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お姫様からの招待状

 急いで家に帰った私は今、自分の部屋の椅子に座って、手紙と向き合っている。

 アルカナに、街中で開くなと言われたことからも、差出人はあまり人に見られたくないと思っているのかもしれない。そう考えて、私は部屋で一人、この手紙を開封することにした。

 レターオープナーと呼ばれる手紙を開けたりするのに使うナイフで、手紙の封を切る。そして中から取り出した便箋は、綺麗な模様の描かれたものだった。

 私は手紙の下の方に書かれた差出人を見て驚く。そして、胸の高鳴りを感じた。

 シャロンティーヌ・ヴェリアールパレス。この国の名を名前に持つ者など、この国に限られた数しか存在していない。

 王族だ。この名前は確か……、お姫様だよね?

 記憶が正しければ、この国には今三人の王子と一人の姫がいる。名前までは把握していないが、この手紙の差出人のお姫様は確か、上から三番目で、私と同じくらいの年だったはずだ。

 そんなお姫様が、私に一体何の用だろうか。そう思いながら私は手紙を読んでいく。そこにはこう書かれていた。


 ミズキ様へ

 突然のお手紙、申し訳ございません。

 初めまして。私は、シャロンティーヌと申します。ヴェリアールパレスの第一王女です。

 この手紙は、私個人の私的なものとして書いておりますので、どうか気を楽にして読んでいただければと思います。

 今回、あなた様にお願いがあって、この手紙を書きました。

 あなた様の我が国への貢献は、我々王族もすでに存じ上げております。あなた様は、隠しておられるつもりかもしれませんが。

 街や農村、そして何より、我が国の大切な民たちを救ってくださったこと、私たちはとても感謝しております。近いうちに、私の父である国王からも、正式に招待が来るかもしれません。

 そんな偉大な魔法使いであるあなたに、私個人として頼みたいことがあるのです。申し訳ありませんが、今ここに書くことはできません。直接会ってお話ししたいのです。

 手紙に、城への招待状を同封しておきました。ぜひ一度、お会いしたく存じます。

 シャロンティーヌより


 読み終えた後、私は驚きと興奮で思わず飛び上がりたい気分になった。

 王族から招待されちゃったよ!お城に入って、お姫様に会えるんだよ!

 直後はこんな風に喜びに舞い上がっていたが、その後に不安が押し寄せてきた。

 あぁ、でも、私王族に会えるほどのマナーは身につけてないよ……。それに招待されてるのは私だけだし、誰かと一緒とか無理だよね?一人で行かなきゃだよね?どうしよう、やっぱ無理かも。

 しかし残念ながら、王族の招待は召喚に等しい。断ることなどできないのだ。

 命令だからね。逆らったら殺されちゃうかもしれない。あぁ……、心配になってきた。

 まあでも、不安は半分。楽しみな気持ちも半分ある。私的な招待と書かれているし、そんなに大変なことは要求されないだろう。

 それより、なんで私の正体バレてる?ミズキって名前の方は……アルカナだよね。これは口止めしなかった私も悪い。でも、どこで街を助けてるのが私だってバレちゃったのかな?

 要は、フードの救世主が私であることが、王族にはバレているということだ。王族だけならまだいいが、これがどこまで広まっているのか……。

 ……というか、王族に知られちゃうなら、尚更もっとかっこいい名前が良かったよ……。

 そんな後悔を今しても意味がない。私は思い出して、封筒の中に入っていたもう一枚の紙を取り出す。

 これが、招待状ね。日時が書かれてる。どれどれ……って、三日後!?急すぎる!

 随分と無茶振りをなさるお姫様だ。私が大体いつも予定のない暇人でよかった。

 ……こういう時って、菓子折りとかいるのかな?

 私はこの世界のマナーには未だ疎いため、一人で考えていても分からない。誰かに聞いてみようと思い、自分の部屋を出る。

 ロビーには誰もいなかった。私は扉を開けて外に出てみる。庭をぐるりと見渡すと、門の辺りで掃き掃除をしているオリヴィエを見つけた。

 私の“家族”の中で、一番礼儀正しそうに見えるのは彼だと、私は思っている。

 「オリヴィエ〜」

 私は少し声を張り上げて彼を呼んだ。その声に気づいた彼が顔を上げて、こちらにやって来る。

 「どうかしましたか、ミズキ」

 「あなたって、マナーには詳しい?」

 私の質問に、オリヴィエは訳が分からないという顔で答える。

 「はぁ、まあ、それなりには……。今度は一体何を企んでいるのですか?」

 彼の失礼な物言いにムッとしながら、私は彼にこう言った。

 「王族の、シャロンティーヌ様に招待されたの。こういう時って、何か持っていった方がいいものとかある?お菓子とか」

 「お、王族に招待!?」

 私の言葉に、彼は珍しく驚いた表情を表に出しながら言った。その後で「コホン」と咳払いをしてから彼は続ける。

 「特にないと思いますよ。あなたは招待された側なのでしょう?まあ、王族の場合は分かりませんが……。持っていってはいけないということはないと思うので、心配なら何か持っていけばいいかと思いますが」

 彼の答えに、私は「なるほど」と頷く。

 じゃあ何かお菓子を作って持っていこうかな……。あ、でも、手作りって毒とかを疑われて、貰ってもらえなかったりする?んん〜、分からない。

 私はこれも、オリヴィエに聞いてみた。

 「手作りお菓子ってどうかな?私じゃなくておばあちゃんのだけど」

 この質問には、少し考えてから、彼は答えを返してきた。

 「毒味はするでしょうし、今の王族がよほど警戒心の強い者たちでなければ、大丈夫でしょう」

 彼の答えに、私はホッとする。最後に、聞いておきたかったことをもう一つ、彼に尋ねた。

 「招待を受けたのは私だけだし、招待状も一枚だったから、私一人で行かなきゃダメだよね?」

 「まぁ、そうですね。送り迎えくらいならフィデリス様でもできるでしょうが」

 別に誰もフィデリスについてきて欲しいとは言っていないのだが、彼はそう言った。まあもし誰かについてきてもらうとしたら、私はフィデリスにすると思うが。

 私、そんなに分かりやすい?

 とにかく、これで聞きたかったことは聞けただろう。彼の知識にも問題はないはずだ。

 「ありがとう、オリヴィエ」

 私は彼に礼を告げて、屋敷の中に戻ろうとする。

 「いえ。ところで、招待されたのはいつなのですか?」

 私は彼にそう聞かれ、少し困ったように言った。

 「……三日後」

 「……三日後?」

 彼は自分の耳に自信がない、という反応をした。だが残念ながら、彼の耳は正常だ。

 ……うん、分かる。私も急すぎると思ったよ。


 それからその日の夕食の時、他のみんなにも城に行くことを伝えた。お菓子作りを任されたノーラは不安そうにも見えたが、王族に出せるものを作ろうと、やる気に満ちている。

 特にすることのないジークは、私を励まし、応援してくれた。ついでにいろんな家具や武器を見てきて欲しいとも言われたが、そんな余裕はたぶんない。

 次の日には、リンネに来ていく服を選ぼうと言われた。しかし家にある服はどれもそれなりに着古されていて、リンネにはよくないと言われてしまった。どうやら新しく服を買う必要があるようだ。

 ということで、リンネに言われたこともあり、その日のうちに街に買い物に行ってきた。買ったのはほぼドレスとも言える、丈の長いワンピースだ。装飾があまりなく、リンネには地味だと言われたが、いかんせん生地が高級なので、これ以上装飾が付いたら高すぎて買えなくなる。

 その地味なワンピースに、マルコシアス討伐で稼いだ金はほぼ持ってかれた。ちょっと悲しくもなるが、必要な投資だ。うん。

 そのまた次の日、いよいよ招待された日が明日に迫る中、オリヴィエに基礎的なマナーを教わった。リンネも、以前は街のそれなりの富豪に仕えていたこともあって、いくつかのマナーを教えてくれた。

 こうして三日間の間で、できる限りのマナーを身につけた私は、ついに城へと向かうのだった。


 まるで戦に出陣するかのような物言いだが、城は洋風の、子供の頃に憧れた絵本の中の世界のような場所だ。

 結局私は当日、楽しみな気持ちに不安が勝ってしまい、フィデリスに城の側までついてきてもらうことにした。

 「うぅ、ごめんね。でもやっぱり、どうしても怖くて……。何か失礼なことしちゃって、打首とかになったらどうしよう……」

 私はフィデリスの背中に乗りながら、そう弱音をこぼした。好きな人にこんなみっともないところを見られたくない気持ちもあるが、彼以外にこんなことを打ち明けられる相手もいない。

 私が不安そうにいうのを聞いた彼は、こう言った。

 「大丈夫だ。もし其方が処刑されるようなことになったら、王族を葬ってでも助けてやる」

 「それはダメだよ!?でも、ありがとう」

 いざとなったら彼が助けに来てくれる。そういうことだ。私はフィデリスに貰ったネックレスを握りしめながら、フッと笑う。

 「ちょっと安心した」

 「それなら良かった。……着いたぞ」

 そんな話をしているうちに、街に到着したようだ。いつもの場所で、彼の背から降りる。

 フィデリスは人の姿になって、引き続き私についてきてくれた。

 ちょっと予定より早く着きそうなんだよね……。大丈夫かな?

 そんなことを考えながら、街を歩いていく。しばらく歩いてから、私はふといつもと違うことに気づいた。

 ……なんかいつもより近くない?

 いつもなら私の少し後からついてくるフィデリスが、今日は私のすぐ隣を、手が触れそうな距離で歩いている。

 なんか恥ずかしくなってきちゃった!気づかなきゃよかった!

 私は心の中でギャーギャー騒ぎながら、フィデリスの横顔を見上げる。私の視線に気づいたフィデリスが、「どうした?」と首を傾げる。

 「あ、えと……。なんかいつもより、近いなぁって……」

 私は恥じらいながらそう告げる。その直後だった。

 横の道から現れた柄の悪そうな集団が、私に話しかけてきた。

 「おう、嬢ちゃん。随分いい服着てるじゃねぇか」

 私は魔導書の入ったカバンに手を触れながら、気づく。

 なるほど……。そういうことね。

 いつもよりいい服を着ていることで、こういう輩にも絡まれやすいわけだ。内心でどこかガッカリしながら、面倒ごとを起こさないようにとその場から走り去ろうとした。

 しかしその後で気づく。今の私の服装は、恐ろしく走るのに向いていない。

 あ〜、どうしよう。街中で魔法を使うのもなぁ……。

 私が目の前のガタイのいい男たちを睨みながら、考える。そんな私の後ろから伸びてきた手が、私の体をサッと掬い上げた。

 「すまない。行くぞ」

 フィデリスが私を抱えてそのまま大きくジャンプする。そして立ち並ぶ店の屋根の上に飛び乗って、その屋根たちを伝って走り始めた。

 「わぁっ!ありがとう。でも……」

 この格好は恥ずかしいかな!

 しかし助けてくれた彼には申し訳なくて言えず、満更でもなかったので何も言わないでおくことにした。

 今私は、いわゆるお姫様抱っこという状態で、フィデリスに運ばれている。彼の顔が至近距離にあって、恥ずかしさに顔が真っ赤になる。目線を少し落としても、今度は彼のはだけた胸が見えるのだ。

 目のやり場に困るって!今度絶対新しい服買ってきて着せてやるんだからね!

 私は心の中でそう叫んだ。


 ようやく貴族街の入り口に到着し、彼は屋根から飛び降りた。門番の騎士は上から突然現れた謎の二人組に驚き、思わず武器を構えそうになっていた。

 「どのようなご用でしょうか?」

 騎士の一人に近づくと、そう聞かれた。私はカバンから取り出した招待状を見せる。

 「シャロンティーヌ様の客人でしたか……。そちらの方は?」

 今度はフィデリスに目線を向けて、彼は言った。それに、私は答える。

 「私の付き添いです。でも、この先は入れないですよね……?」

 「ええ、残念ながら。この先に案内できるのは、あなただけです」

 彼の答えに少し肩を落としながらも、分かっていたことなのでそんなに落ち込みはしなかった。

 「じゃあフィデリス、行ってくるね」

 私は振り返って彼に別れを告げる。しかし彼は、私の腕を引いて引き留めた。

 「どうしたの?」

 私は彼を見上げながら尋ねる。彼の表情は不安そうに歪んでいた。

 彼は私の腕を掴んでいる手を、自分の体の方に引き寄せた。私と彼の距離が近くなる。

 彼は私の頬に手を伸ばしながら、言った。

 「行かせたくない」

 「ふぇっ!?」

 突然そんなことを言った彼に、思わず変な声が出る。

 「行かせたくない。もう誰かに、大切な人を傷つけられるのは、嫌なんだ……」

 彼がそう言ったのを聞いて、私は納得する。そして、彼を安心させるように微笑んで、彼に伝えた。

 「……大丈夫。この国の王族はそんな、悪い人じゃないと思うから。それに……」

 私は騎士たちに聞かれないように、フィデリスの耳元に顔を寄せて、小さな声で言った。

 「もしなんかあっても魔法で解決できるんだから。私はこの国で最強の魔法使いなんだよ?」

 彼の耳元から顔を離し、もう一度笑って見せる。彼は驚きに目を見開いた後で、私と同じように笑った。

 その後、私はフィデリスに手を振りながら、騎士の案内で貴族街から城へと送ってくれる馬車に乗り込んだ。馬車の中、私は心の中で唱える。

 大丈夫。フィデリスに、悲しい思いはさせない。……それにしても。

 私は今度は手で顔を覆いながら、さっきのことを考える。

 ……びっくりした。突然あんなこと言われるなんて。それに私も、あんな大胆な……。恥ずかしい!

 そんなことを悶々と考えている私には、門で私を見送った後のフィデリスがこぼした呟きなど、知る由もなかった。


 「ミズキ……。其方だけは絶対に、誰にも奪わせない」

城に到着する予定だったのに、着く前に一話終わりました。後半の恋愛シーンのせいですね。

重いフィデリスのセリフ書けてよかったです。

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