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【完結】拝啓、魔王様。この勇者どうにかしてください!〜魔族の姫は勇者に愛される〜  作者: あまNatu
第二章

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断罪

「その子なのね?」


「うん。村の端っこにある牢屋に入れられてたよ」


 かわいそうに。

 よほど怖い思いをしたのだろう。

 ぶるぶると震えながらアルフォンスの腕に抱きついていた。

 片目は大きく包帯が巻かれ、体の至る所にも傷を治した跡がある。

 これが人間側から故意にやったものならば、ラスティたちを説得するのは骨が折れそうだ。


「この子の怪我は……?」


「……たぶん人間にやられたんだと思う。…………話せないんだ。心理的なものだと思うけど」


 年齢的に十もいってないような子供が、突然襲われ攫われて。

 さらには暴力まで振るわれたら。

 心理的負担が大きすぎて喋れなくなるのも納得できる。


「…………大丈夫よ。あなたをみんなの元に返してあげる」


 じっと見上げてくる大きな瞳。

 アルフォンスには懐いているところを見ると、怪我の手当てをしたのは彼なのだろう。

 今は人間の姿なのでヘスティアにも怯えているのだ。


「ほら、この子。あなたの村の人に借りたのよ」


「――!」


 ヘスティアの肩に乗る式神を見て、男の子の顔がパァッと晴れやかになった。

 駆け寄ってくる男の子の腕に式神を渡せば笑顔に変わる。


「……よかった。笑えるのなら、きっと大丈夫ね」


 よしよしと頭を撫でれば、式神をぎゅっとしつつ笑顔を向けてくれる。

 笑えないくらいのトラウマを植え付けられることもあるけれど、この子はちゃんと笑うことができた。

 そのことに安心しつつ顔を上げれば、なぜかアルフォンスから優しげな視線を向けられている。


「…………なによ?」


「いや。優しいなって」


「………………」


 なぜそれでアルフォンスがニコニコするのかわからない。

 優しくしているのは魔物の男の子へ、なのに。

 まあいつものことかと、ヘスティアは改めてアルフォンスへと向き合った。


「ひとまずこの子を魔物の村へ連れてくわ。……この式神が」


「人間たちは気づいてないと思うから、それで大丈夫だと思うよ」


「この式神について行けば村に着くから。村は魔王軍が守ってるから安心して」


「――!」


 男の子はこくんと頷くと、式神と共に森の方へと向かう。

 あんなに可愛らしい見た目をしている式神だが、いざという時は盾になってくれるらしい。

 さらには異変があればラスティにもわかるらしく、たとえ人間側が気づいて手を出そうとしても、この距離ならば逃げきれるだろう。

 本当はヘスティアが一緒に向かってあげたかったが、こちらもこちらでやることがあるとアルフォンスと向き合った。


「…………人間たちが捕まえてたのね。あの子のこと」


「…………うん。残念ながら」


 本気でそう思っているのだろう。

 表情からしても彼が心の底から残念がっているのがわかる。

 同族として、かつ、その同族を守るために命をかけた者として、これほど残念な結果はないだろう。

 ヘスティアとしても正直な話をすれば、この村の人間たちを全員さらし首にしたっていいと思っている。

 男の子の恐怖、村人たちの心配や不安。

 そしてアルフォンスへの裏切り。

 全てがヘスティアの中の逆鱗に触れている。


「……どうするつもり?」


 とはいえ今は人間であるティーとしてこの場にいる。

 ティーが魔物のために怒るのはおかしいと、なんとか平常心を保ってはいるが……。

 とはいえアルフォンスも思うところはあるのだろう、悲しみと怒りが混在しているような複雑な顔をしている。


「…………悲しいね。どうしてこんなことになるんだろう。魔物も人間も、ただ平和を願ってるだけなのに」


「…………そう、ね」


 誰よりも平和のために努力したアルフォンスが、きっとこの結末に悲しんでいることだろう。

 人間たちを疑いつつも、心のどこかでは願っていたはずだ。

 なにかの間違いであるようにと。


「これじゃあ、いつまでも戦いは終わらない。それがわかっているからそこ、俺も魔王も和平を受け入れたのに…………」

 

 しかし現実は残酷で、やはり人間たちの手によって魔物の子どもが攫われていた。

 これはアルフォンスへの裏切り行為だ。

 だからこそ腹が立つ。

 少なくともこの村の人間たちには多少のお灸は添えなくてはならないだろう。

 その話をするためにもヘスティアは残ったのだから。


「ねぇ、この村の人たちのことだけど――」


 アルフォンスの意見を聞こうと口を開いたその瞬間、背後から土を強く蹴り上げる音がした。

 なにもなく突然発生した気配と音に、ヘスティアもアルフォンスも瞬時に戦闘体制をとる。


「――っ!」


 だがしかし遅かった。

 聞こえた音も気配も全てすぐ後ろからで、振り向こうとしたがもう遅く、気づいた時には背中に鋭い衝撃が走る。

 ドンっというなにかが強く当たった感覚と、同時に発生した燃えるような熱。

 背中を覆うその熱さに、ヘスティアはたまらず悲鳴を上げた。


「――ああああっ!」


「ティー!?」


 倒れ込むヘスティアをアルフォンスが支えた。

 じくじく、ずきずきと痛む背中に強く歯を噛み締めつつも、瞬時に後ろを振り返る。

 一体なんなのかと視線を向けたその先には、真っ赤に色づく両手をこちらに向かって伸ばすアリアがいた。

 彼女は興奮したように頰を染めつつ、倒れ込むヘスティアを見てニヤリと笑う。


「――全部あなたが悪いんですよ、ヘスティアさんっ!」

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