問題だらけの魔法薬作り
その後、フィデリスにはリンネとオリヴィエに時間がかかってもらうことを伝えに行ってもらった。そして私は今度こそ、ちゃんとした薬草スープを作るために、もう一度鍋と向かい合う。
鍋の中で薬草を煎じている間、暇になった私は思いついた。
……ついでに薬も今作っちゃおうかな。
私は部屋に積まれた本の中から、魔法薬学の本を探し出して持ってくる。
薬草スープは、民家でも風邪を引いた子供に母親が作ったりと一般的なものとして世間にも浸透しているが、魔法薬学は違う。もっと専門的なもので、魔法使いや貴族の薬師のみが習得できるものだ。
理由としては高度な教育を受けたものでないと理解が難しいこと、それから、豊富な魔力量が必要とされることが挙げられる。
……といってもまあ、魔法はホント仕上げに使うくらいなんだけどね。しっかしその魔法一回が、魔力を食うんだよね……。
私は本をめくりながらそんなことを考える。
そしてようやくお目当ての薬の載ったページに辿り着き、私は細かくそのページに書かれたことを読んでいく。
……うん、この薬なら。
私は立ち上がって薬を作るのに必要な素材を棚から取り出していく。ここの素材の種類の豊富さにはホントに助かっている。今まで、これがない!に直面したことがない。
私は一度鍋を確認する。
まだ結構時間かかりそうだね。同時進行みたいな器用なことってあんまり得意じゃないけど、頑張るよ!
そうして薬の調合に取り掛かり始めてから約数分後、私はすでに壁にぶつかっていた。
別に作業が難しくてできなかったとかいうわけではなく、どちらかというとそれ以前の問題だった。
薬に使う薬草たちも煎じなきゃいけないなんて!鍋足りないじゃん!
私は刻み終えた薬草たちを見て考える。
鍋、鍋……。あっ、食堂にならある!
料理用の鍋を薬の調合に使うのはちょっとどうかとも思うのだが、ただでさえ今煎じている薬草のせいでオリヴィエを待たせているのに、これ以上時間をかけるわけにもいかない。
仕方ないね。鍋はまた新しく変えばいいし。お金は……確かあったはず。最近外出てないから収入ないけど。
春になればまたお金を稼ぐ機会もあるはず、と自分に言い聞かせて、私は鍋を取りに食堂へ向かう。
どの鍋がいいかな〜?一番綺麗なのは料理用に取っときたいから却下だけど……。
私は食堂で鍋たちを睨みながら考える。
一番ボロボロのやつでいいかな?ああでも、そのせいで薬が上手く作れなかったら困るし……。
色々考えた末に、私は二番目にボロボロの鍋を選んだ。このくらいが丁度いいだろう。
鍋を持って部屋に戻ると、私は刻んだ薬草を鍋に入れていく。いつもの鍋よりは小さめだが、このくらいでも今回使う分の薬草は問題なく収まる。
よっし、今度こそ!……って、ああああ!!どうやって火をかけよう!?
部屋にいつもある鍋は五徳のような火をかけるスタンドがついているのだが、それは一つしかない上に今回の鍋にはサイズが合わない。
食堂で煎じちゃえばよかった……。かといって今煎じてる薬草たちを放置するわけにもいかなかったし……。
問題が多すぎて諦めたいと思ってしまうが、そういうわけにもいかない。
……落ち込んでる暇はない!私は魔法使いなんだから、魔法でなんとかしなきゃ!
そう思いながら、私は前に手をかざして唱える。
「ファイア」
すると、魔法によって現れた炎が宙に浮かんだままメラメラと燃える。オリヴィエを寝かせている部屋を暖めるのに使っていたのと同じだ。
この炎で、鍋を温める……!
私は炎の上に鍋を置く。しかしただの炎なので、安定性は皆無だ。自分で炎の形を調整しながら、鍋を支えなくてはならない。
魔力は十分にある。確かにちょっとさっき使いすぎたかなとも思ったが、案外すぐに回復した。
この炎を維持するのだって、そんなに魔力を使うわけではない。ただ……。
このまま薬草を煎じている数時間の間、ずっとこうやって気をつけながら炎を調節しなきゃいけないなんて、疲れちゃうよ!!
とんでもなく長い年月、責務を果たすために戦い続ける戦士の気分だ。小説かなんかの登場人物ですか?まぁ、実際はもっと大変なんだろうけど。
……とにかく、こんなの無理。今はまだ平気だけど、この先ずっとこれが続くと思うと気が滅入る。
「うう、助けてフィデリス〜!」
私のそんな叫びに合わせて、ネックレスが光を放った。
わお、マジ?本気で助けてほしかったわけではないんだけど。
青白い光を放っているネックレスを見ながら、私は思った。
確かに本音を言えば助けてほしいとも思うけど、彼に迷惑をかけるのは嫌なのだ。こんなことで彼の手を煩わせたくはない。
……キャンセル機能とかないかな?
そんなことを思っているうちに、あっという間にフィデリスが駆けつけてきてしまった。
「どうした!?」
彼も私が助けを求めるなど、きっと余程のことが起きたに違いないと思ったのだろう。しかし彼の目に映ったのはキャンプでもするかのように火にかけた鍋を見守る私の姿だった。
「ああ〜、えっと……。ちょっと疲れたなあ、困ったなあって思ってあなたの名前を呼んだら、ネックレスが光っちゃって……。ごめんね?」
私は困ったように頬を掻きながら言った。それにフィデリスは明らかにホッとした表情になって答えた。
「そうか……。それで、何に困っているんだ?」
彼の問いに、私は目の前の炎を指差して言った。
「この炎を調節するのが大変で。でも鍋を温める道具が他にないんだ」
「なんだ、そんなことか。なら、我に任せて其方は休んでいるといい」
彼はあっさりとそれを請け負い、私の代わりに鍋を温め始めた。
申し訳ないなと思いながらも、少しの間だけ彼の好意に甘えることにした私は、手持ち無沙汰になったため、大きい方の鍋を見に行く。
う〜ん、まだだね……。暇になっちゃった。何しよう?
私は再びフィデリスの方に行き、彼の隣に座る。
「大変でしょ?」
「いや、そんなことはない。仲間たちと生活していた時にも、こういうことはよくやっていたからな」
私の言葉に、彼はそう返した。ここでいう仲間とは、彼の家族である白竜たちのことだろう。
「あなたは魔法が上手だね」
「そんなことはない。其方の方が、たくさんの魔法を知っているのだから上だろう」
私たちはそんな会話をしながら、揺らめく炎を見つめていた。
ボーッとしているうちに、あくびが出てくる。
「ふわぁ……」
「眠いなら、休んだ方がいいんじゃないか」
心配するようにそう言ったフィデリスに、私は首を振る。
「ダメダメ!私が薬を作るんだから!」
しかし眠気には逆らえず、またあくびが出る。
「だが、まだ何時間もかかるのだろう?我は見ておくから、其方は……」
彼の言葉に、私はあくびを必死に堪えながら反論する。
「さっきあなたは私が自分を蔑ろにするとか言ってたけど、あなたも同じじゃない!」
そう言った私に指をビッと差されたフィデリスは、一瞬キョトンとする。そしてすぐに私に返してきた。
「其方が自分を蔑ろにするから、我がそれを代わりにやってやろうとしているのだが?」
「あれ?そっか。……んん?なんかよく分かんなくなってきた……」
彼の言葉がなんだかそれっぽく聞こえて、私は反論できなくなる。そしてもう一度、あくびをした。
「休め」
フィデリスにそう言われて、私は大人しく目を閉じる。
そして隣にいる彼を、大きなクッションだと勘違いしたまま、私は眠りについた。
「おはよう」
目を覚ますと、真っ先に視界に入ってきたのは、そう挨拶するフィデリスの顔だった。
私は彼の顔を見て何度か瞬きした後、自分の腕を見る。何かを掴んでいるな、と思ったら、どうやら私は寝ている間に、フィデリスの腕にしがみついていたらしい。
「ごめん!ごめんね!」
私は慌てて手を離し、彼に謝る。彼は「気にするな」と言ってくれたが、その表情はなんだか落ち込んでいるように見えた。やはり、私に掴まれていたことが気に食わなかったのだろうか。
「薬草はどんな感じ?」
コホン、と咳払いをしてから私はフィデリスに尋ねる。
「ああ。丁度いい頃合いだろう」
私はまず先に大きな鍋の方を見に行く。
うん、いい感じ。
私は鍋の中を見てそう思い、薬草を取り出していく。チラリとフィデリスの方を見ると、彼は小さい方の鍋から薬草を取り出していてくれた。ホントに気が利く人である。
「スープはこれでオッケー。あとはちょっとトッピングしたら持っていけるよ。でも薬の方はまだだから……。ねぇ、これ持って行ってくれない?」
私がお願いすると、彼は頷いてくれた。
私は棚から器を持ってきて軽く拭いた後、鍋の中身をよそう。その後、別の薬草をパラパラとスープの上にかけ、器をフィデリスに渡した。
「其方が直接渡さなくていいのか?」
フィデリスが器を受け取りながら私にそう尋ねる。
「うん。私は薬を作るから。効いたかどうかは、後で薬を持っていく時に確認するし」
大丈夫だよ、と笑ってみせると、フィデリスは軽く頷いて部屋を出て行った。
……よし、私は薬の方を仕上げなきゃ。
薬草を煎じたら、次にいくつかの薬草をすり潰したものと混ぜ合わせる。
まず、棚からもう一つ器を取り出す。それから薬草を煎じてできたスープをよそい、あらかじめすり潰しておいた薬草を入れ、木でできた棒でかき混ぜた。
最後に、魔法をかける。ここが魔法薬を作る上で一番肝心なところだ。
とはいっても、特に呪文はない。ただ、今はまだ完全には混ざり合っていないこの素材たちを、まとめて一つの薬にするために魔法をかけるだけなのだ。
単純なようでいてこれが結構難しいのだ。もしかしたら、魔法を使う時の魔力の方向を定めるための呪文が、ないが故かもしれない。
でも大丈夫、私にはできるんだからね!
私は魔導書に手をかざす。そして、今はまだ薬草スープと大差ないものが入れられた器に、魔力を流していく。
一つにな〜れ!
私は頭の中でそう念じた。魔力を流して魔法をかけたら、目を開く。
……うん、うまくいった。
私は完成したラメのように輝くスープを持って、オリヴィエの待つ部屋へと向かった。
約一ヶ月ぶりの投稿です。お待たせしました。
また二日に一回のペースで投稿していく予定です。頑張ります。




