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【完結】拝啓、魔王様。この勇者どうにかしてください!〜魔族の姫は勇者に愛される〜  作者: あまNatu
第二章

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その頃アルフォンスは

「…………」


 ティーと別れたアルフォンスは、この村の長である男より自室にと与えられた部屋へと戻った。

 人に見られないよう気をつけ、外出していたことはバレていないはずだ。


「――ああ、ありがとう」


 ひとりでについた暖炉の火に、そう礼を述べた。

 他人から見れば独り言を言っているヤバいやつだと思われるかもしれないが、実はそこになにかいるらしい。

 なにか、とは俗に言う妖精の類だ。

 らしいという曖昧な表現なのは、自分にはその姿を見ることができないからである。

 アルフォンスには生まれつき魔力がない。

 古の時代には魔法を使えるものも多かったらしいが、時代と共にその数は減っていき、今では希少な存在となっている。

 だが中には魔法は使えずとも魔力を宿し、人ならざるものの姿を見たり、聞いたりできるものもいるのだが、残念ながらアルフォンスにその力はなかった。


「…………あったかい」


 ぱちぱちと音を鳴らし燃え上がる炎に手をかざせば、その暖かさにほっとする。

 朝夕になると途端に冷え込むこの地で、炎の存在はありがたい。

 姿は見えずともこれを出してくれたであろう存在に、改めて礼をした。


「君たちの姿が見えればいいんだけれど……」


 妖精と呼ばれるその存在は、聖剣を手にした時からアルフォンスの周りにいるらしい。

 聖剣の力かとも思ったが、どうやらそういうことではないようだ。

 少なくとも聖剣の伝説の中に、妖精に愛されるなんて特典的なものはなかった。

 ゆえにアルフォンス個人についているらしいそれらは、こうして常にそばにいて手を貸してくれる。

 ありがたい存在だ。


「…………さて」


 木でできた椅子を火の前に下ろして、その灯で懐に入れていた手紙を読む。

 流石に由緒正しい家柄に生まれただけはある。

 ヘスティアの文字は美しくて、ただそれだけなのに口端が緩んだ。


「……………………なるほどね」


 手紙には簡単に魔物側の事情。

 人間側への不信感と疑念。

 そしてこの地にいるであろう誘拐された魔物の男の子の身柄を確保して欲しいという内容が書かれていた。

 仮にこの子どもが無事に魔物たちに返されなかった場合、ヘスティアでも彼らを求められるかわからないと書かれており、アルフォンスは手紙から顔を上げ背もたれに身を委ねた。


「難しいな」


 もし仮にこの話が本当だったとして、まずその魔物の男の子がこの村にいる保証はない。

 もちろん探し出すつもりだし、最悪実力行使に出たっていいと思っている。

 それだけのことをこの村の人間はしているのだから。

 だが問題はそこじゃない。

 仮にもし、男の子の身の安全が確保できなかった場合、また戦争になる可能性もあるのだ。

 魔物たちはもちろん許してはくれないだろうし、人間たちだってどういう反応をとるかわからない。

 実際国王は一度、停戦及び和平の話を断っている。

 のちに回収された、瀕死のアルフォンスを見て受け入れたようだが、そこまでしないとわからない人なのだ。

 魔王という存在がどれだけ恐ろしいかを。


「…………ヘスティア」


 魔物と人間。

 二つの種族のために宿敵である勇者と結婚した魔物の姫。

 ヘスティアのことを憐れむ声があることは知っている。

 魔物たちからは絶大な人気があることは、昨日のこの村に押し寄せてきたものたちの反応でよくわかった。

 そんなヘスティアが一人敵国である人間界にやってきて、憎いだろう相手と結婚させられるなんて。


「俺を、憎んでるのかな」


 そんな片鱗を少しも見せないヘスティアは、しかし辛くないわけじゃないはずだ。

 だからこそ心配になる。

 今もこの事件に心を痛めていないか。

 傷ついていないか。

 悲しんでいないか。

 全てが、気になってしまう。


「会いたいって言ったら、君はどんな反応をするかな……?」


 手紙の端にそっと唇を当てる。

 たとえそれが最善であったとしても、行ってほしくなかった。

 自分のそばにいて欲しかった。

 けれどそれは叶わない。


「君は自由だから」

 

 アルフォンスの中で、ヘスティアは羽根だった。

 美しく触れることを躊躇うような存在。

 自由にあちこち動き舞い続けるのに、最後にはこの手の中に帰ってきてくれる。

 触れることを躊躇うのに、触れたくなる不思議な女性。


「……君のために」


 そんなヘスティアの願いを無碍になんてできるはずがない。

 アルフォンスは立ち上がると椅子を戻し、ゆっくりとドアの方へと向かう。

 ひとまずあれこれ考えるのは後だ。

 まずは魔物がこの村にいるのかどうかを、探らなくては。

 幸い今は夜中であり、これなら人目につくこともない。

 まずは一番怪しいこの屋敷を探ってみようとドアノブに手をかけた時だ。

 扉の向こうに人の気配を感じた。


「――」


 手はドアノブから瞬時に剣へと伸び、いつでも動ける体制になる。

 こんな時間にいったい誰だと、気配を殺し待っていると扉がノックされた。


「アルフォンス? 私です、アリアです」


「――王女殿下?」


「お話があってきました。……開けて、くれませんか?」


 いったいなんの用だと眉間に皺を寄せつつ扉を開けると、そこには手に包帯を、頰にはガーゼをつけたアリアがいた。

 

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