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竜国の王子様への手紙

 私は引き続きガゼボの下の椅子に座りながら、シャロンティーヌ様が手紙を書くのを見守っている。

 「なんて書いたらいいのでしょうか……」

 「無理にいつもと変えて書く必要はないと思います。いつも通り、私に出したのと同じような手紙でいいのではないでしょうか?」

 ペンを手にしたまま考え込む彼女に、私はそう言った。

 それを聞いた彼女は、「そういうものでしょうか……?」と言いながらも、ペンを走らせ始める。

 やはり教育の賜物か、彼女はスラスラと綺麗な文字で書き綴っていく。どこからこんなに言葉が出てくるのだろうか。

 私なんて、手紙を書こうとしたら三十分くらい何書くか迷うけどね。

 私がぼんやりそんなことを考えていると、ふいにシャロンティーヌ様が手を止めた。

 「あの……」

 シャロンティーヌ様が遠慮がちにそう聞いてきた。

 「どうしました?」

 私はお菓子に手を伸ばそうとしていた手を慌てて引っ込めてそう返す。

 シャロンティーヌ様はペンを手にしたまま顎に手を当て、考え込むポーズを取りながら尋ねてきた。

 「招待は何日後にしたらよいでしょうか?一週間後?」

 それはちょっと急すぎるんじゃないかな!ルシルフリート様も困ると思うよ!

 私は彼女の言葉に心の中でそう叫びながら、平静を装って「そうですねぇ……」と言った。

 う〜ん、もしかして、これが普通なのかな?この世界では招待はギリギリにするものなの?

 私はチラリと、レターセットを取ってきてからはずっと側にいるメイドさんの様子を伺う。

 表情の変化が乏しく、よく分からないが、困っているように見える。やっぱりシャロンティーヌ様がおかしいのだろう。だが彼女の立場上、そう強くは言えないのかもしれない。

 ここは私が……!

 そう決心して、私はシャロンティーヌ様に声をかける。

 「ちょっと急すぎるのではないでしょうか。ルシルフリート様にもご準備やご予定があるでしょうし、せめて一ヶ月後くらいにした方が……」

 私の言葉を聞いたシャロンティーヌ様は、うるうるした目で私を見上げながら言った。

 「一ヶ月……?そんなに待たなくてはならないのですか?私、早く彼に会いたいのです……」

 おぉう、そう来たか……。これは確かに止めるのが難しいぞ……。

 私は眉を下げてこちらを見ながら、一刻も早く彼に会いたいのだという彼女を見て考える。

 このまま止めないと見たことも会ったこともないルシルフリート様が困ることになる。う〜ん、でも見たことも会ったこともないし……。

 別にいいか。断られたらその時考えればいいし。そうなればシャロンティーヌ様も譲歩するでしょ。

 シャロンティーヌ様の潤んだ瞳と必死の訴えに絆された私は、彼女に言った。

 「それなら仕方ないですね。一週間後で出しましょう!」

 その言葉にシャロンティーヌ様は嬉しそうに微笑み、その後ろのメイドさんはあんぐりと口を開けて、ショックを受けた顔をする。

 ……ごめん。でも私じゃこのお姫様を止められないかな。私、情に脆いの。

 シャロンティーヌ様はウキウキしながらまた便箋にペンを走らせる。そうしてしばらくしないうちに、彼女は手紙を書き上げた。

 「できました!」

 そう言った彼女に手紙を渡される。確認に読んで欲しいということだろう。

 私は手紙にザッと目を通す。特におかしいところや、誤字もないように見える。問題があるとすれば、例の招待の日時くらいだ。

 「はい、問題ないと思います」

 私がそう言うと、シャロンティーヌ様はホッとした表情を浮かべた。

 私が手紙に目を通している間に、メイドさんが用意していた道具を使って、シャロンティーヌ様は便箋を入れた封筒に封をする。

 シーリングスタンプだ……。私もやってみたいんだけど、機会がないんだよね〜。

 シャロンティーヌ様は手紙をメイドさんに渡して、「届けてきてちょうだい」と言った。まさか流石に彼女が直接行くとは思えないので、王族専用郵便配達員でもいるのだろう。

 「お手紙はどれくらいで向こうに届くのでしょう?」

 私が尋ねると、シャロンティーヌ様は少し考えてから答えた。

 「向こうに届くまでで一日くらいでしょうか。だからお返事は、どんなに早くても二日後ですね」

 私は彼女の答えに頷きながら考える。

 で、そこから私の元にルシルフリート様が招待に応じたかどうかの手紙が来るのに一日……。はぁ……、またギリギリで準備することになりそうだね。念の為今日からできるものは準備しとこう。

 それからしばらく、またお茶を楽しんだ。話題はもっぱら、シャロンティーヌ様の恋バナだ。

 楽しいのだが、いつ帰ると切り出せばいいのか悩んでいると、メイドさんがシャロンティーヌ様に耳打ちをした。それを受けた彼女が、「そろそろお開きにしましょうか」と言ってくれた。

 その後、一度メイドさんがまたいなくなり、すぐに帰ってきた。手には袋を持っていて、私はそれを見て中身を察する。

 同じく察したシャロンティーヌ様が、ハッと思い出した表情をした後、私に言った。

 「これは、今回の報酬です。前払いにしておきますね」

 私はずっしりとした重みのそれを受け取って、失礼を承知でチラリと中を見た。そこには、私のやる気を引き出すのに十分な金額が入っていた。

 よっし、全力で頑張ります!

 「そういえば……、あなた宛のお手紙はどうやって送ったらいいのでしょう?またエレーナに頼むのも申し訳ないわ」

 やる気に燃えている私に、シャロンティーヌ様がそう言ってきた。それも確かにと思いながら、私はカバンに金袋をしまうと、代わりに紙とペンを取り出した。

 「少々お待ちください」

 私はそう言いながら、紙にペンを走らせた。このペンはただのペンではなく、魔力が籠った特殊なインクの詰まっているペンだ。

 そのペンを使って、紙に完璧な円を描き、記号を描き込んでいく。それが一つ出来上がったらもう一枚紙を出して、私は短い詠唱をした。

 「コピー」

 するともう一枚にも、全く同じ模様が描かれる。私はそれの一枚をシャロンティーヌ様に渡しながら言った。

 「これは転送の魔法陣です。この魔法陣に収まるものであれば、もう一枚の魔法陣の元に即座に送ることができます。これで私に手紙を届けてくだされば大丈夫です」

 シャロンティーヌ様は呆気に取られながらそれを聞いていた。ふと我に返ったようにハッとしてから、彼女は苦笑いを浮かべて言った。

 「やっぱり、あなたは魔法使いなのですね。ありがとうございます」

 確かにちょっと非常識な行動だったかもしれない。私は少し反省する。まあでも、これで問題が解決したのだからいいだろう。

 それから、帰るために玄関に向かうと、メラリッサ様の姿が見えた。

 「お帰りになるのね。またいらしてちょうだい」

 彼女は私に微笑みかけながらそう言った。

 「ありがとうございます」

 私は彼女にそう返しながら礼をする。

 帰り際に、シャロンティーヌ様に食べきれなかったお菓子をいくつかいただいた。リンネたちのお土産になるなと嬉しく思った。

 「本日はいらしていただき、ありがとうございました」

 シャロンティーヌ様がそう言った。

 「こちらこそ、お招きいただきありがとうございました」

 私もそれに跪いて礼をし、またすぐ訪れることになる城を後にした。


 城を出ると、またさっきと同じように馬車で貴族街の出口まで送られた。そうして貴族街から出て、馬車を降りると、見覚えのある人影が目に映る。

 「フィデリス!?まさか、ずっとここにいたの?」

 私は彼に駆け寄りながらそう言った。しかし彼はそれに答えることはなく、近づいてきた私を抱きしめた。

 「ふぇ!?えっと、ふぃ、フィデリス……?」

 驚きについ変な声が出てしまう。それから一気に恥ずかしさが押し寄せてきて、真っ赤になりながら私は言った。

 「ねぇ、ここ外だから!ちょっと、いや、かなり恥ずかしいから!どうしたの!?」

 恥ずかしい理由は単に外だからというだけではないのだが、私はとにかく必死に彼に訴える。

 しかし彼はさらに私をきつく抱きしめるだけで、離す気はないらしい。人が周りに少ないのが幸いだった。

 どうしようかと混乱している私の耳元で、彼が囁く。

 「良かった……」

 「え?」

 耳元で喋られると耳がくすぐったいのだが、彼の掠れて消えそうな声に、そんなことは言えなくなってしまった。

 「帰ってきてくれて、本当に良かった。我はずっと不安で……」

 彼がそう言ったのを聞いて、私は遠慮がちに彼の背に手を回し、抱きしめ返しながら言った。

 「言ったでしょ。私は強いから大丈夫だって。信じてなかったの?」

 「帰りが遅かった故……」

 落ち込んでいるのか暗い声で言った彼に私は言い返す。

 「でもあなた、やっぱりずっとここで待ってたんでしょ?そんな時間感覚狂ってる人に遅いって言われても……」

 「うっ、それは……」

 彼はそれに唸った後、ようやく私を離した。

 「顔が真っ赤だぞ」

 「当たり前でしょ!?急に抱きしめられたら誰だってこうなるっ!」

 不思議そうに言ったフィデリスに私はムキになって言った。

 はぁ、とため息を吐いてから私は赤い顔を手で覆うようにして彼を見上げる。

 そして、少し困り顔で笑いかけながら言った。

 「ちゃんと、帰ってきたよ」

 それを受けてフィデリスは少し目を見張った後で、穏やかに微笑んだ。

 「……ああ」

 私たちはしばらく見つめ合いながら、その場に流れる空気に浸る。そしてその後で、私は遠慮がちに切り出した。

 「それであの……、フィデリスには悪い話なんだけど」

 「なんだ?」

 少し硬い声でフィデリスが返す。私は彼が怒らないといいな〜と思いながら、彼に伝えた。

 「また一週間後、城に行かなきゃなんだ」

 「行かせたくない」

 「うっ、でも、王族の命だから……」

 だがそうは言いながらも、彼は私が城に行く前ほど、不安そうにはしていなかった。

 少しは彼に信頼してもらえたってことかな。

 私はそう思いながら、フィデリスとともに自分たちの家へと帰った。


 そして三日後、私の元に例の魔法陣で手紙が届いた。

 もう少しかかると思ってたな。ルシルフリート様はすぐに返事をしたってことか。

 まあ流石に一週間後では、断られるだろうと思っていた。しかし手紙に書かれていた彼の返事は、意外にもその逆だった。

 「ルシルフリート様は、招待に応じてくださるそうです。話していた通り、一週間後にルシルフリート様が我が城を訪れます。その際にはあなた様にも、城に来ていただきたく存じます。」

 それらの文章を読んで、私は驚いた。

 思ってたより、ルシルフリート様のシャロンティーヌ様への好感度高めじゃない?それともやっぱり、招待ってのはギリギリがいいのかな?

 とにかく、私はやっぱり二人をくっつけるためのハプニングと、それを起こすための魔法を考える必要があるってわけだ。報酬貰っちゃってるし、頑張らないと!

 私は再び湧き上がってきたやる気で準備を進め、それからあっという間に、約束の日になった。

シャロンティーヌ様の話はまだ続きます。あと三話。

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