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【完結】拝啓、魔王様。この勇者どうにかしてください!〜魔族の姫は勇者に愛される〜  作者: あまNatu
第二章

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夫婦

「気づいてたよ」


「…………え?」


 アリアがいなくなったその場所で、アルフォンスは静かにそう口にした。

 穏やかな声に一瞬、なにを言われているのか全く理解ができなかったのだが、しばしの沈黙ののちヘスティアは軽く目を見開く。

 気づいていたとは、いったいなにに……?


「ヘスティアとティーが同一人物だってこと、流石に気づくよ。ヘスティアが黙ってようとしてたから乗ったけど……なんの意味があったの?」


「………………うそ」


「嘘じゃないよ。いや、そりゃ最初ヘスティアに会った時は気づかなかったけど、この間ティーとして目の前に現れた時に気づいたんだ。だって髪と目の色変わっただけだし」


 つまり結婚したばかりの時は気が付かなかったけれど、この村にきてからティーとして会った時に、二人が同一人物だと気づいたわけだ。

 じゃあ今までの茶番はなんだったのだとぐったりしつつも、ヘスティアは彼をきっと睨みつけた。


「あ、なたがっ! 監禁する、とか、言うから…………っ!」


「…………ヘスティアを?」


「ティーをよ!」


 叫んだ瞬間体を巡る痛みが増して、ヘスティアはぐっと小さく悲鳴を上げつつ改めて体から力を抜いた。

 この男自分がとんでもないことを言っていると自覚がないらしい。

 あんな発言をしておいて忘れているなんて、生粋のサイコパスなようだ。

 今更この男と結婚して今後大丈夫なのだろうかと少しだけ心配してしまう。

 だがそんなふうに思われているとは少しも勘づいていないアルフォンスは、己の腕の中でぐったりしているヘスティアの背中を見つめる。


「……ひどい怪我だ。魔力は?」


「ないわ。それどころか、指を動かすのもしんどいくらいよ。……背中、どうなってる?」


「………………焼け爛れたみたいになってる。可愛い羽がボロボロだ」


 なんとなく予想はついていたけれど、やはりひどい有様らしい。

 傷なんて見慣れているであろうアルフォンスが眉間に皺を寄せている。


「魔導具があったなんて……」


「気配にギリギリまで気づけなかったことも考えると……これ以外にも持ってそうね…………」


 熱はやっと治まり、話すくらいならできるようになってきた。

 しかしまだ背中は痛みを発し、冷や汗は止まらない。

 どうしたものかと考えていると、アルフォンスがヘスティアを抱き抱えつつ立ち上がる。


「ひとまず魔族の村に行こう。……痛む?」


「……大丈夫よ」


 心配性だな、と呆れつつも彼の優しさに感謝する。

 走ればそこまで距離のない村まで、ヘスティアの体を気遣ってゆっくり歩いてくれているのだから。

 彼の胸に右耳を押し当てつつ、ヘスティアはゆっくりと口を開いた。


「……あなた、私がティーだって気づいていながら、私に幸せかどうか聞いたの?」


「あー……うん。まあ、」


「キレの悪い返事ね」


「こんなに早くバレると思ってなかったから……」


 馬鹿、と返せば気まずそうな顔が返ってきた。

 当人に幸せかどうか聞くなんて、そんな間抜けなことがあるだろうか。

 どうせならティーの時ではなくヘスティアの時に聞けばいいのに。

 意外と意気地なしなんだなと心の中だけで思う。


「ほんと馬鹿。この私が嫌いな人と結婚すると思う?」


「…………君は優しいから。大切な同胞のためならって、すると思うよ」


「……やっぱり馬鹿ね」


 まあ実際そうなったらするかもしれない。

 悩みに悩み抜いたその後で、世界が平和になるのならと思うこともあるだろう。

 大切な人が亡くなるのは悲しいものだから。

 そしてそれがどんなものなのかを、ヘスティアは知っている。

 だから彼の言うとおり、その時がきたらしていたかもしれない。

 けれど。


「ならそれは同胞のためだけの結婚で、少なくとも相手を重んじたりはしないわ。……私は、あなただから今ここにいるの」


 どれほど冷たく蔑まれようとも、魔物と嘲笑われようとも、我慢するのは全てアルフォンスのため。


「…………ムカつくことにこの結婚…………喜んだのよ」


「喜んだ?」


「…………そうよ。私の意思で、ここにいるの」


 和平のための結婚だって構わなかった。

 彼に愛する人がいてもいいと思えるくらいには、アルフォンスのことが好きだったのだ。

 アルフォンスの願いが叶うのなら、自分の身くらい捧げてやろうと思った。

 たとえ愛されなくても、構わないって本気で思ったのだ。


「…………ヘスティアは、俺のそばにいて幸せ?」


「幸せにしてやる、くらい言えないの? さっきから幸せか聞くけど」


「もちろん俺が幸せにするつもりしかないよ。その上で聞いてる」


「――……、」


 くそ、ときめいてしまった。

 ヘスティアほほんのり赤く染まる頬を髪の毛で隠しつつ、アルフォンスの問いに対して口をむにむにと動かす。

 どうしてこういうところは潔いのか、アルフォンスという存在が理解できない。

 まあそういうところも好きなのだがと、腹を括ることにした。


「幸せよ。――好きな人と結婚したんだから。…………そういうあなたはどうなのよ?」


 ヘスティアからの答えを聞いたアルフォンスは、数秒立ち止まりすぐに動き出した。

 その表情は優しく穏やかで、先ほどまでアリアに鋭い視線を向けていた人と同一人物なのかと疑いたくなるほどだ。

 彼は改めてヘスティアを抱え直すと、その腕に力を込めた。


「そっか。……よかった。俺も幸せだよ。愛する人が妻なんだから」


 

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