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猫耳メイドと魔法使いの私

 「ここが……」

 目の前の屋敷を見て少女はそう呟いた。

 「そう。私の暮らしてる屋敷」

 私はそう言いながら扉を開けて屋敷の中に入る。

 ロビーで一度振り返って少女の方を見る。そして、私はこう告げた。

 「今日からあなたには私の身の回りのお世話をお願いしたいんだ。……あと、料理。お願いできるかな?」

 そういえばまだ彼女に直接何の仕事をしていたのか聞いていなかったな、と思った。私の推測は合っていただろうか。少し不安になってきたが、少女は笑顔で答えてくれた。

 「もちろんです!精一杯頑張ります!」

 ……おぉ、眩しい。

 私は正面から彼女の純粋無垢な笑顔をくらって、思わず手で目を覆い隠しそうになった。

 「よろしくね、えっと……そういえばあなたのお名前は?」

 私はふと、少女の名前をまだ聞いていなかったことを思い出し、彼女に尋ねた。

 少女は私の問いに、ふんわりした桃色の髪を揺らしながら、笑って答える。

 「リンネです」

 「そっか、リンネ。リンネ、これからよろしくね」

 私が改めてそう言うと、彼女も嬉しそうに返した。

 「はい!よろしくお願いします!」

 こうして私の屋敷に新たに、癒し属性が増えたのだった。


 ……まずはリンネのお部屋を決めないとかな。

 私はそう考えて、彼女に尋ねる。

 「あなたのお部屋を用意しようと思うんだけど、一階と二階、どっちがいい?」

 「えっ?えっと……」

 私がそう尋ねるとリンネは戸惑った反応を見せる。私とフィデリスを交互に見た後、俯いてしまう。もしかしたら、意見を尋ねられるとは思ってなかったのかもしれない。

 私が適当に決めちゃってもいいんだけどね……。

 そう思っていたが、彼女は自分で意見をまとめることができたようで、私に自分の希望を伝えてきてくれた。

 「もしよければ、ミズキ様のお隣のお部屋がいいです」

 私はそう言ってもらえるとなんだか嬉しかった。自分の隣の部屋を所望してくれるなんて。私は思わず笑顔になりながら聞いてみた。

 「もちろんいいよ!でも、なんでそう思ってくれたのか聞いてもいい?」

 「えっと……、あたしはミズキ様……いえ、ご主人様の身の回りのお世話が仕事なんですよね?」

 ご、ご主人様……。確かに間違ってはないんだけどね、そんな風に呼ばれる日が来るなんて思ってもなかったよ。慣れるのに時間がかかりそうだね……。

 私はそんなことを考えながら、彼女の言葉に頷く。それを見て、リンネは続ける。

 「身の回りにお世話をさせてもらうなら、お部屋が近い方がいいのかなって思ったんです。……あっ、でも、もしかして……。そちらのりゅ、竜人様がすでにお隣のお部屋だったり……」

 彼女は少しビクビクしながらフィデリスを見上げてそう言った。

 「そんなことないよ。彼はそもそもこの屋敷に住んでないし」

 私が慌てて否定すると、リンネはさらに怯えた表情を浮かべながら、フィデリスに謝る。

 「そ、そうなんですか!ご、ごめんなさい、勝手なことを言ってしまって!」

 私はそんな風にペコペコと頭を下げながら必死に謝るリンネを見ながら考える。

 リンネはフィデリスが竜体を見せた時から、彼を怖がっている。無理もない。元々街の人々は竜を恐れているし、リンネだって一応街で暮らす種族なのだから、人々と同じく竜は怖いのだろう。

 実際街の人々が竜を恐れているのは、竜をあまり知らないからだと私は思っているが、結局私も竜はフィデリスしか知らないわけだし、国の歴史なんかも深くは知らない。

 それに、確かに竜の威厳は凄まじいもので、怖がるのも仕方のないことだとも思っている。私だって、初めてフィデリスに会った時は確かに怖いと思った。口から出たのは「綺麗……」だったが。……多分あれは一生忘れないと思う。

 とにかく、私はフィデリスのこともリンネのことも“家族″だと思っている。だからこそ、できれば二人には仲良くして欲しいな、と思う。なんとか私が二人の仲を取り持てるといいな、とも。

 まずはなんとかリンネのフィデリスへの恐怖を拭えればいいかな、と考え、私はリンネに声をかけてみる。

 「そんなに謝らなくても大丈夫だと思うよ。フィデリスはそんなに厳しい人じゃないから」

 いや、竜かな?となどと思いながら、リンネの隣に立って同じようにフィデリスを見上げてみる。

 ……う〜ん、彼の顔が怖いのが問題かな?

 そう考えた私は手を伸ばして、フィデリスの口角を指で上げてみる。

 これじゃ不自然だね。でも、さっきよりはいい感じかも?

 私は彼の口角を上げたままリンネを振り返る。

 「ね、これならちょっとは怖くないでしょ?」

 これならリンネもちょっとは彼に接しやすくなるかな、と思ったのだが、振り返って目に映ったリンネの表情はさっきよりも酷かった。蒼白になった顔を見ながら私は考える。

 ……あれ?なんで?

 「ミズキ……」

 いつのまにか私の手を掴んで顔から離させていたフィデリスが、私に声をかける。彼の方を見ると、顔を顰めた彼が目に映り、私は納得する。

 ……さっきより顔が怖いよ。これは失敗だったね。

 心の中でごめん、とリンネに謝っていると、フィデリスは突然私の手を離し、私は思わず体勢を崩す。するとフィデリスはふらついた私を片手で支え、もう片方の手でさっき私がやったように口の端を指で持ち上げる。

 「仕返しだ」

 それだけ言うと彼は私を離し、またいつもの無表情に戻って言った。

 「こういうことを男にやるのは危険だと思うぞ」

 私はそれを聞いてしばらく呆然とした後、言葉の意味を理解して顔を赤くする。

 ……ごめん、距離感おかしかったね。恥ずかしい……。

 そう思っていた私は、後ろから向けられるリンネの視線には気づかなかった。


 さて、気を取り直してリンネの部屋を用意しようと思う。女の子のお部屋を用意するわけだし、彼女はフィデリスを怖がっているから、彼にはロビーで待っていてもらうことにした。

 布団を洗う魔法と乾かす魔法はフィデリスに教わってできるようになった。魔力の調整をミスならければ私でもできるだろう。

 私はリンネと並んで歩きながら、まず私の部屋を見せる。

 「ここが、私の部屋。だから、このお隣の部屋がリンネの部屋でいいかな?」

 私は自分の部屋の隣にある部屋を手で示して彼女に確認する。

 「はい」

 彼女がそう返事をしてくれたので、私たちはその部屋に入る。前に軽く掃除をしてあるので、布団を洗ったりするだけで平気だろう。

 ……そういえば、お風呂はどうしよっか。私は自分でお湯を沸かせるようになったけど、リンネって魔法は使えるのかな?

 とりあえず布団を洗って乾かし、それからリンネに尋ねてみた。

 「ねぇ。リンネって魔法は使える?」

 「簡単なものでしたら……。母が病気になる前は、学校に通えていたので、そこで少しだけ習いました」

 私はその答えを聞いて羨ましくなる。魔法が習える学校なんて、羨ましい……。そこだったら私も真面目に通ったのになぁ……。

 「それじゃあ、炎属性は持ってる?」

 私の問いにリンネは頷いたので、私は続ける。

 「じゃあお風呂の時は自分でお湯を沸かして欲しいんだけど、できるかな?水を持ってきてお湯にするの。魔法が分からなかったら私が教えるから」

 そう言った私に、リンネは驚いた様子で言った。

 「まさか、お風呂に入れるんですか!?」

 そう言われて私も驚く。まさか、お風呂に入れることは特別な世界のだろうか。

 「井戸があって、そこから水を汲むんだけど……」

 「あっ、はい。うちもそうでした。でも、うちにお風呂はなかったので」

 おそらく浴槽のことだろう。確かに、あの狭い家に風呂場があるとはとても思えない。だとしたら、いくつもある部屋の全てにお風呂が完備されているこの家は、実はすごいのではないだろうか。

 一体何者だったの、ミネルヴァさん……。

 私は今は亡きこの家の前の主に思いを馳せる。

 リンネに風呂場を見せると、彼女ははしゃいでいる様子だった。そういえば最近、家の物置から風呂桶に使えそうな容器を見つけてきたのだが、もう一つ探してくる必要がありそうだ。

 そう考えながら私は、「体洗う時に使う桶が一つしかないから、お風呂入る時は時間をずらそうね」と言ったが、リンネは布で洗うので平気だと言った。いつもそうしていたらしい。その手があったか……、と私は衝撃を受けた。


 その後トイレについても説明できたので、あとは一人でも生活できるだろう。私は自分の部屋は自分の好きなように使っていいから、と言うことを伝えて、部屋を後にしようとする。

 またお金が入ったら、今度は服を買いに行ってあげた方がいいかもしれない。あと、彼女にもパジャマっぽい服を魔法使いの私室から取ってきてあげた方がいいだろう。

 私はそんなことを考えながら、「それじゃあ、夕食までしばらくのんびりしてていいよ」と言って出口に向かう。

 「あっ、待ってください」

 ふとそう呼び止められて、私は振り返る。私を呼び止めたリンネはベッドに座りながら、部屋に置かれていたクッションをぎゅっと抱きしめて私の方を見ている。

 ……あ、私この目知ってる。

 彼女の抑えきれないワクワクが映し出されている瞳を見て、私はそう思いながら、なんとなく目を逸らす。

 「あの、聞いてもいいですか!」

 私はそれはちょっと、と答えるか迷ったが、出会って間もない彼女への印象を悪くするのは嫌だと思い、「いいよ。どうしたの?」と答えてしまう。

 「竜人様とは、どういったご関係なんですか!」

 うん、やっぱりね。そういう話だよね。

 「たまたま出会って仲良くなった、私をサポートしてくれる存在だよ」という風に普通に彼との関係を説明すればいいのだが、リンネが求めているのはそんな話ではないということも分かってしまう。

 あれは恋バナを求めている目だ。私とフィデリスの間に甘い関係があると思ってそれを聞き出そうとしてるんだ。

 そんなものは残念ながらないので期待されても困るのだが、まさかこんな目が私に向く日が来るとは。元の世界では恋愛とは全く関わりのない人生を送っていたし、それが周りにも伝わっていたから、こんな話を振られることもなかった。

 なんて答えようか……。

 私はしばらく考えてから、正直に彼との出会いから話すことにした。元から見栄を張るつもりもなかったが。時間はあるし、彼と出会った時のことから一つずつ思い出して話す。その過程でどうしても触れることになる、私が別の世界から来たということも話しておいた。

 リンネはそれにとても驚いていたが、この話を信じてくれた。疑わなすぎて悪い人に騙されないか心配だ。

 それからフィデリスのことを話した。できればこの話を聞いてリンネが彼に対して抱いているであろう恐怖もなくせればな、と思った。

 一通り話を聞き終わった頃、リンネは私に尋ねてきた。

 「ご主人様はフィデリス様のことを、どう思っていらっしゃるんですか?」

 彼女がフィデリスへの呼び方を変えたことに気づきながら、私は質問の答えを考える。

 「……“家族″だよ」

 私の答えにリンネはさらに尋ねてくる。

 「本当にそれだけですか?」

 そう聞かれて、私はまた考える。本当にそれだけか。おもむろに、私はさっきフィデリスが触れた口の端に手を伸ばす。

 それからほんの少し目を閉じる。そして浮かび上がってきた答えを、私は苦笑いを浮かべながら言った。

 「私みたいな存在にはきっと、彼に特別な感情を抱く資格すらないから」

 これが私の出した答えだった。例えば私が彼を好きになったとしても、私みたいな地味で可愛くもないやつに、彼のような強くて美しい存在は勿体なすぎる。

 リンネはそれを聞いて悲しそうな顔をしたが、私はその答えを変えるつもりはない。

 きっとこの先も、私がこの答えを、この考えを変えられる時は来ないだろうな、と思っていた。

 そんな私には、一枚のドアを隔てた廊下にフィデリスが立っていたことなど、知る由もなかった。

当たり前にお風呂に入れることは、幸せなことだと思います。よかったね!ミズキ!

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