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告げる真実と団欒

 私が街から屋敷に戻る途中、洞窟の外でフィデリスの姿を見つけた。

 声をかけないのも悪いだろうと思い、私は彼に近づいた。

 彼は思い悩んでいるのか、暗い顔で地面に腰掛け、ぼーっとどこか遠くを見つめている。

 「フィデリス」

 そんな彼に、私は声をかける。それに気づいた彼が、顔を上げた。

 「ミズキ。出かけていたのか」

 「うん、ちょっと街にね」

 私の答えを聞いて、彼は少し不満そうな顔をした。

 「何故我に送り迎えを頼んでくれなかったのだ」

 「えぇ?それは……いろいろあって。あなたに迷惑かけるのも悪いし」

 私は目を逸らしながら彼に答える。だがそれに彼はさらに不機嫌そうな顔になって言った。

 「迷惑ではない」

 まっすぐに見つめられてそう言われ、私は少し恥ずかしくなった。

 「そっか、ごめん」

 私は小さくなった声でそう謝った。

 私は彼の隣に腰掛けて、彼に尋ねる。

 「何してたの?」

 その質問に、彼は少し困った顔を浮かべた。言うかどうかを悩んでいるように口を開いたり閉じたりした後、意を決したように口にした。

 「其方が前に来た時、何か悩んでいるように見えたので、それについて考えていた」

 私はそれを聞いて目を見張った。

 前に来た時というのは、数日前に彼の様子を見に来た時のことだろう。

 あの時はイグナルスに聞いたことを一人で抱え込むのが難しく、かといって誰かに相談することもできないような状態だった。それでも、彼の前では明るく振る舞っていたつもりだ。

 まさかバレていたとは。いや、その小さな変化に気づいてくれていることが嬉しかった。

 そう思って笑っていると、フィデリスがそれをおかしなものを見るような目で見てきた。

 「どうした?」

 「ん?いや、嬉しいなって。心配してくれてありがとう」

 その時の一番の悩みの種は、もう解決したと言える。フェンネルと話せたことで、一人で抱え込んでいるような気にはならなくなった。

 今はそのことを、フィデリスに伝えるべきかどうかについて悩んでいる。

 「……私も帰ってくるまでの道のりで、あなたのことを考えてたの」

 私がそう言うと、彼はキョトンとした顔になる。

 「あなたに言っておくべきことがある。でも、それを伝えるとあなたを傷つけてしまうかもしれない。だから、言うのが怖いんだ」

 私の言葉を聞いて、彼はどこか期待するような目をした。だが思い詰めたような私の顔を見て、彼もだんだんと表情を暗くしていく。

 それでも、彼は言った。

 「大丈夫だ。聞かせてくれ」

 俯いた私の顔を覗き込むように、自分の顔を近づける。そして、彼は落ち着いた声で言った。

 「其方がそんな顔をするくらい、悲しいことなのだろう。だが、其方がそれを一人で背負うよりは、我が傷ついてでも一緒に分け合ったほうがいい」

 フィデリスのその優しさに、胸が温かくなった。私は顔を上げてフィデリスを見る。

 「其方は一人ではない。前にも言ったように、もっと我を頼ってくれていい」

 その言葉に、私は笑う。そして一度大きく深呼吸をした後で、私は決意した。

 「分かった。あなたにも話すよ。聞いてくれる?」

 私の言葉に、彼は頷いた。

 私は重く、閉じてしまいそうな口を開き、必死に言葉を紡いだ。


 「……そうか」

 私の話を聞き終えた後で、フィデリスは小さくそう呟いた。

 「ミネルヴァは、あいつに……」

 魔法使いさんを殺した竜国の国王は、かつてフィデリスたちの一族を国から追放した人物だ。彼にとっては、何度も自分を苦しめてくる最大の敵のような存在だろう。

 魔法使いさんが竜国国王に殺されたことを知った彼は、やはり傷ついた表情になった。

 やっぱり言わない方がよかったかな……?私、彼を傷つけちゃったよね?

 暗い顔のフィデリスを見て、私は苦しくなった。そんな私に、フィデリスが声をかける。

 「ミズキ」

 名前を呼ばれて、彼の方を見る。

 「其方のせいではない。其方は何も悪くない。教えてくれたこと、感謝している」

 フィデリスにそう言われて、私は顔を歪める。

 「で、でもっ、私あなたを傷つけちゃった。やっぱり、言わない方がよかったんじゃ……」

 「そんなことはない。何も知らないよりは、辛くとも真実に触れた方がいい。少なくとも我はそう思う」

 フィデリスはキッパリとそう言った。そう割り切れるところが、私にはない彼のかっこよさだなと思った。

 「其方も辛かったのではないか?」

 フィデリスに尋ねられて、私は遠慮がちに頷く。

 「まあ、どうしていいのか分からなくて困ったよ」

 そう打ち明けると、フィデリスは私の頬に手を添え、私の額に自分の額を当てる。

 「もう大丈夫だ。これからはどんなことでも、我を頼ってくれ。其方一人で抱え込むのはなしだ」

 そう言うと、彼は顔を離した。

 「わ、私みんな心配してるから、早く帰らなきゃ!言いたいこと言えたし、私はもう行くね。ありがとう!」

 私は彼の顔が離れるや否や、そう言うとその場から一目散に逃げ出した。いや、逃げたのではない。帰っただけだ。

 「え?あ、あぁ。またな、ミズキ」

 早口でベラベラと喋りながら、その場から立ち去った私の、ポツンと取り残されたフィデリスは困惑しながら言った。

 私はそんな彼に背を向け、走って屋敷へと向かう。

 あぁもう、私のバカ!また彼に嫌な態度取っちゃった!

 今が夜でよかった。私の真っ赤な顔も、きっとバレてはいないはずだ。

 でも彼も彼だよね!いきなりあんな顔を近づけて、私、私……。

 ……き、キスされるかと思った……。

 「ああぁぁっ!!」

 私は自分の考えたことの恥ずかしさに大声を上げながら、ひたすら屋敷へと足を進めた。


 「おかえりなさいませ、ご主人様〜。遅かったですね」

 私が屋敷の庭の門のところへ辿り着いた時、リンネはすでに私を待っていてくれていた。

 「リンネ?どうして私が帰ってきたって分かったの?」

 出迎えてくれた彼女に私はそう質問する。また前みたいに屋敷の中から私の姿を探していたのだろうか。

 そう思ったのだが、どうやら違ったようだ。

 「あぁ、ご主人様の声が聞こえたので。それより大丈夫ですか?何やら叫んでいらっしゃったようですが、魔物にでも遭遇したのでしょうか?」

 「ああぁ〜!そうだった……」

 リンネの答えに、私は再び頭を抱えて叫ぶ。

 確かにあの大声を屋敷のすぐ側に着くまで上げていたのだから気づかれるのも仕方ない。恥ずかしさに私は悶えた。

 「騒がしいな」

 ちょうどその頃、屋敷の中から現れたイグナルスが私に向けて冷ややかにそう言った。

 「一体何事だ?ミズキ、帰ってきたならまず俺に飴を寄越せ」

 「イグナルス様、誰かが帰ってきたらまずはおかえりなさい、です」

 いきなり飴を要求してきた彼を、リンネがそう嗜める。彼女の言葉にイグナルスは「ふむ」と頷く。

 「ミズキ、おかえりなさい。飴を寄越せ」

 「うう〜ん、前半と後半があまり噛み合ってないねぇ」

 リンネに教わった通りの挨拶に自分の要求を加えたことで、敬語と命令語がごっちゃになっている。私はやれやれと頭を抱えた。

 まぁでもよかったよ、フェンネルに飴を貰っておいて。これで忘れてた、だと怒られただろうし。

 「はい、飴ちゃんだよ」

 私はポケットから取り出した飴をイグナルスに渡した。

 彼は飴ならどんなものでも構わないようで、これがどこで買ったものなのか、などと言ったことは聞かずにすぐさま飴を舐め始めた。

 「ご飯前なのに、いいのでしょうか?」

 「まあ、飴ならお腹にはたまらないだろうし……」

 私たちはそんな会話をしながら屋敷に入る。

 ロビーにはオリヴィエとジークがいた。そしてテーブルの上には私が以前購入したボードゲームが広げられている。

 「あれ?もしかしてみんなで遊んでたの?」

 私が尋ねると、オリヴィエがそれに答える。

 「おかえりなさい。ええ、夕食ができるまでの間、暇を持て余していましたので。……主にイグナルスが」

 彼の呆れた様子を見るに、イグナルスに無理矢理付き合わされたのだろう。ジークはその向かいで「ほっほっほ」と笑っている。

 「四人で遊んでたの?いいな〜、私も入れてよ」

 「ダメだ、まだげーむは途中だからな」

 私が言うと、イグナルスに突っぱねられてしまった。

 「ご主人様、まずは着替えましょう」

 しゅんとする私の腕を引いて、リンネが言った。

 「あたしの順番は飛ばしちゃって構いませんので、どうぞ続けてください!」

 そう言って私と共に部屋に向かったリンネの背中を、イグナルスがジトっとした目で見ていた。

 ヤキモチだろう。遊び相手を取られたのだから仕方ない。

 「私一人でもできるし、リンネは遊んでてもいいよ?」

 「そういうわけにはいきません。この屋敷の主はご主人様ですから」

 私を着替えさせながら、リンネは答えた。

 「私はみんなとホントの家族みたいに、上下関係なしで暮らせたらいいんだけどな」

 「ご主人様があたしたちに給料を払わなくなれば可能かもしれませんね」

 私の呟きに、リンネは苦笑しながらそう返した。

 「……それに、みんなご主人様に恩があるから、こうやって接しているんですよ?ある意味、あなた様のようにたくさんの人を救う英雄の責務の一つ、なのかもしれませんね」

 リンネは私を見てそう言った。

 ……英雄か。そういうの向いてないな〜。

 私はそう思いながら、つい小さくため息をこぼした。

 「……慣れなきゃね、みんなの主として恥ずかしくないように」

 私は苦笑いを浮かべながら、乾いた声でそう言った。


 着替えを終えて部屋を出た後、夕食の時間になった。

 まだ遊んでいたいと言うイグナルスを引っ張って食堂に向かう。食べる前はあんなに不機嫌だったのに、ノーラの食事を口にした途端笑顔になるのだから、結構扱いやすい子だと思う。

 お風呂を済ませた後、私はロビーに向かった。そこで、さっき中断されたゲームの続きがやっているのだ。

 みんなが遊んでいたのは双六のようなゲームで、ルーレットで出た数字の分だけマスを進められる。

 まださっきのゲームに決着がついていないため、私はゲームに入ることができない。そのため、みんなの白熱した試合を見ていた。

 だが、ようやく勝敗がついたかと思えば、今度はイグナルスが飽きてしまった。彼はどうやら、もうゲームをする気分ではないそうだ。

 「じゃあもう寝たら?子供は早く寝たほうがいいよ〜。寝る子は育つ、だからね」

 「嫌だ!ミズキ、何か面白い話をしろ!」

 無茶振りである。そんなことを突然言われても困る。

 「えぇ……。ん〜、具体的にどんな話が聞きたいの?」

 私が尋ねると、イグナルスは考え込む。

 「そうだな……。じいやとばあやの話が聞きたい」

 「おじいちゃんとおばあちゃんの?」

 イグナルスの答えに、私は聞き返す。

 「ああ。二人とも優秀なドワーフだ。何故、お前の元で雇われている?どのような経緯で知り合ったのだ?」

 そんな風に少し難しい言葉で言ったが、要はジークとノーラについてもっと知りたい、ということだ。

 ホントに気に入ってるんだね〜、二人のこと。仲良しなようで何よりだよ。

 「分かった。じゃあちゃんと聞いててよ?私も頑張って話すから、途中で寝ちゃうとかナシだよ?」

 私の言葉に、イグナルスは身を乗り出して頷く。私はその様子に笑みを浮かべつつ、二人との出会いを思い出した。

次からはジークとノーラとの出会い編です。

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