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【完結】拝啓、魔王様。この勇者どうにかしてください!〜魔族の姫は勇者に愛される〜  作者: あまNatu
第二章

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にこにこと

「――…………ティー?」


「久しぶりね」


 森の中現れたアルフォンスは大きく目を見開いている。

 彼と結婚したその時から、人間の姿で会ってはいない。

 いや、会うつもりもなかったのだ。

 なぜならバレたらとんでもないことになるから。

 絶対にヘスティアとティーが同じ人物だとバレてはいけないと心に決めていたのだ。

 だからこそ下手を打たないためにティーとしてアルフォンスに会うことはないようにしたかったのだが……致し方ない。


「あなたに話があって――……」


 ひとまず話を進めようとしたヘスティアは、突然の衝撃に言葉を止めた。

 アルフォンスに正面から抱きしめられたのだ。

 彼は震える手でヘスティアの肩を掴むと、回した腕に力を込める。


「――……よかった、無事でっ」


「な、なに心配してるのよ。ちょっと会えなかっただけで……」


 確かに黙って姿を消しはしたけれど、今までもヘスティアが気まぐれで現れ話をするだけだった。

 まあその時間が空いてしまったのは申し訳ないが、こんなに心配されるほどではないと思う。

 だからそう伝えたのだが、なぜかアルフォンスは少しだけ不思議そうな顔をした。


「………………そう、だね。ティーに会うのは久しぶりだったから」


「忙しかったのよ。…………それに、あなた結婚したんでしょ? なら私が会いに行くのはどうかと思ったのよ」


「ああ……うん。そうだね。それは、そうだ」


 なんとも言えない表情をするアルフォンスに、ヘスティアは片眉を上げた。

 なぜそんな顔をするのだ。

 もしかしてこの結婚に不服でもあるのかと、変な勘ぐりをしてしまう。


「…………なによ。まさか結婚に……納得してないの?」


「ん? いや全然。……とってもいい奥さんなんだよ。素直じゃないところが可愛いんだ」


「――…………そう、なの」


 やはり聞くんじゃなかった。

 自分のことなのに自分のことじゃないように振る舞わなくてはならないことの苦痛がとんでもない。

 赤くなりそうになる顔をなんとか平常心を持って収めようとする。

 もちろん収まってなんていなくて、耳が赤くなっているのだがヘスティアはそれには気づいていない。


「じゃあなんなのよ、その反応」


「んー……。俺の花嫁様は幸せなのかなって、時々不安になるんだ」


「…………はぁ? 意味がわからないんだけど……」


 なにを言ってるんだこの男は。

 ヘスティアが幸せかどうかがなぜ今話題になるのか全くもってわからない。

 不思議そうにしているヘスティアを見て、アルフォンスはくすりと笑う。


「なんだかんだと勇者として忙しくしてて、恋愛とかそういうのに疎かったところがあってさ。嫌な思いとかしてないといいなって……。ちゃんと幸せにできてるのかなって思っちゃうんだ」


 それはまあ確かに、結婚初夜をすっぽかされてさらには他の女を愛しているなんて宣言されたら、普通の人なら出て行くだろう。

 ……まあその相手が結局はヘスティアの変化だったので納得はできたが。

 まさかアルフォンスがこんなことで悩んでいるなんて思わなくて、ヘスティアは口をむにむにと動かした。


「………………奥さんがなにか言ったの?」


「まさか。いつも気を遣ってくれてるんだ。俺のような男にはもったいない女性だよ」


「………………」


 ああ! もうむず痒いと、ヘスティアは首を振って思考を正常に戻す。

 これ以上は体に悪いと、さっさと結論づけることにした。


「あなたが気遣うに値する人だってことでしょ。つまり……奥さんはあなたを大切にしてるってことよ」


 言いながらも恥ずかしくなってしまった。

 何度も心の中でこれはヘスティアであってヘスティアではないのだと言い聞かせるが、あまり効果はないようだ。

 なぜこんな辱めを受けるんだ……。

 と思っていると、ヘスティアの言葉を聞いたアルフォンスが嬉しそうに笑う。


「――ありがとう。すごく自信がついたよ」


「…………あ、そう」


 まあこれで少しでも彼が納得できたのならいいかと、手に持っていた手紙を差し出した。


「あー、これ。たぶんあなたの奥さんでしょう人から預かったの。渡しておくわ」


「……ヘスティアから?」


 手渡された手紙をまじまじと見つめたアルフォンスは、しばしの沈黙後それを胸元にしまった。


「ありがとう。人のいないところで読むことにするよ」


「そうして。なにか返事がしたかったらあのリボンの結んである木にくくりつけておいて」


 そう言って指を刺したのは、赤いリボンが枝に巻かれている木だった。

 アルフォンスはこくりと頷くと、ヘスティアをじっと見つめる。


「ねぇ、ティー」


「なに?」


「もし可能ならヘスティアに伝言お願いしてもいい?」


「…………大丈夫だけれど」


 まあ結局はヘスティア自身が聞くことになるのだから伝言もなにもないのだが、彼がそれを望むのならいいかと頷いた。

 すると彼はにっこりと、本当にいい笑顔を向けてくる。


「止めたのに勝手に行ったこと、怒ってないからねって。あと絶対無事に傷一つなく戻ってくるようにって伝えてくれる?」


「…………ぅ、うん。わかったわ……」


 なぜだろう。

 怒ってないって笑いながら言ってるのに、怒ってるのが手に取るようにわかる。

 ぷるぷると震えるヘスティアに、アルフォンスはただ穏やかに笑うだけだった。

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