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【完結】拝啓、魔王様。この勇者どうにかしてください!〜魔族の姫は勇者に愛される〜  作者: あまNatu
第二章

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報告

 ヘスティアは窓の外に広がる景色を、ぼーっと眺めた。

 それはアルフォンスの屋敷から見る光景とは違い、もっとずっと慣れ親しんだものである。

 深い森のさらに奥には栄えた街があり、そこではたくさんの魔物たちが暮らしていた。

 そう、ここは魔界。

 ヘスティアが帰ってきてから半年はすぎていた。

 その間にやったことといえば魔王による治療とぼーっとすることだけ。

 あの時はアドレナリンがドバドバと出ていたからか気が付かなかったが、相当ひどい状態だったようだ。

 魔界に帰ってきてから一週間は気を失い、目が覚めてもベッドの上で寝る日々。

 起き上がれるようになったのは帰ってきてから一ヶ月は経ったあとのことだ。

 それでも体がうまく動かず、起き上がり歩けるようになってからはさらに一ヶ月は時間を要した。

 思ったよりもボロボロだったのだなと、ヘスティアは己の手を見つめる。

 もう綺麗になっているけれど、怪我をしたばかりの時は血だらけだった。

 今でも魔力を練ることが上手くできず、歯痒さを感じる。


「お嬢様、ルーク様よりお手紙が届いております」


「ありがとう」


 受け取った手紙をすぐに確認すれば、魔界に戻ってきてからの日課となっているルークからの報告だった。

 人間界で今どんなことが起きているか、アルフォンスの様子はどうか。

 一週間に一度は送られてくるその几帳面さに、ため息をつくことも諦めた。


「……ひとまずなんとかなったみたいね」


 あの村のことを心配していたのだが、どうやら上手くやってくれたらしい。

 村で起きたことは他言無用となり、長は密かに罰せられたようだ。

 小さな村の反乱など、上が変われば一旦は落ち着く。

 ルークの案で行ったらしいが、ひとまず上手くいって一安心だ。

 しばらくは表向きはアルフォンス、実質はルークの監視下となるらしい。


「あとの問題は……」


 王族でありつつあれだけ怖い思いをしたアリアだ。

 案の定彼女は目が覚めた後騒ぎ立てたらしい。

 村人を全員捕まえてやると意気込んでいたらしいけれど、それをまたルークが抑え込んだようだ。

 アリアは魔王の恐ろしさをその身に感じ、気まで失っている。

 それを利用して彼女に耳打ちしたようだ。

 騒ぎにすれば今度こそ魔王があなたを殺すぞ、と。

 あまりにも直球すぎる気もしたのだが、そうでもしないとおつむの弱い姫にはわからないだろう、とはルークの言葉である。

 おかげで城に戻ったアリアは部屋に引きこもっているらしい。

 ちなみに護衛だった騎士たちはみな捕まり、秘密裏に処理された。

 ウィルは無事アルフォンスの元へといけたらしく、内心とても喜んでいるようだ。

 なんだかんだと気の利く男だったので、これからもいろいろ動いてもらうことにはなるようだが、忠誠心を欠片も持てない王族よりはマシだと言っていたらしい。


「……まあ、あんな王族じゃあね」


 魔王が人間界にやってきたことに対して、あの愚王は怒りをあらわにしアルフォンスとルークに詰め寄った。

 しかしそれを上手く交わしつつもアルフォンスは、改めて魔王の恐ろしさを愚王に教え込んだ。

 あの男を怒らせては、次なんてもうない。

 人間が、愚王が無事に生き続ける方法は、あの男を刺激しないことだ。

 それを聞いた愚王の苦虫を潰したような顔は爽快だったと、ルークからの手紙を読みつつ想像して楽しむ。


「私もその場にいたかったわ」


「――失礼いたします、お嬢様。魔王様がお呼びです」


「わかったわ」


 今日も今日とて魔力を戻す治療を行わなくてはならない。

 やり方自体は至って簡単だ。

 傷ついた魔力が流れる管を修復し、それが終わればあとは失った魔力を戻していく。

 とはいえ一気に元に戻せば体は拒否反応を起こすことや、管が崩壊してしまう可能性もあるため少量ずつ戻すしかない。

 これに無駄に時間がかかるのだとため息をつきつつ、魔王の部屋へとやってきた。

 大きな両開きの扉を守る護衛たちに軽く声をかけ中へと入れば、そこは魔王が過ごしているとは思えないほど質素な室内である。

 ヘスティアが手を出さなければベッドと肖像画くらいしか置かれていなかったであろう部屋で、魔王はソファーに腰掛けていた。

 黒い毛皮のソファーは手触りが良く、ヘスティアのお気に入りのものだ。

 いつも通り魔王の元へと歩み寄りつつ、ちらりと肖像画を盗み見る。

 ヘスティアそっくりな女性が、そこには描かれていた。

 今のヘスティアよりも大人っぽく、瞳の色は淡い緑色のその人は、魔王が唯一愛した女性だ。


「――そういえばもうすぐ命日ね」


「…………そうだな」


 もう亡くなってから何年も経っているというのに、魔王は悲しげに目を細めた。

 肖像画を見つめると、目が離せないとばかりに眺め続ける。


「今年も一緒に墓に行けそうで安心した」


「……流石に向こうに行ってても帰ってくるつもりだったわよ」


「……そうか。まああの勇者ならそれくらい許すか」


 どさりと音を立てて隣に腰を下ろせば、引き剥がすようにこちらを向いた。


「体の調子はどうだ?」


「順調よ。これなら予定よりも早めに帰れるんじゃないかしら?」


「…………別に早く帰る必要はないだろう」


 ただ己が寂しいだけなのだろう。

 魔王はムスッとしつつも、魔力を分け与えてくれる。

 親子である魔王とヘスティアは、その魔力のあり方もとても似ている。

 なので魔王から魔力を貰い受け、体内で己の魔力に変えているのだ。

 背中に触れている魔王の手から、ピリピリとした魔力を感じる。


「早く帰らないと。あの人目を離すと無茶ばっかりするんだもの」


「……ずいぶん仲がいいんだな」


「娘夫婦が仲いいなら嬉しそうな顔しなさいよ」


 相変わらずむすっとしつつも魔力に一切の乱れがないのは流石だ。

 一定量を注ぎ終えたのか、魔王の魔力が止まる。


「終わり?」


「ああ。……だいぶ良くなったな」


「おかげさまで。体動かなかった時はどうしようかと思ったけどね」


「無事でよかった」


 指すらぴくりとも動かなかった時は弱音を吐きそうにはなったが、無事なんとかなってよかった。

 ヘスティアは軽く肩を回しつつ、もう一度母親の肖像画を見つめる。

 小さな子供を愛おしげに抱くその姿は、まさに母親なのだろう。


「……いつかアルフォンスもここに連れてきたいわ。お母様に挨拶しないと」


「…………そうだな」


 不服そうな魔王の返事に、ヘスティアはたまらず笑ってしまったのだった。


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