お薬
「――ヘスティア様!?」
「姫様!?」
アルフォンスの腕の中で青ざめているヘスティアの元へ、ラスティとルークが慌ててやってくる。
そんな二人に軽く手を挙げれば、そろって険しい顔を向けてきた。
「――なにがあったのですか?」
「その怪我!」
「すいません。ひとまずヘスティアを休ませたいです」
「…………こちらへ」
アルフォンスを見て渋い顔をするあたり、ルークもまだまだだなと軽く睨みつけた。
彼は気まずそうに一瞬で顔を背け、アルフォンスを案内する。
そこは来客用の部屋らしく、アルフォンスはヘスティアをベッドにうつ伏せに寝かせた。
「火傷用の薬とかありませんか?」
「急いで持ってくる! あとは包帯と……とりあえず使えそうなもんまるっと持ってくるわ!」
ラスティはそう言うと勢いそのまま部屋を出て行った。
彼の腕の中から解放されたし、さらにはベッドに寝転ぶこともできてヘスティアは体から力を抜く。
「大丈夫? 痛みは?」
「最初よりマシよ。でも……魔力はほとんどないわね」
「どうなっているんですか?」
眉間に深く皺を寄せているルークからの問いに、ヘスティアはあえて別の問いを返した。
「あの男の子はどうなったの?」
「――……無事村について、今は親の元へ。……傷に関しては魔物たちの意見も割れています」
「でしょうね」
元々穏便派だったものたちは無事に帰ってきたのならいいだろうと口にするものもいるだろう。
だが過激派ならばあれだけ傷つけられたのに、黙って泣き寝入りなんてできないと思うのもおかしくはない。
「動かないよう指示しなさい」
「…………ヘスティア様」
「ここで人間と小競り合いを起こしてはダメよ。必ず彼らには罪を償わせるから、私的に動くことをよしとするべきじゃないわ」
「ですが、彼らの気持ちは……」
「……だからこそよ」
魔物たちの気持ちがわかるからこそ、今は動くべきではない。
人間と争いになれば救った子供ですら、今度は戻らぬ人になるかもしれないのだ。
お互い無傷ですまないことほど、愚かな戦いはない。
「私たちが動くから待つよう指示を出して。最悪魔王の名前を使いなさい」
「無茶を言いますね。…………わかりました。村人にはヘスティア様を信じるよう伝えておきます」
これで一旦魔物と人間の関係がこれ以上悪化することは避けられただろう。
ならば次の問題はヘスティア自身だなと、自らの腕を少しだけ持ち上げた。
顔の前に持ってくるのもやっとで、震える指先にはほとんど力が入らない。
「…………めんどうね」
「それで、そのお体の傷はいったい……。魔力もほとんど感じとれませんが……?」
「実は…………」
ルークへの説明は、アルフォンスが変わってくれた。
簡潔に、そしてわかりやすく状況を説明してくれたおかげで、ルークはヘスティアの身になにが起きたのか理解でたらしい。
怒りに彼の周りをパチパチと電気が走る。
「――つまりその小娘を殺せばいいと?」
「誰もそんなこと言ってないわ。やったら二度と口きかないわよ」
「………………っ、」
魔王といいその参謀といい、ヘスティアに甘すぎるのだ。
口きかないと言えばそれだけで彼らの行動を制限できるのでそこはありがたいのだが。
彼らに下手に手出しをされるわけにはいかないのだ。
「この借りを返すのは私よ。この手で必ず後悔させてやるんだから、勝手なことはしないで」
「…………かしこまりました」
至極残念そうに肩を落とすルークを呆れた目で見ていると、さまざまな薬を持ったラスティが戻ってきた。
「これ! うちの村で一番効く火傷の薬!」
「貸してください」
アルフォンスが薬を受け取ると、ベッドの横にある椅子に座った。
便に詰められているそれを指にとると、ヘスティアの背中に優しく触れる。
「――っ、」
「ごめん。痛いよね? ……本当にごめんね」
「馬鹿。あなたが謝ることじゃないわ」
薬草は確かに染みるけれど、でもおかげで眠気もかなり吹き飛んだ。
下手に痕が残らずに消えてくれるといいのだが……。
と不安になっていると、その様子を見ていたルークが顎に手を当てていた。
「……その傷、薬で治るものなのですか?」
「ある程度は。本来の魔導具の作用としては魔力を封じるものであって、この火傷は副産物のようなものです。見た限りは呪いとかではないので、傷薬で治せるはず……」
魔導具といえど万能ではない。
アリアがやろうとしていたのはヘスティアの魔力をなくすことだ。
ヘスティアはあの魔王の娘。
そんじょそこらの魔物とはわけが違う。
実際魔力量は魔王に次ぐものを持っていたわけで、それを奪いさらに傷を負わせるなんてできないはずだ。
それに人間たちの能力的にも、一魔導具一つの能力が限界だろう。
つまりこの火傷は……。
「拒否反応、ですか。ヘスティア様の魔力量は魔王様に匹敵します。その魔力を封印しようなんて、反動があってもおかしくはないですね」
実際、アリアの腕も燃えたように爛れていた。
つまりあの炎はヘスティアの背中から燃え上がったのではなく、アリアの腕から現れたのだ。
人を呪わば穴二つとはよく言ったものである。
まあ、彼女は興奮のあまり気づいていなかったようだが。
今ごろ痛みに泣いていることだろう。
「…………魔力、どうやったら取り戻せるかわかる?」




