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【完結】拝啓、魔王様。この勇者どうにかしてください!〜魔族の姫は勇者に愛される〜  作者: あまNatu
第二章

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その頃アルフォンスは 2

「王女殿下……このような夜更けになんのご用ですか?」


「部屋に入れてくださらないのですか?」


「…………このような時間に異性の部屋に入っては、よからぬ噂を流される可能性がありますから」


「私は気にしませんのに……」


 アリアが気にしなくてもアルフォンスは気にするのだと、後ろ手にドアを閉めた。

 昔からアリアとの関係が噂されているのは知っている。

 結婚した以上その話はなくなると思っていたのに、むしろなぜか悲劇の二人として実しやかに流れているらしい。

 ヘスティアの耳に入っていなければいいなと、アルフォンスは心の中で願う。


「それでご用はなんですか?」


「…………アルフォンス。お願いがあります」


 アリアはそっと己の手首に触れた。

 包帯の巻かれたそこは痛々しく、先日のことを思い出しアルフォンスの顔も歪んだ。

 この村は狂っている。

 それは長年積もりに積もったもののせいだろうが、あんなことをするなんて思わなかった。

 不満や不服はあれど、まさか一市民が王族に手を出すなんて思わないじゃないか。

 あの時のことを思い出して苦い顔をしているアルフォンスを前に、アリアは神に祈るように両手を結んだ。


「――私を、この村から連れ出してくださいっ!」


「…………え?」


「もう限界です! こんな目に遭わされて、それでもこの村の人のためになにかできるわけないじゃないですか!」


「…………」


 大きな瞳からぽろぽろと涙を流すアリアを見て、アルフォンスは己の中にあった熱のようなものが、すっと落ち着いていくのを感じた。

 いや、落ち着くどころではない。

 プラスだったものがマイナスになっていく感覚。

 なぜこうなるのかと思いつつも、アルフォンスは己の首を軽く振った。


「得策ではないです。この村の人々は今もなお王族に不信感を持っています。彼らを見捨てて出て行ったと思われてもおかしくない」


「見てくださいこの傷を! こんなにされたのにまだ彼らのために動けというのですか!?」


 手首の包帯、頬のガーゼ。

 足にも無数に傷がついており、痛くて寝れないのだとアリアは泣き続ける。

 彼女の言いたいことはわかるつもりだ。

 あれだけの悪意を向けられてなお、そのそばに居続けるのは恐ろしいだろう。

 だが今この村をアリアが出ていけば、彼らの目にはやはり王族は自分たちを見捨てたのだと思うはずだ。

 これ以上彼らの不満を増幅させるわけにはいかない。


「今はまだ大人しくしていてください。必ず良いほうに動くはずですから」


「嫌です! 私を連れ出してください! 私は……もうっ!」


 アルフォンスへと抱きついてきたアリアは、そのまま彼の胸の中でぐすぐすと泣く。

 誰が見ているわけでもないのに気まずいと、アルフォンスは両手を上にあげた。

 少しでも身の潔白を証明するために。


「…………申し訳ございませんが、俺にはやらねばならぬことがあります。この村から出て行きたいのなら騎士に願い出てください」


 こんな状態でアリアを説得することは不可能なのだろう。

 彼女が出て行きたいというのなら、もうそうするより他に方法はなさそうだ。

 本当ならここで出ていくのは悪手でしかないのだが、アルフォンスではどうすることもできない。

 だからこそ第二の選択肢を与えたのだが、下から見上げてくるその瞳は強い絶望が浮かんでいた。


「…………アルフォンスは一緒に、きてくれないんですか…………?」


「…………はい。俺には俺の、やるべきことがありますから」


 本当なら今すぐにでも魔物の子を探したい。

 子どもの無事さえ確認できれば、すぐにでもヘスティアに知らせてあげられる。

 そうすれば魔物との関係もうまくとり成せるし、ヘスティアも戻ってこられるはずだ。

 急いで動きたいと思っていると、そんなアルフォンスを見てアリアはぼそりとつぶやいた。


「…………ヘスティアさんのためですか?」


「――」


「ヘスティアさんが向こうに行っているから、私と一緒にきてくれないんですか?」


 アリアの包帯を巻いているほうとは逆の手首がきらりと光る。

 アリアはよくアクセサリーをつけているが、どれもこれも細く華奢なものばかりだ。

 だが今つけているのは太くゴテゴテとした黄金の腕輪で……。

 なんだろうか?

 なんだか嫌な感じがすると、首の後ろがひりついた。

 時折こういうことがある。

 直感というのだろうか?

 それともこれも精霊の加護なのかはわからないが、とにかくこの感覚があったら気をつけたほうがいい。

 聖剣を手にしてからのこの感覚は、絶対に無視できないとアルフォンスは一歩後ろに下がり、アリアと距離をとった。


「ヘスティアは関係ないです。魔物と人間の関係を悪化させるわけにはいかな」


「あの人は! アルフォンスを騙しているんです!」


 叫んだその声は屋敷の廊下に大きくこだました。

 流石にこれだけ騒げば皆聞き耳を立てているだろうが、アリアは気づいているのかいないのか。

 アルフォンスがとった距離を無にし、もう一度その胸に飛び込んだ。


「ヘスティアさんはアルフォンスを騙しているんです! あの人は傷ついた私にもひどい言葉を浴びせてきて……あ、あんなに冷たい人だと思わなかったです!」


 アルフォンスの服を掴みながら、アリアは力強く声を上げた。


「それに! あの人はアルフォンスを騙しているんです! あの人は人間に化けてアルフォンス、あなたと――」


 見上げてきたアリアを、アルフォンスはどんな表情で見つめていたのだろうか?

 少なくとも表情筋は動いていなかったように思う。

 アルフォンスを見上げてくるアリアの表情の方が、豊かな表現をしてくれているように思えた。


「…………そろそろ戻ります。あまり目立ちたくはないので」


 これでは隠密もできないなと、一旦部屋に戻ることにした。

 明け方にでも窓から出れば、多少は目眩しになるだろうか?

 ドアノブに手をかけたアルフォンスは、呆然と立ち尽くすアリアへと振り返った。

 

「あまり騒しくしないようにお願いします。今は大人しくしてくだされば、必ず王宮にお連れしますから」


 ドアを閉める。

 向こう側からどさりと倒れ込むような音がしたけれど、アルフォンスは振り返ることはしなかった。

 そっと己の口元に手を当てて、視線を横へとずらす。


「人間に化けて、ねぇ」

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