び街へ出向いた。

 向かう先は昨日の鍛冶屋だ。ここでお金を渡して、代わりに新たな“家族″を迎える。

 「おう、来たか嬢ちゃん」

 鍛冶屋に着くと、工房の入り口で待っていてくれていた親方である男に声をかけられた。

 「はい。えっと、おはようございます」

 「ああ。……今日はエルフと猫耳族はついてきてねぇのか?」

 そう言って首を傾げる男に、私は頷く。

 「二人には屋敷の方で新しい”家族″のお出迎えの準備をしてもらっています」

 部屋は本人に選んでもらうとして、その他のみんなで使うスペース、例えばロビーなどの掃除をしてもらっている。あとは料理だ。少し豪華なご馳走やお菓子などを作ってもらっている。

 「なるほどなぁ。ああ、お金は中で受け取ろう。こんな外でやることでもねぇ。さ、中に入ってくれ」

 そう言って案内されたのは、昨日と同じ部屋だった。

 部屋の中に入ると、昨日使った長机と、一つ増えた椅子が並んでいた。その椅子には、昨日と同じ位置にジークが、そして新しく増えた椅子には老婦人が座っている。おそらく彼女が、ジークの奥さんだろう。

 彼女はジークと同じドワーフのようで、低い背丈に尖った耳をしている。

 椅子に座った二人は私たちが入ってきたことに気づいて振り返った。

 「おぉどうも、ミズキ様」

 ジークが私にそう挨拶をくれる。昨日一度名乗っただけだが、覚えてくれていたようだ。

 ジークの挨拶に合わせて、老婦人も頭を下げる。

 「どうも」

 私もそう挨拶を返して、昨日と同じ椅子に座ろうとした。

 そこで、男に止められる。

 「待て、嬢ちゃん。今日はお前さんがこっちだ」

 そう言って彼が示したのは、昨日彼が座っていた席だ。

 確かに、今日は私が当事者だしね。

 私はそう思い、彼の言った通りの席に座る。男は昨日私の座っていた席に座った。

 「じゃ、早速だが嬢ちゃん。金を渡してもらおうか」

 私は男に言われて、素直にカバンから金袋を取り出す。そしてそれを男に差し出すと、男は中身を確認し始めた。

 「……おお、ホントに一万ルーベだな」

 「疑ってたんですか?」

 感心した声を上げる男に、心外だ、と私が返す。

 「まぁ、お前さんみたいな嬢ちゃんがこんな大金を持ってるってのは、にわかには信じがてぇよな……。いいとこのお嬢様とかならこんなもんかもしれねぇが、そんな奴は普通街には来ねぇしな」

 男の言い分に、私は納得する。

 「ま、何はともあれ。これで取引成立だ。契約書とかみてぇな堅苦しいもんは用意してねぇし。ほれ、そこの二人は嬢ちゃんのもんだぜ」

 そう言われ、私は視線を男から、目の前に座る二人に向ける。

 「えっと、はじめまして……ではない方もいますけど……。私はミズキです。これから、よろしくお願いしますね」

 私は二人に、慣れない自己紹介をした。

 「ミズキ様は儂らの主人なのだから、敬語で喋らずともよいのですが……」

 ジークにそう言われ、私はうっと声を上げる。

 「嬢ちゃんにはこう、主人の威厳がねぇなぁ。もっと踏ん反り返っててもいいんじゃねぇか?」

 「そう言われても……」

 男の言葉に、私はしょげる。

 そういうの、向いてないんだって。私、元はただの庶民だよ?というか今だって別に金持ちのお嬢様じゃないんだから。

 いや、金はある方なのだが、まあそこは置いといていいだろう。

 「ミズキ様、改めまして、儂はジークです。これからお世話になります」

 ジークがそう名乗ったのを聞いて、私は頷く。彼の名前はもう知っていたが、前は男の話の中で聞いただけなので、こうして名乗られたのは初めてだ。

 次に、彼の横の老婦人が、私に名乗ってくれた。

 「わたしはノーラ、ジークの妻です。……よろしいのでしょうか?わたしまであなた様にお仕えすることになって。わたし、鍛治の才能なんかはからきしですけども」

 自信なさげにそう言った彼女に、私は笑いかける。

 「大丈夫です。えっと、親方から、料理ができると聞いています。私、料理は全然ダメで、普段は代わりにうちで働いてくれている子が作ってくれているのですけど、そこを任せられないでしょうか?」

 私の言葉に、ノーラはパッと顔を輝かせた。

 「ええ、もちろんです。わたし、お料理が好きなのですよ」

 ノーラは嬉しそうに、そう答えてくれた。

 よかった、これでリンネの仕事も減らせそう。あの子にはもっと遊べる時間が必要だと思うからね。

 まぁ私が見た限りでは、おそらく彼女は好きで仕事をしているのだと思うが。一日中くるくると、いろんなことに手をつけている。動き回るのが好きなのはいいことだが、どうせならその中に、年相応の少女らしいこともあって欲しい。

 「では、ジーク、ノーラ。私たちの屋敷へ向かいましょう。……えっと、親方さん。今回はありがとうございました」

 私が頭を下げながらそう言うと、男は笑って言った。

 「いやいや、むしろこっちがありがとうだ。仲裁役もしてもらって、うちの職人を引き取ってくれて。……じゃあな、ジーク。上手くやれることを祈ってるよ」

 男はジークに向けて、別れの言葉を述べた。

 「……ああ、ありがとう。さようなら、親方」

 ジークはそう言うと立ち上がり、ノーラと共に私の側へ来る。

 私たちはそのまま部屋を出て、工房を後にした。


 「えっと、それで……。このまま帰ってしまって大丈夫ですか?」

 私が尋ねると、二人はそれに頷いた。

 「ああ、荷物はもうまとめてある。大丈夫だ」

 「分かりました。では、向かいましょう。っと、その前に」

 私はネックレスを取り出して、フィデリスに連絡を入れる。

 「フィデリス、お迎えを頼める?」

 私がネックレスに向かってそう話しかけると、ネックレスから声が返ってくる。

 「ああ、今から向かう」

 その光景を、ジークとノーラは驚いた目で見ていた。

 「えっと、一体何を……?」

 「ああ、これは、フィデリス……仲間と連絡を。待ち合わせ場所に向かいましょう。そこにいれば、彼が迎えに来てくれますので」

 私がそう言うと、二人はまだ目を見開いたまま、とりあえず私についてきてくれた。

 向かう先はいつもの人気のない開けた場所だ。

 「……本当にこんなところに来るのですか?」

 ノーラがそう首を傾げた。

 確かに、街からは少し離れた、ガランとした場所なので不安にもなるだろう。しかし、彼のサイズを考えると、ここしかないのだ。

 一旦人の姿に戻って……とか、メンドイだろうし。

 その頃、上空からバサっという翼の音がした。

 二人はその音にビクッとして、後ろに後ずさる。ジークがノーラを庇うようにしていた。

 音の主はゆっくりと、私たちの目の前に降りてくる。

 「ま、まさか、竜!?何故こんなところに!み、ミズキ様!」

 ジークが慌てた声を出しているのを聞いて、あらかじめ説明しておくべきだったと反省する。

 ん〜、この後この竜の背中に乗って帰るよ〜とか言ったら、失神したりしちゃうかな?大丈夫かな?二人とも見た目的にお年だろうし、出会ってすぐにショック死とか嫌だよ?

 「ミズキ?」

 「ぎゃあ!喋った!」

 「あー、フィデリス、一旦人の姿になってくれる?面倒だと思うし、悪いんだけど……」

 私は申し訳なく思いながらフィデリスにそうお願いする。彼は「分かった」と返事をした後、姿を変えた。

 「うん、やっぱり、こっちの方がマシだと思うんだ。……あっ、私は竜の姿も好きだよ?ただ、あの二人が慣れるまではこっちの姿の方がいいのかなって思っただけで……」

 人の姿になったフィデリスに近づいて、私はそう言った。後半が言い訳じみたことになってしまって、彼の機嫌を損ねていないか心配だ。

 そう思っていたのだが、彼はむしろ嬉しそうな表情をしていた。……気がするだけだが。彼は基本無表情なので、よく分からない。

 「……好き?」

 「ん?」

 フィデリスが小さくそう呟いたのを聞いて、私は思わず聞き返す。

 「……好き、なのか?」

 「うん?好きだよ、かっこいいと思う」

 私はよく分からないままフィデリスの質問に答える。

 「……そうか」

 私の答えを聞いたフィデリスは、僅かに微笑んだ。滅多に見ることのない微笑みに、私は胸がキュンっと弾んだのを感じた。

 ……キュン?

 「……なんだか、思っていたような方とは違うようですよ、じいさん」

 「……ああ、そうじゃな」

 ジークとノーラの二人の声が聞こえてきて、私はハッと我に返る。

 「そうだった、二人とも!どうでしょうか、彼、悪い人ではないのですけど。むしろいい人ですよ!見た目はちょっと怖いかもしれませんけど……大丈夫!だから二人も、どうか怖がらないで」

 私はそう言って、二人に手を差し伸べる。

 地面に座り込んでいた二人は、私の手を取って立ち上がった。

 「じゃあ、帰りましょうか」

 私は立ち上がった二人の前を進む。

 「フィデリス、もう戻っていいよ」

 私がそう言うと、フィデリスはまた竜体に戻った。この姿にはまだ少し恐怖が残るようで、「ヒィッ」という声が後ろから聞こえてきた。

 「二人とも、来てください」

 私は二人に手招きをする。二人は少し動きが硬くなりながらも、私の側に来てくれた。そんな二人の前で、私はフィデリスの背に飛び乗る。

 「……え」

 「さぁ、手を貸すので、二人も乗ってください!」

 私はそう言って二人に手を伸ばしたが、ジークは動かなくなってしまった。心配したノーラが彼の様子を確かめると、私に言った。

 「どうやら、気絶してしまったみたいです。申し訳ありません」

 ……おぉう、まさかの予想的中?こりゃ困ったね……。

 それに比べて、ノーラは肝が座っているようだ。少し震えてはいるが、私の助けも借りて、フィデリスの背中に乗ることができた。ついでに、気絶したジークを運ぶ手伝いもしてくれた。

 こうして、私はノーラと、気絶したジークをフィデリスの背に乗せて、屋敷へと帰宅した。


 「フィデリス、ごめんね。彼を運ばせちゃって。できれば私が運んであげたいけど……」

 「大丈夫だ。気にするな」

 「本当に、うちの主人が申し訳ありません」

 ジークを抱えて歩いてくれているフィデリスに、私とノーラが謝る。できればジークが目を覚ます前に屋敷まで運んであげたい。たぶん、今目を覚ましても竜に抱えて運ばれているという現状を理解した途端に、また気絶すると思う。

 屋敷に辿り着くと、リンネが門の前で出迎えてくれた。

 「おかえりなさませ、ご主人様〜!それに、フィデリス様も!それで、そちらのお二人が……」

 リンネがノーラとジークを交互に見ながら続ける。

 「新しい仲間ですね!あたしはリンネ!よろしくお願いします!」

 「元気な子ねぇ。わたしはノーラ。よろしくね、リンネちゃん……いえ、先輩かしら?」

 ノーラに挨拶されて、リンネは照れて困ったように笑いながら言った。

 「先輩だなんて。リンネでいいですよ、ちゃんでもいいです」

 「そう?じゃあ、リンネちゃんね。それから、こっちはジークよ。あとで自分からも自己紹介してもらうけれど」

 「うん、とりあえず中に入ろうか。フィデリス、今日はご馳走だよ。食べてく?」

 私が尋ねると、フィデリスは頷いた。その反応を見た後、私はみんなの前を歩いて、屋敷の中に入る。

 「おかえりなさい、ミズキ。……それと、フィデリス様も」

 中に入ると、いつも通りオリヴィエが迎えてくれた。彼が屋敷の外まで迎えに来ることはないが、代わりにロビーではほぼ確実にお出迎えをしてくれる。

 私に挨拶をした後、フィデリスに気づいて付け加えるように挨拶をする。フィデリスはそんな彼を、いつものように睨んでいた。

 「あれ、今日はなんか機嫌がいいんですか?フィデリス様」

 オリヴィエはそんなフィデリスを見て言った。睨まれているのに、一体どこからそんな風に感じたのだろうか。フィデリスはその言葉に「フンッ」と鼻を鳴らした。

 「へぇ、そうですか。なんかいいことがあったんですね」

 オリヴィエはそう言った。ちょっと意味が分からない。

 「とにかく、パーティーを始めましょう!歓迎会ですよ!」

 リンネがいつも以上のテンションでそう言って、一番に食堂へと向かった。私たちも、その後についていく。

 その後、リンネが腕を振るったご馳走でパーティーをして、ジークとノーラという新たな仲間を歓迎した。

 それから時が経つにつれ、二人も屋敷の“家族″の輪に溶け込み、私もいつのまにか、二人に敬語を使わなくなっていた。おじいちゃんとおばあちゃんという呼び方も、いつのまにか定着していたものだ。

 何か物が壊れたり、新しいものが必要になったらジークに。食事は朝昼晩と、すべてノーラが担当してくれるようになった。おかげさまで、リンネとオリヴィエの仕事は減り、より私の身の回りのお世話や屋敷の管理に専念できるようになった。

 「……つまり、一番役立たずなのは貴様ってことか?」

 その言葉に、私は過去を思い出すのをやめ、ぷぅっと頬を膨らました。


 「私は魔法使いとして頑張ってるからいいの!お金を稼いでるのは私だよ!」

 「そうですよ!ご主人様がいなければあたしたちもいないも同然です!」

 私とリンネはそう言いながら、イグナルスを睨んだ。

 「わ、悪かったよ……」

 イグナルスは私たちの剣幕に呑まれ、素直に謝る。

 「で、どうだった?私と二人の出会いの話は」

 私がイグナルスに尋ねると、彼はふむ、と考え込むような仕草をしながら答える。

 「その工房は惜しい人物を手放したな。まあ価値が分からない者がじいやのような優秀なドワーフを雇っていても、豚に真珠だからな。その点、ミズキはそれを分かっているようだから、じいやにとってもいいことだったと言えるだろう」

 「なんか偉そうだね」

 べらべらと喋るイグナルスに、私は呆れ半分でそう言った。

 「あとはばあやの美味しいご飯もあるしな。一万ルーベでは安いくらいだ!それを考えると、この屋敷の主の座を継いだのがミズキでよかった、と思えるな」

 「う〜ん、私はおまけ?」

 私が困ったように尋ねると、イグナルスは満面の笑みで力強く頷いた。彼がジークとノーラを気に入っているのは喜ばしいのだが、もう少し私にも好感を持って欲しい。

 「……二人はどうだった?私の話に、間違ってるところとかあったかな?」

 向かいの椅子に座っているジークとノーラに、私はそう尋ねる。

 二人は互いに顔を見合わせた後、首を振った。

 「いいえ、なかったわ。ミズキ様は、わたしたちとの思い出も、しっかり覚えていてくれてるのね」

 ノーラが柔らかく微笑みながらそう言った。

 「うん、もちろんだよ」

 私もつられて笑いながら、それに答える。

 「だって、大切な”家族″との思い出だからね」

 私の言葉に、ジークとノーラは嬉しそうに笑った。

 二人だけではない。リンネとの思い出も、オリヴィエとの思い出も、忘れられない大切なものだ。イグナルスとの思い出も、これからたくさん積み重なって、忘れられないものになるのだろう。

 ……それから、フィデリスとの思い出も。

 今はこの場にいない彼のことを思い浮かべながら、私はふふっと笑った。

ジークとノーラの過去編はこれで終わりです。リンネやオリヴィエの時よりは短めです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ