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竜の少年との出会い

 先に攻撃を仕掛けてきたのは向こうだった。

 それはそれは竜らしく、口から炎を吹き出す。私はそれを見て悲鳴を上げた。

 「ぎゃーっ!待ってやめて!資料と本が燃えるっ!」

 私は大きめのバリアを出して私たちとそれより後ろにあるものを守る。

 「フィデリス、どうしたらあの子、落ち着かせられるかな?」

 私は横にいる彼にそう尋ねる。

 彼は竜の方を見据えながら、難しい顔で答えた。

 「あの者が何故怒り狂った様子なのか、その訳を本人から聞くことができれば、解決できるかもしれぬが……」

 しかしあの様子では難しいだろう。私も竜の方を見て思った。

 「まずは多少痛めつけてからの方が良いのでは?」

 「うぅ……」

 フィデリスの言葉に私は唸る。

 気絶でもさせて大人しくなってもらった方がいいことは分かる。ただなぜずっと封印されていたのかも分からないまま、力加減を間違って殺してしまいでもすれば大変だ。

 「……ねぇ、なんか弱点とかないの?ここに触れたら一瞬で大人しくなる場所とか」

 私は冗談半分でそう尋ねたが、フィデリスはそれに苦い表情を浮かべる。

 それを見た私は、少ししてからハッとした。何を竜相手に竜の弱点を聞いているのだろうか。あなたの弱点が知りたいと本人に尋ねているようなものだ。

 「あぁ、ごめん!気にしないで!冗談冗談」

 手を顔の前で振りながら謝る。が、フィデリスはそれに対して口を開いた。

 「……角」

 「へ?」

 フィデリスの小さな呟きに、私は間抜けな声を出す。

 「角だ。竜は角を触られるのが苦手なのだ」

 フィデリスはそう言った。私はそれを聞いてポカンとしながら、つい彼の頭の辺りを見てしまう。

 ……そっか。だからいつもしまってるのか。

 一人でに納得している私をフィデリスが若干引いた目で見ていた。

 「じゃあ角をツンってしてくればいいんだね?」

 私は意識を強制的にフィデリスから封印されていた竜の方に向けて言った。

 「そう簡単ではないだろう。弱点故に、守りも堅い」

 彼がそう言った頃、しばらく攻撃を仕掛けてきていなかった竜が、再びこちらに向けて攻撃を始める。

 次の攻撃は風の刃と大きな岩の塊だった。風の刃はバリアで防いだらその場で消えていくが、岩の塊はその場にしばらく残る。弾かれた後に床に落ち、傷をつけた。

 あんまり長いこと戦ってたら、屋敷が崩れそう。早いとこなんとかしなきゃ……!

 「……それにしても、すでに水、炎、風、地で四属性だよ。体紫色だから闇属性も持ってそうだし、もしかしてこの子すごいんじゃない?」

 私がふとフィデリスにそう話しかけると、彼も頷いた。

 「まあ、竜だからな」

 彼の言葉に、そういうものなのか、と少し驚く。

 確かに彼も当たり前のように全属性を持っている。全属性持ちが希少と言われながらも、私がそれをあまり実感できていないのもそれが原因だ。“家族″が増えていくに連れ、だんだんと実感は湧いてきたが。

 リンネは炎、水、風、光の四属性しか持っていない。ノーラは水、地、風の三属性だ。この二人が、この世界では一般的とされるくらいの持っている属性の数だ。

 ジークは特殊で、たった一つ、地属性しか持っていない。こういう者が染めた魔石は綺麗に一色に染まるため価値が高いとされている。また、その属性を司る神に寵愛を受けた者として、称賛される傾向にあるらしい。

 そしてオリヴィエの場合は、闇属性を除く六属性を持っている。エルフは基本、闇属性を持つことはないため、多くの者が五属性、または六属性を持って生まれてくるそうだ。このくらいの属性を持っている者は、魔法の才があると言われ優秀な者になることが多いらしい。

 そして、世界にほんの一握りしか存在しないのが全属性持ち。……らしいが、そのほんの一握りが自分なのですごさがよく分からない。

 ……まあ私はこの世界の人間じゃないし、例外だろうけど。

 「……とにかく、角を触りに行かなきゃ」

 強引に話を戻し、私はおかしな決意を口にする。

 「触るだけでなくへし折るくらいの方が確実性があるぞ」

 「それはちょっとかわいそうだから!ツンって触ってみて、効果がなかったら別の方法を考えよう」

 フィデリスの言葉に私はそう返した。ただでさえ弱いところをへし折るなんて、相当痛い思いをすることになるはずだ。

 「……ふむ、そうか?角は折れてもまた生えてくるが」

 「そういう話じゃないの」

 私は魔導書を構え直し、竜と向き合う。

 「私はあの子の方に行くから、その間気を引いてくれる?」

 私が頼むと、フィデリスは頷いた。

 彼は竜の方に水の塊を飛ばす。竜の意識がそれに惹きつけられたのを確認してから、私はそっと動き始めた。

 水の塊は竜に当たる前にパッと弾けた。あの子を傷つけないで欲しいという私のお願いをしっかり叶えてくれているようだ。

 それにしても綺麗な魔法。私もあんな感じで水遊びしてみたいな。

 そんなどうでもいいことを考えつつ竜との距離を詰めていたのだが、そこで一度気づかれてしまう。

 「あ、ヤバっ」

 「ミズキ!」

 私は咄嗟にバリアを出し、そしてそれを竜の方に押し出す。盾に押されて、竜は体を反対側に向けた。

 うん、防御こそ最大の攻撃。……あれ、逆だっけ?

 再びフィデリスの方を向いた竜に、彼が再び魔法を使って気を引く。その隙に私はピョンっと背中に飛び乗った。

 私が背中に乗った瞬間、竜が激しく尻尾を振り出す。

 ……うん、そりゃ気づかれるよね。

 どうやらもうフィデリスの魔法でも気を逸らせないようだ。

 「ミズキ!大丈夫か!」

 下にいるフィデリスが私を心配して声をかけてくる。

 「だい、じょう、ぶ!」

 私は振り落とされないように必死に背中にしがみつきながら、角の方に手を伸ばす。

 背中を少しずつよじ登っていき、ようやく、角に手が届くようになった。

 竜はそれに必死に抵抗し、さらに暴れる。

 「ごめんね!」

 私はそう謝りながら、指先で竜の角にツンッと触れた。


 「うわぁ!?」

 角に触れた瞬間、竜の体がビクッと反応したのが分かった。

 そして次の瞬間には、私の足場だった竜の巨体がどこかに消え、私はそれなりの高さから床へと真っ逆さまに落ちかけた。

 ギリギリのところでフィデリスが受け止めてくれたことで、私は床に尻もちをつかずに済む。

 「無事か」

 「うん、平気……。えっと、下ろしてもらえる?」

 またしてもお姫様抱っこをされることになってしまった私は、恥ずかしさからそう申し出る。今回は彼もすんなりと私を下ろしてくれた。

 「ところで……、あの竜はどこに行っちゃったの?」

 私がさっきまで竜がいた場所を見つめながらそう尋ねると、フィデリスはそこから斜め下を指差して言った。

 「そこだ」

 私は彼の手の動きに合わせて下を見る。そこで、思わず目を見開いた。

 「……え!?」

 「んん……、なんだ貴様、うるさいぞ」

 私の悲鳴に、幼い少年の声がそう答えた。

 さっきまではいなかったはずの謎の人物が、床に座り込んでいる。紫色の短い髪に、フィデリスのような謎の布を巻きつけたファッションの少年。

 「えっと……、どちら様?」

 私が尋ねると、彼はムッとした様子でこちらを睨む。

 「まずは貴様が名乗るべきではないか?」

 「あ、ごめんなさい。私はミズキ」

 私は、竜ってみんなこんな感じで尊大な口調で喋るものなのかな、と考えながら、素直に自分の名を名乗る。

 「ほぉ……。で、そっちは?」

 今度は顎でフィデリスの方を示して言った。

 フィデリスは厳かな感じはあるけど別に態度が悪いわけじゃないな、と思いながら、私はフィデリスの方を見る。

 彼は不機嫌そうにしながらも、素直にそれに答えていた。

 「……フィデリスだ」

 「ああ、貴様が」

 その反応に、私は引っかかりを覚えて尋ねる。

 「彼を知ってるの?」

 「質問は一つまでだ」

 少年はキッパリとそう言った。今度は私が思わずムッとしてしまう。

 とっつきにくい……。

 「イグナルス。これが俺の名前だ」

 少年は胸を張りながら、自分の名前を教えてくれた。

 「へぇ……」

 私がそれに頷いていると、彼はまたムッとしながら、私にビッと指を差してきた。

 「何かもっと、感想はないのか!」

 「えっ?えっと、変わった響きだね、とか?」

 私が思いついたことを口にすると、今度はフィデリスの方に指を向ける。

 「そいつだって変わった名前だろうが!」

 「えぇ、それはそうだけど……」

 私はどうしたらいいのか分からず頰を掻く。

 「それにお前も!」

 彼はまた私の方に指を戻した。

 う〜ん、なんなんだろ、この子。さっきの竜……なんだよね?

 その頃、部屋に低い声が響いた。

 「……おい」

 その声に、私とイグナルスは思わずビクッと肩を震わせる。

 「そろそろいい加減にしろ。其方はその角を、今度こそへし折られたいか?」

 「ヒィッ!」

 私の目の前で仁王立ちしていたイグナルスは、フィデリスの声に悲鳴を上げた後、その場に跪いた。

 「早く次の質問に答えろ。何故先ほど我を知っているような口ぶりだった」

 フィデリスの声に焦った表情を浮かべながら、イグナルスは正直にその問いに答えた。

 「そ、それは……。ミネルヴァが、貴様の話をよくしていたからだ。俺の体を造る時参考にしたとか、貴様のサンプルによって俺の体の一部が造られてるとか……」

 彼のその答えは、私たちにとってとても衝撃的なものだった。

 「つ、つまり、魔法使いさんがあなたを造ったの!?」

 「あの時我のサンプルを求めたのもこのため……」

 そこで私は、ふとあることに思い至った。

 ……もしかして、魔法使いさんが殺されたのって、フィデリスのことが理由な訳じゃないかも……?

 もちろん、それが原因の一つである可能性は、未だ否めない。ただ、それ以上の大きな、竜国にとっての罪を、魔法使いさんは犯してしまっている気がする。

 私はこの屋敷の前の主に思いを馳せながら考える。

 竜とは、偉大な種族だ。それこそが、竜国の誇りであると聞いている。

 そんなものを模倣して、魔法使いさんは竜を人工的に造り出してしまった。これが、竜国の王の怒りを買ってしまったのではないだろうか。

 ……どちらにせよ、ここでこのことを話すわけにはいかない。フィデリスにも魔法使いさんの私室に残されていた残滓の件はまだ話していないし、イグナルスも自分の母のような存在が死んだという事実は知りたくはないだろう。やがて、それを知る日は来てしまうだろうが。

 「……ミズキ?」

 「えっ、あ、どうしたの!?」

 いつのまにか、考え込んでしまっていた私の目の前に、フィデリスの顔があった。覗き込むようにして至近距離に迫っている顔に気づき、私は動揺する。

 「何やら考え込んでいる様子だったが」

 「えっ?あぁ、どうやって造ったんだろって考えてただけだよ。気にしないで」

 私はフィデリスから目を逸らすと、イグナルスの方を見る。

 「それでこの子……、どうしよっか」

 「この子ではない!もっと敬え!」

 ギャーギャー騒ぐ彼を無視しながら、私は考える。

 「もう一回封印した方がいいのかな……」

 私がそう呟くと、彼は途端に騒ぐのをやめ、私に縋るような目を向けてきた。

 「ま、待ってくれ!それは嫌だ!せっかく出られたのに!」

 その目には、確かな恐怖が宿っていた。

 こんな目を向けられながら容赦なくまた封印するなんて、そんな鬼みたいなことできない……。

 「……じゃあ、この屋敷で一緒に暮らす?その場合、今みたいな傲慢な態度は改めて、他のみんなと協力しながら生活してもらうことになるけど」

 「……っ、そうすれば、封印されずに済むのか?」

 私はその問いにコクリと頷く。

 「……分かった」

 「待て」

 イグナルスは渋々頷き、私は密かに新しく仲間が増えたことにワクワクしていた。が、そこにフィデリスが口を挟む。

 「まだ我は納得していない」

 「何故貴様の承諾が必要なんだ?」

 イグナルスは生意気な口調でそう言ったが、言っていることは合っている。一応今の屋敷の主は私だし、なんならフィデリスはこの屋敷に住んでいない。

 「そ、それは……」

 フィデリスは口籠る。

 「……あ、もしかして、あなたも一緒に住みたくなっちゃった?いつでも歓迎するよ。部屋は余るほどあるし」

 私は手をバッと広げてそう言ったが、彼は頷いてくれなかった。

 「そういうことではない……」

 フィデリスはそう言うと、不機嫌そうな顔で黙り込んでしまった。私はそれに訳が分からず首を傾げる。

 ただ唯一、イグナルスだけが、その状況を理解したようにパッと顔を上げる。そして、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。

 「ほぉ〜、なるほどな……」

 「何がなるほどなの?」

 私は彼にそう尋ねたが、彼はニヤニヤするだけで答えてくれない。

 フィデリスはそれに若干青ざめた顔をすると、慌てたようにこう言った。

 「分かった、ここに住みたいなら住めばいい。ただ、絶対にミズキに手出しはするな。したら今度こそ……」

 フィデリスが鋭い目つきでイグナルスを睨む。しかしその目線に、イグナルスは全く怯えることはなかった。

 「手出しっていうと……」

 イグナルスはそう言いながら、私の方へと近づいてくる。

 そして滑らかな動きで私の手を取ると、その甲に軽く口付けた。

 「こういうことか?」

 それに、私はキョトンとする。

 あ、そういうことなの?寝首を掻くとかそういう意味だと思った。

 私は多少ドキドキはしながらも、そんなことを考えていた。

 対してフィデリスは、それにわなわなと震えていた。

 「……やはりここで其方の角をへし折る」

 「お、落ち着いて!?」

 私は慌てて彼を宥めようと近づく。

 しかし彼は近づいてきた私の手を取ると、突然自分の服でゴシゴシと拭い始めた。

 「よく洗った方がいい」

 「なんか失礼だよ、イグナルスに」

 私は呆れたが、その後に向けられたフィデリスの熱を帯びた鋭い目を見ると、何も言えなくなってしまった。

 ……どういう目なんだろ。やっぱり私、まだまだ彼のことを理解できてないみたい。

 私はフィデリスの元を離れ、再びイグナルスの方へ向かう。

 「じゃ、あなたにこの屋敷を案内してあげるね。あっ、でもその前に、他のみんなを迎えに行かなきゃ」

 私はイグナルスに手を伸ばす。

 「ついてきてくれる?」

 「分かった」

 彼は私の手を取って頷く。

 こうして新しく増えた仲間と共に、私たちは研究部屋を出て屋敷の外へと向かった。

この話を書く直前まで予定のなかった新キャラの登場です。

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