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討伐依頼とハプニング

 買い出しから一週間後、私はポーションの納品のために、また街を訪れていた。

 今日は一人だ。納品だけだし、付き添いはいらない。フィデリスにそう何度も送り迎えを頼むのも申し訳ないので、今日は一人でここまで飛んできた。

 ふふん、私の手にかかれば、屋敷からここまでフィデリスと同じくらいの速さで辿り着けるんだから。まあ、自分専用だけど。

 ポーションは冒険者ギルドに納品する。ここでは魔物討伐の依頼を受けられるだけではなく、こういった素材やポーションの納品の依頼もあるのだ。

 私の場合、主に納品の依頼を多く受けている。ただ、ここでもらえる報酬はそこまで多くない。伝手があれば、良質のポーションを高額で買い取ってくれる貴族の専属になれたり、騎士団お抱えの薬師になれたりするらしいが、あいにく私にそんな伝手はないし欲しいとも思わない。

 この世界に来てから私は、お金に関する執着がほとんどなくなった。初めのうちはもちろんあった。なければ生きていけないと思っていた。しかし今となっては、食材がほとんど自給自足でまかなえていたり、心惹かれるものに出会えなくて買い物をする機会が減ったりと、お金が必要な場面があまりないため、稼がなければと思うこともなかった。

 そんな今の私のお金の使い道といえば、“家族″たちへの贈り物である。リンネに服や小物を買い、オリヴィエに本を買い、ノーラにレシピを買い、ジークには仕事道具を贈る。フィデリスは欲しいものが特にないようだし、私の欲しいものは野外に生えてたりするので自分で採りに行ける。まあ、時々は服を買ったりするのだけど。

 あとは調味料や変わった食材の買い出し、それから外食代など。これらの買い物をするくらいなら、月に一度くらいの頻度で受ける素材やポーションの納品で稼げるお金で事足りるのだ。

 このように、金には困っていない私だが、時々使い余すほどの臨時収入が得られる。

 フードを深く被ってギルドに入り、受付のお姉さんにポーションを渡す。このあと検査などを行い、品質に問題がなければ報酬がもらえるのだが、それまで待っている必要がある。

 私は壁際のボードに貼られている依頼表の数々をぼんやりと眺める。

 あ!あれ、今私が欲しいなって思ってる素材を落とす魔物じゃない?急募って書いてあるけど、そんなに人気ないのかな?

 禍々しい見た目で、目がたくさんある狼のような姿。にもかかわらず翼が生えている。マルコシアスという魔物だ。名前は元の世界でも聞いたことのあるものなので、オカルト少女として知っている。

 強いから上質な素材が取れるのだが、なぜ急募なのだろうか。そう思ってボードに近づいてみると、小さくて読めなかった文字が目に入る。

 ああ、強いから誰も受けてくれないのか。

 この世界では魔物は上からS、A、B、C、D、Eのランクで階級分けされる。ちなみに冒険者ギルドに登録した冒険者たちも同じランク分けだ。それを指標に受ける依頼を決めるものが多い。

 魔物にも一応個体差はあるので、マルコシアスはAランクのものが多いが、このボードに貼られている依頼票に載っているマルコシアスはSランクのようだ。

 私がそれを見てしばらく考え込んでいると、ギルドの職員のお姉さんがこちらに向かってきた。

 「ミズキ様、検査が終わりましたので、報酬をお渡しします」

 「ああ、ありがとうございます」

 彼女に連れられて受付カウンターに向かう。お金の入った袋を受け取った後、私は彼女に話を聞いてみた。

 「あの、あそこに貼ってある急募の依頼票……。あの魔物について聞いてもいいですか?」

 私が指を差しながら尋ねると、お姉さんはコクリと頷いて説明をしてくれる。

 「あのマルコシアスは北の方に生息していて、近頃になって、農村の方に降りてきたんです。その際、人的被害が出ましたので、討伐の依頼が出されました。しかし、ランクが高く、Aランクの冒険者では力不足のようです。すでに何人かの冒険者が挑戦しましたが、皆依頼を達成できませんでした」

 私は彼女の説明を聞いて首を傾げる。

 「騎士団は?」

 「騎士団は今、遠征に向かっていると聞いています。それから、王族の皆様がそろそろアカデミーから帰って来られる時期なので……」

 騎士団の忙しい、運の悪い時期に出てきたってことか。それにしても王族がアカデミーから帰ってくるって何!?私すごく気になる。

 しかし私が今気にしなければならないのはマルコシアスの方だ。素材はちょうど欲しいと思っていたところだ。研究用に前に手に入れた分は使ってしまった。

 それに、私ならランクは足りてる。

 「あの、もしかして引き受けてくださるのでしょうか?」

 期待の眼差しを向けてくるお姉さんに、私は頷く。

 「ちょうど、素材が欲しいなって思っていたところで」

 「ありがとうございます!ミズキ様はS……」

 彼女がそこまで言いかけたところで、誰かがその言葉を遮る。

 「おい嬢ちゃん、あの魔物はあんたみたいなか弱いやつに倒せるようなもんじゃねぇよ」

 声の方を振り向くと、体のあちこちに包帯を巻き、松葉杖をついている男がいた。がっしりとした体つきで、強面だ。私は思わずビクッとした。

 だがこの様子と、私に話しかけてきたことから察するに、マルコシアスの討伐に失敗した人だろう。

 「えっと、私は……」

 なんと答えるべきか、私は口籠る。

 困った。確かに言われっぱなしも嫌だけど、自分のランクがバレるのも困る。目立ちたくない!

 男のいいようにムッとしたお姉さんが、私のランクをバラそうとしているのを感じて彼女の口を塞ごうと手を伸ばす。

 しかし彼女より先に男の方が話し始めてくれたので、私は彼女の口に手を当てる前にその手を止めた。

 「あいつを倒せるのは、同じくSランクの冒険者か、騎士の中でも強い精鋭くらいだな。嬢ちゃんも、俺みてぇに怪我したくなきゃ今すぐ諦めた方がいいぜ」

 彼はそう言い残すと、私たちの側から去っていった。彼がいなくなったのを見てから、お姉さんが口を開く。

 「そのSランクの冒険者が、ミズキ様なんですけどね」

 「ああっ!言わなくていいから!」

 周りの冒険者たちの視線がこちらを向いた。冗談だと思って聞き流してくれることを願うばかりだ。

 今この国にいるSランクの冒険者は、私を含め八人くらいだと聞いている。そのどの人にも会ったことはないが、功績は時々耳にするので、私のように正体を隠しているわけではないのだろう。

 対して私は目立つのを避けるため、自分のランクを周りに教えたりすることはない。そもそも街に来ても話をする相手はほとんどいないので、教える相手がいないともいえるが。

 でもこういうところでバレちゃったら、私の平穏な森の奥のスローライフが崩れかねないから。気をつけないとね。

 私のランクを知っているのなんて、ここの職員と“家族″くらいだろう。

 「それじゃあ、えっと、依頼は受けますので」

 私が言うと、お姉さんは「はい!」と返事をしてくれた。私は周りに見られないように、少し魔法を使って素早く依頼票をボードから剥がして持ってくる。

 お姉さんがそれを受け取り、何やら書き込んだ後私に渡してくる。

 「では、お願いします。まぁ、ミズキ様なら余裕でしょう」

 「そ、そんなことは……。じゃあ、頑張ります」

 そう言って、私はギルドを後にした。さて、いつ行こうか。フィデリスにお供を頼めるだろうか。そんなことを考えながら、私は屋敷に戻った。


 「おかえりなさいませ〜、ご主人様!」

 「ただいま」

 元気に出迎えてくれたリンネにそう返して、私は彼女と屋敷に入る。

 「今日は何をしてきたんですか?新しいものは何かありますか?」

 ワクワクしながら尋ねてくるリンネには申し訳ないが、特に何かを買ったわけではなく、持って帰ってきたものも彼女の期待に応えられるものではない。

 「ごめんね。そういうのはないかな。新しく討伐の依頼を受けてきただけ」

 私は申し訳なく思いながらそう言ったが、リンネは落ち込むことなくさらに私に尋ねてきた。

 「どんな依頼なんですか?見せてください!」

 彼女は何にでも興味を持ってくれて、人の話を楽しそうに聞いてくれる。リンネは本当にいい子だと、私はしみじみ思う。

 私とリンネはロビーに座り、私はカバンから依頼票を取り出す。

 「うわぁ……、変な見た目」

 リンネは正直にこう言った。怖がるかと思ったが、彼女は変だと感じたらしい。

 確かに変だよね。私の知ってるマルコシアスには目はいくつもなかったし。

 「この子、強いんですか?」

 彼女の質問に私は頷く。

 「うん、強いんだって。今まで何人も討伐に失敗したって言ってたよ」

 私の答えを聞いて、リンネは不安そうにする。

 「ご主人様は、平気なのですか?」

 私はその質問にしばらく考え込む。多分大丈夫だとは思うが、なんだか心配になってきた。

 前回倒したのはAランクだったんだよね……。今回はそれより強いけど、でも、私だってあの時より強くなってるし……。

 しばらく考えてから、自信なさげにリンネに返す。

 「たぶん?」

 「本当に大丈夫なんですか!?」

 彼女は大きな声でそう言った。確かに不安になる返事だっただろう。申し訳ない。

 「大丈夫大丈夫。多分だけど。ほら、フィデリスにも一緒に行ってもらうし。だから彼にお願いしに行きたいんだけど、ここには来てないよね?」

 私が尋ねると、リンネはコクリと頷く。

 「そっか。じゃあちょっと彼のところに行ってくるね」

 私は念の為カバンを持って、フィデリスのいる洞窟へ向かう。「いってらっしゃいませ、ご主人様〜」とリンネが見送る声が聞こえた。

 私は少し歩いて、フィデリスと初めて出会った場所に辿り着く。彼が寝ていたら悪いなと思い、静かに洞窟に近づく。

 「フィデリス?」

 私は声量を抑えて洞窟の中に声をかける。すると、中で何かが動いたのを感じたので、起きていたのか、それとも起こしてしまったのかと考える。

 「ちょっと頼み事が……うわぁ!」

 そこまで言いかけた時、突然中に強い力で引き摺り込まれる。

 あれ!?もしかして、入る洞窟を間違えた?それとも、誰かがフィデリスのお家を乗っ取って……?

 洞窟の中は暗くて何も見えない。ただ、何かに体を包まれているようだ。私は自分を包む何かの匂いを感じて確信する。

 フィデリスの匂い……。ってことは今、私……!?

 硬いような柔らかいような、なんとも言えない私の背中に回されているものは、おそらく彼の腕だろう。私が顔を埋めざるを得ないこれは、彼の胸。

 ……いや、胸筋か?

 私の思考が停止気味になっている気がする。とにかく、これはまずい。早く抜け出さなければ。

 そう思っていたのだが、脳裏にふと自分の、誘惑の声が響いてきた。

 どうして?別に嫌なわけじゃないんだし、このままでもいいんじゃない?私を引き摺り込んだのは彼の方なんだし。

 その声に、私は首を振る。頭は固定されて動けないので、心の中で、だが。

 ダメダメ!彼はきっと寝ぼけてるんだし、私をこんな風に抱きしめるつもりはなかったはず……。

 自分で考えながら、なんだか悲しくなってきた。しかし、私はここから抜け出さなければならない。人として、そうあるべきだと思う!

 もう自分が何を言ってるんだか分からなくなってきた。とりあえず、私は彼の背中をトントンと叩く。声をかけたいのだが、顔を動かせなくて声が出せない。息をするので精一杯だ。

 叩かれたことに反応したのか、彼はモゾっと動いたが、寝返りを打つだけに終わってしまった。彼の寝返りに巻き込まれて、私は彼と並ぶ形だった状態から、彼の上に跨ることになった。

 なんかもっとまずいことになった気がする……。

 だがこの体勢なら、さっきより抜け出しやすそうだ。そう思ったのだが、彼の腕の力はかなり強く、寝ていながら離す気がないのを感じる。

 一体私をなんだと思ってるんだろね……。抱き心地のいい枕かな?

 抵抗するのにも段々と疲れてきた。びくともしない彼に、私はとうとう抜け出すのを諦めることにした。

 ……別にこのままがいいって思ったわけじゃなくて、不可抗力だから!

 私は心の中でそう言い訳しながら、彼が目を覚ますまで、彼の上で自分も眠りにつくことにした。

冒険者ギルド、よく分からない。討伐依頼も、よく分からない。そんな状態で書きました。大丈夫かな……?

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