うらみつらみ
傷も一旦痛みが落ちついたということで、ヘスティア、アルフォンス、ルーク、ラスティの四人は人間の村へと向かっていた。
「そういえばあの騎士とどんな話をしたの?」
「騎士? ああ、ウィルのことか」
その道中気になっていたことを聞けば、アルフォンスは思い出すように視線を上へと向けた。
「彼とはとても合理的な取引をしたよ?」
なぜあの騎士がアリアを捕まえる場にいたのか疑問だったのだが、どうやら二人の間でなにか話が進んでいたようだ。
まあウィルの言い分的になにかあったのはわかっていたが。
「なにを言ったのよ? 仮にも専属騎士でしょ?」
「専属騎士でも人間だから。認められたい、求められたいって欲はあって然るべきだと思うよ」
「…………なるほどね」
あれだけ自身の扱われ方に不満をあらわにしていたのだ。
アレックスからの言葉に鞍替えってもおかしくはない。
だがしかし、それでも仮にも専属騎士の一人を軽々と自身の味方に引き込むとは。
やはりこの男一筋縄ではないらしい。
「――ついたね」
そんな話をしているうちにあの大きな壁と扉が瞳に映った。
人間の村にやってきたのだ。
ヘスティアたちは軽く視線を合わせると、すぐにその扉を開けた。
「――…………」
中は異様な雰囲気だった。
入り口すぐのところは普段なら子供たちが走り回り、大人たちが談笑する場であるはずなのに、そこには人の気配がない。
ぐるりと周りを見回したあと、ヘスティアたちはすぐに奥の方へと体ごと向ける。
「どうやら村人全員集まってるようね」
「そのようですね」
「俺が動いたのがバレたのかも」
「…………慎重にいきましょう」
これだけのメンツが揃っていれば大丈夫だとは思うが、いかんせん今のヘスティアは魔力なしである。
足手纏いになるのはわかっていたので、あまり無理はできない。
警戒しつつも奥にある長の家へと向かえば、そこには人だかりができていた。
みなが険しい顔をしている中、現れたヘスティアたちにさらに顔がこわばる。
「――なにしにきた!?」
「勇者だ! 裏切り者がいるぞ!」
「勇者が魔族を連れてきたぞ! 俺たちを殺す気なんだ!」
ざわめきが広がっていく。
恐怖や怒りは周りの人間たちにも伝染し、そこにいた村人がこぞって声を上げる。
裏切り者の勇者に罰を、魔物を殺せ、武器を取れ、と。
殺気が高まりいざ行動に出ようとしたの時だ。
村の長である男が現れたのは。
「裏切り者の勇者よ。よくも帰ってこれたものだな」
「――アルフォンス!」
「…………なんて面倒な」
思わずそう口にしてしまったのは、長である男がアリアを捕らえていたからだ。
アリアは泣きじゃくりながら腕に回された縄を引っ張られ、ヘスティアたちの前に姿を現した。
「アルフォンス! 助けてください!」
「ちょうどよかった。今からこの女を人質に王都へ行き王族を殺す!」
「――っ、アルフォンス! 助けてっ!」
「…………騎士たちはどうしたのよ」
「騎士? ああ。あいつらなら金を握らせたらすぐに逃げた。この人数相手に勝てるなんて思わないだろ」
なるほどなと、ヘスティアは少しだけ周りを観察した。
確かに騎士の姿は見えず、村人たちも周りを警戒していないところを見ると、彼らがここを出て行ったのをきちんと確認しているようだ。
と、そこまで考えてふとウィルの顔が思い浮かぶ。
あの男のことだ。
この話を事前に聞きつけたからアルフォンスの話に乗ったのではないか?
村人から金をもらって、さらには次の稼ぎ口もある。
さらにはここでアリアが殺されれば、どさくさに紛れて逃げることもできるだろう。
少なくともあの男が命をかけてアリアを守ることはしないだろうと納得した。
「謀反なんて、この村がどうなってもいいの?」
「どうせこのままでも魔物に殺されるんだ! なら一番憎い王族を道連れにしてやる!」
「無策でよくそんな大それたことしようとするわね…………」
この村の人間だけで王都に行ったところで、護衛に捕まって終わりだろう。
そんなことにすら頭が回らないほど、村人は興奮しているようだ。
まあ無理もないかと納得もする。
どうせ魔物に殺されるくらいなら、その命を使って憎い相手を倒したほうがいいと思うのもわかる。
だとしてもお先真っ暗すぎるだろと、ヘスティアは呆れてため息をついた。
「どうでもいいけれど魔物の子どもを誘拐したこと、どう落としまえをつける気?」
「落としまえ? 知るかそんなもん! 魔物は物だ! 金になる物を売ってなにが悪い!?」
ピリッとした空気が、ヘスティアの後ろから放たれた。
明らかに怒りをあらわにしているルークとラスティを気にしつつも、ヘスティアはゆっくりと口を開く。
「戦争になるかもしれないのよ。……勇者が命をかけて成した平和を、なんだと思ってるの」
「知るか! 戦争をしようがしなかろうが村は貧しく、人は死んでいく! 国が平和になろうが、俺たちにはなにも関係ない!」
そうだそうだと周りから声が上がる。
なるほど、これが押さえつけられていた人々の感情なのかと少しだけ寂しく思う。
どれだけ平和になろうが、戦争が終わろうがこの村の人たちにはもう関係ないのだ。
それほど彼らの心は虚しく、そして貧しいらしい。
「今からこの娘を殺して王都へ行く! 無能な王と王族を皆殺しにしてやるんだ!」
「「――おおー!」」
「なんてバカなことを――!」
慌てるアレックスには申し訳ないが、このまま放置してもいい気がしてきている。
あの王族では憎まれても仕方がないだろう。
もうアレックスを魔界に連れて行った方が平和な気がする。
その際は勇者一行とララ、にゃんこと侍女長くらいは連れて行こうかなと思っていると、人間たちが次々に武器を手にとる。
「まずはそこの魔物、勇者を殺せ! 勇者の首を手土産に王都に攻め込むぞ!」
「「おー!!」」
「はあ!? あんたたちっ――」
勝手に人間の国が滅びるのならそれはそれ。
運命だったのだろうで終わるけれど、アルフォンスに手をかけようとするなら話は別だ。
こちらへと殺気を向けてくる人間たちにヘスティアもまた戦闘体制に入ろうとしたが、しかしいつものように体に力がこもることはない。
――そうだ、魔力がっ。
まさかこんなところでアルフォンスを守ることができないなんて。
ただ震えるだけでなにもできない己の手を強く睨みつけたその時だ。
「さあお前たち! 勇者を――」
空が、切り裂かれた。




