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駄弁り合いと話し合い

 「ごめん。でも君のことだ、そんなに苦戦はしなかっただろう?」

 謝っている割に、おそらく全く悪いとは思っていないだろう態度で、彼は言った。

 淡い緑の、少し長めの髪を後ろに縛り、優しい金の瞳を細めながらこちらに向けてくる。

 腐っても貴族だ。ある程度のオーラはあり、整った顔立ちをしている。それがだらしないよれた白衣で台無しだ。

 彼はフェンネル。だらんとソファに腰掛けている姿からは想像できないが、王宮の最も優れた薬師であり、魔法薬学者だ。

 「相変わらず、だらしない……」

 「そんなこと言われたって、今日は休みなんだよ?」

 「じゃあ今度はあなたが仕事をしてる日に電撃訪問しようかな」

 私がそう言うと、「それはちょっと恥ずかしいな〜、君も僕のギャップにやられちゃうんじゃない?」と茶化すように答えた。

 彼は私に席を勧めてくる。一応客をもてなす気はあるようで、お茶を淹れてくれると言った。

 「そういえば最近、シャロンティーヌ様に呼ばれて城に来たんでしょ?僕にも声かけてくれればよかったのに」

 お茶を用意しながら、フェンネルが言った。

 「あの時は忙しかったから……。それにあんな風にお姫様と王子様に挟まれてたら、私みたいな庶民は早く帰りたいって思っちゃうものなの」

 「そっか〜。ま、僕あの日休みだったから、君が尋ねてきても僕はいなかったけどね」

 フェンネルの答えを聞いて、思わず頭を抱える。

 なんなのよ、こいつ……!

 話しててこっちの調子が狂う、と呆れてため息が出た。

 「そんなだと、お土産あげないよ?」

 「えっ、待ってよ!謝るからさ!」

 私がそう言うと、フェンネルは慌てる。そんな彼に、仕方ないな、という態度で私はノーラの作ったクッキーを出した。

 「わぁ、おいしそう!君が……ってそんなわけないか。君料理下手だもんね」

 「うるさいな、ホントにあげないよ?」

 面白がるように言ったフェンネルを睨みながら、私は一度テーブルに置いたクッキーの籠を取り上げようとした。それを見てフェンネルはまた、慌てて私に謝る。

 「ごめんって!」

 まあ今回彼の休みを奪ってまで話がしたいと押しかけたのは私だ。本気でクッキーを取り上げたりするつもりはない。

 ただ彼とは友達のように気楽に話せるのだ。“家族″たちとはやはり主従関係上微妙に距離ができてしまう。こういう風に話せるフェンネルという相手は貴重だ。つい、砕けた調子で、お互いを揶揄うように話してしまう。

 それが私も気に入っているし、彼も嫌そうにしたことはない。

 「そういやシャロンティーヌ様が君を呼び出した時、君魔法陣を渡したね?でもその魔法陣に関して、説明が不十分だったことに気づいてるかい?」

 フェンネルに聞かれて、私は答える。

 「あぁ、それ!あなたに手紙を送ろうとした時に気づいたよ。……あれ?それを知ってるってことは、まさかあなたが……」

 「そうだよ。僕がシャロンティーヌ様に使い方を教えたんだ。あの人に頼られることとか滅多にないからびっくりしたよ」

 彼の話を聞いて、私は納得する。私が自分で作った魔法陣だから、使い方が分かる者はそういない。だがフェンネルは同じようなものを持っているので、使い方が分かる。

 「どうやら、いろんな人に聞いて回ったのに、使い方を知ってる人が全然いなくて焦ったらしいよ?うちに時々遊びにくるトゥーズベルト様が僕なら知ってるかもって案内してくれたことで、ここに辿り着いたみたい。ま、実際使い方を知ってるのはこの城で僕だけだろうからね」

 フェンネルにシャロンティーヌ様の苦労を聞かされて、私は項垂れる。

 「面目ない……。フェンネルもごめんね?」

 「別にいーよ。……そういえば、今日はフードじゃないんだね?」

 私の服装を見て、フェンネルが言った。

 「私だって、別にいっつもフードの付いた服着てるわけじゃないんだけど……」

 今朝リンネにも同じようなことを言われたな、と思い出しながら答える。

 「ふ〜ん、そうなんだ。そういえば最近見ないよね〜、フードの救世主」

 窓の外を眺めながらそう言ったフェンネルの言葉に、私は飲んでいたお茶を吹き出す。

 「ゴフッ!」

 「ちょっと、汚い!」

 「誰のせいよ!」

 フェンネルにそう言われて、私はムキになって言い返す。

 「フードの救世主は、最近は何してるのかな?」

 私はこぼしたお茶を魔法で掃除しながら、彼を睨む。

 「フードの救世主は街がピンチにならなきゃ来ないよ。最近は魔物の討伐に行ったり、城に呼ばれたり、あとはまあ、いろいろ……」

 「魔物の討伐!?」

 フェンネルはやはり、予想通りのところに食いついた。

 「ねぇねぇ、どんな魔物倒したの?どんな魔法使ったの?詳しく聞かせてよ!」

 そういえば彼にはあの時討伐したマルコシアスに刻まれていた紋についても、まだ話していない。

 いい機会だな、と思いながら私は言った。

 「分かった。今回訪れた用件にも繋がる話だから、順を追って話すよ」

 それを聞いて、フェンネルはさっきまでの騒がしさを引っ込めて顔を引き締める。

 そんな彼の様子を確認しながら、私は口を開いた。


 まず私はSランクのマルコシアスの討伐依頼を引き受けたことから話し始めた。

 この時点でやはり、フェンネルも違和感を持ったようだ。

 「マルコシアスって人を喰べるような魔物じゃないよね?」

 「そうだよ。そのおかしな点については、この後分かるから」

 その後、私は襲ってきたマルコシアスと一戦を交え、ダウンしたマルコシアスの体に刻まれた紋を見つけたことを話す。

 「……なるほど。それが今回の用件ってわけ」

 「用件の一部だよ。他にも情報持ってきてるから」

 私が言うと、フェンネルはぐったりした様子になる。

 「もうその情報だけでお腹いっぱいかも。竜国の王族がこっちの国で魔物操ってるとか、一大事だよ」

 彼の言葉に、私は頷く。

 本来ならすぐにでもこちらの国の王族に報告すべきことなのだが、ヴェリアールパレスとドラゴンエンペアは今、ようやく交流が盛んになってきたところなのだ。それを潰していいものなのか。

 紋を見つけた後、倒れていたマルコシアスが再び復活したという話をすると、フェンネルは僅かに元気を取り戻してくれた。やはり、こういう展開には燃えるらしい。

 「それで?そのマルコシアスの素材に変わったところはあった?」

 私は彼の質問に首を振る。

 「いや、ごく普通の素材だったよ。今日は持ってきてないけど、まだ使ってないから家にあるよ。今度見せようか?」

 「普通のなら別にいいよ。見慣れてるし」

 私の提案を断ると、フェンネルは話の続きを急かしてきた。

 「で、その後何があったの?」

 「マルコシアスの話はこれで終わり。次はつい数日前の話になるんだけど……」

 私は今度は屋敷の研究部屋の奥にある封印を解いたこと、そこから竜のイグナルスが出てきたことを話した。

 フェンネルは驚いていた。それはそうだろう。私だってびっくりだ。

 元々フィデリスと一緒に暮らしていて竜に慣れている私でも驚いたのだ。竜を身近な存在と感じる機会もない他の人たちからしたら、驚きで腰を抜かすほどだろう。

 「ホントに愉快な仲間たちと暮らしてるねぇ、君は」

 「あはは……、そうだね」

 これには苦笑いで返すしかない。

 それから、その竜、イグナルスが私の屋敷の前の主である魔法使いさんによって造られたことを話した。この話は私からするとちょっと怖いくらいに感じる話なのだが、フェンネルにとっては興味をそそられる話だろう。

 彼は魔法使いさんが竜を創造してしまった、という点よりも、どのようにして竜を創造したのか、という方が気になってしまったようだ。だが、そんな話について私に意見を求められても困る。竜のモデルとしてフィデリスを参考にしているっぽい、ということだけ伝えておいた。

 「で、その竜、イグナルスから、魔法使いさんが竜国国王に殺されたってことを聞いたの」

 「なるほど……。偶然とか、フェイクとか、そんな感じだったらいいなって思ってたんだけど……。はぁ」

 彼のため息には私も同意だ。

 私たちは今、本来なら知るべきではなかった事実に触れてしまっている。知らないままならどれほどよかったことか。

 「それで〜?僕にこのことを話したのは、僕を道連れにするため?」

 「まぁ、そうだね。相談に乗って欲しいからってのももちろんあるけど」

 机に突っ伏して私を憎らしげに睨む彼に、私は答えた。

 「相談も何もないでしょ?このことを王族に言うか言わないか。言っちゃえば最悪戦争が起こるし、言わなかったら向こうが攻めてきた時、なんで言わなかったんだと怒られる」

 「だからそれを相談しようとしてるんじゃん〜」

 私も同じように机に突っ伏しながら言った。

 「でも、向こうがこの国自体に恨みを持ってるわけじゃないと思うんだよね。だってシャロンティーヌ様とルシルフリート様の婚約だって、竜国の国王が承諾したからできたんだよね?……となるとやっぱり恨まれてるのってさ……」

 私は眉を顰めながら、途中で言葉を切った。自分の表情が暗くなっているのが分かる。怖いのかもしれない。

 「……君、かもね」

 私の言葉の先を、フェンネルが代わりに言ってくれた。

 彼も察してしまっているのなら仕方ない。私はそう思って、再び口を開く。

 「……私が狙われてるなら、私一人でなんとかしたい。この国に迷惑はかけられないよ」

 私はできる限り平気に見えるよう、笑顔を浮かべて言った。

 フェンネルはそれにムッとした様子で私に尋ねる。

 「なんとかって、どうやって?そもそも君に狙われる理由はあるの?」

 「……あるにはあるんじゃないかな。白竜庇ってるし。なんなら最近魔法使いさんが造った竜も庇い始めちゃったし」

 私が答えると、フェンネルは頭を抱えた。

 「それに……、向こうがどこまで、どうやってこちらを把握してるのかは知らないけど、おそらくは向こうの目には、私は魔法使いさんの後継者みたいに映ってるんじゃないかな?」

 実際初めはそんなつもりで屋敷に住み始めたのだから、間違ってもいない。ちょっと浅はかな行動だったかもと過去を悔やんだ。

 「でも、わざわざ君を狙うためにマルコシアスを操っていたのかい?それはちょっと遠回しすぎると思うけど」

 フェンネルの言葉に、私はビッと指を差す。

 「そう!そこなの!」

 「こら、人に指を差さない」

 フェンネルが私を嗜める。こういうところはお坊っちゃまである。

 私は手を戻しながら、話を続ける。

 「よく考えたら、今まで私が直接狙われたことなんてないんだよね。マルコシアスの時も、私の前に挑戦した人も何人かいるっぽかったし。竜国側もルシルフリート様なんかは私と普通に接してくださってたし」

 私の言葉に、フェンネルは頷く。

 「……ただ、竜国がこちらに手を出そうと考えているのが、私とかのせいなんじゃないかなって思ってるだけ。実際、この国に他に恨まれるようなことなんてないでしょ?長いこと交流もなかったらしいし。あと前の主が直接殺されてるから、警戒してるだけで」

 「君の言うことは尤もだね」

 フェンネルは慎重な面持ちで頷いた。

 「杞憂なのかな〜?」

 「用心するに越したことはないんじゃない?」

 困った顔でそう言った私に、フェンネルはそう返した。

 私はそこであることを思い出して、彼にも共有する。

 「あぁ、でもそうだ!竜国の国王、どうやら今は病気らしいんだよね」

 「そうなのかい?それだと、マルコシアスを操るほどの気力があるかどうか……」

 フェンネルは手を顎に当てて考える。

 「うん、ルシルフリート様が言ってたから間違いないよ。嘘ついてたりしなければの話だけど。……だからもしかしたら、向こうにも裏切り者とか、国王の意思に従ってない人がいたりするのかも」

 私は声のトーンを落としてそう言った。

 「その可能性も視野に入れておいた方がいいかもね」

 フェンネルもそれに頷く。

 「じゃあ伝えたかったことは全部言えたし、私そろそろ帰るね」

 私が椅子から立ち上がると、フェンネルが慌ててそれを引き留める。

 「え!?待ってよ!言いたいこと言うだけ言って終わり?僕にも付き合ってよ!」

 そう言われれば、無理やり帰ることもできない。

 私は「仕方ないな……」とため息を吐いて、日が暮れるまでの時間彼との魔法や薬学の研究に付き合ってあげた。

 やれやれ、という態度を取りながらも、こういうことができるのは私としても本望なので文句はなかった。気が済むまで楽しい時間を過ごし、帰る頃には日が沈んでいた。

 「遅くなっちゃうな。そういえば飴買ってきてって頼まれたんだ。フェンネル、飴持ってない?」

 「あるにはあるけど……」

 彼はそう言うと、引き出しを開けて棒付きキャンディを一本渡してくれた。

 これはある人物にもらった、超すごい飴ちゃんなんだよ〜。貴族みたいな偉い人しか食べられないんだから!とか言ってなんとかイグナルスを誤魔化そう。

 まぁ、実際高級なものだろうから嘘ではない。

 「じゃ、フェンネル。今日はありがとう。また来るよ」

 「あぁ。君との時間は楽しいからね、ぜひまた」

 私が王宮を出ると、いつのまにか手配されていた馬車が私を待っていた。

 私は馬車に乗り込んで、貴族街の出口を目指して出発する。

 フェンネルと話せたことで、自分の中にあった混乱した気持ちをだいぶ落ち着けられた気がする。

 ……さて、このことをフィデリスに伝えるべきかどうか。もし向こうがホントに私を狙っていたら、この先きっと彼も巻き込まれることになる。

 ……でもなぁ。

 私は馬車の窓から外の流れていく景色を見ながら、小さくため息を吐いた。

二人の会話は書いてて楽しかったです。

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