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【完結】拝啓、魔王様。この勇者どうにかしてください!〜魔族の姫は勇者に愛される〜  作者: あまNatu
第二章

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ねぎらう

 心底驚いたように目を見開く騎士に、ヘスティアは片眉を上げる。


「……あなた、よほど権力者の薄汚さを見てきたのね」


「それはもう。……まあ仕方ないんでしょうけどね。人間たちは基本、魔物に殺されてばかりで明日は我が身ですから。力あるものならそんなことから逃げたいと思うのはわかりますし」


「…………そう。まあ、そうね。誰も死にたくなんてないものね」


 だからといって人になすりつけていいものでもないけれど。

 一番いいのは争わない世界を作ること、なのだろう。

 ヘスティアもそれを目指してこの国にやってきたわけだが、いろいろ思うところはある。


「まあ、あの無能王じゃ下の人間はいろいろ苦労しそうね」


「魔王は優秀なんですか?」


「それ、娘の私に聞く?」


「…………そうですね、失礼しました。あなたの様子を見てればわかります」


 それだけ言うと騎士は立ち上がり、最後にぼそりとつぶやいた。


「――魔族が羨ましいです」


「…………」


 本当にそれだけ言うと、騎士は宴会の中へと消えていった。

 どうやら酒や食べるものがなくなってしまったらしい。

 近寄れば食事や飲み物を分けてもらえている様子に、正直羨ましいとその背中を見つめてしまう。

 流石にお腹空いたなと、もう一度膝を抱え込もうとした時だ。

 目の前に美味しそうな肉の串が差し出された。


「ごめん、遅くなった」


「…………あなた、ここにきていいの?」


「え? うん、もちろん。それよりほら、これ食べて。飲み物もあるよ」


 そう言ってアルフォンスはヘスティアに、盛りに盛られた皿を差し出してきた。

 肉に野菜にパンまであり、ありがたいと受け取る。


「お腹空いてたから嬉しい。……ありがと」


「どういたしまして。むしろごめんね。お腹空いてたのに気をつかってたんだよね? ありがとう」


 お互いに礼を言いあうなんて変なのと笑いながらも、隣へと腰を下ろしたアルフォンスの横顔を盗み見る。

 あっちこっちに連れまわされて村人の相手をさせられて、きっと疲れただろうに。

 それでもヘスティアの元へ来てくれた。

 そう思うと冷たく凍っていた心に、ぽっと灯りが灯ったように感じる。

 暖かくて優しいそれに、ヘスティアはそっと口端を上げた。

 

「別にもういいわよ。…………あなたがこうしてきてくれたから」


「…………うん。くるよ。君の夫だからね」


 なんだそれ、とは思いつつも口は開かなかった。

 少し離れたところで楽しそうな人々の声がする。

 宴会になっているのか、酒が入っているからか時折盛り上がったように大きな声が聞こえた。

 普段なら煩わしいと思えるそれも、今は少しも気にならない。

 そんな声を聞きつつも、ヘスティアはそっと頭を横へと倒した。


「――」


「…………」


 穏やかな空気が流れる。

 先ほどまで荒んでいた心がすっと落ち着いていくのを感じた。

 不思議だ。

 ただ彼がそばにいて、ヘスティアを優先してくれるだけでこんなに嬉しなんて。


「……正直最初はこんな旅最悪だって思ったわ。あのお姫様の相手しなきゃいけないし、ここに来たら来たで腫物扱い。……まあ、予想はできたけれどね」


「……うん。だから可能な限り隠そうとはしたんだけど…………」


「……」


 ちらり、とヘスティアは横目でアリアを見る。

 村の子供達から花の冠をもらい喜んでいる彼女を、確認しつつ大きくため息をついた。


「純粋なのか悪意なのか……。どちらにしても彼女のしたことで面倒になったわ。少なくとも私はこの村を自由に動くことができなくなった」


「ここにきた目的はあの男の子の話を聞くこと。それと魔物との関係がどうなっているかを知ること。村人から話を聞くことも大切だけれど……」


「裏をとらなければ、ね」


 あの男の子の話を聞いた時から違和感しかなかった。

 この村で生活をしていたあの男の子と母親は、魔物が襲ってきたからという理由で連れて行かれたのだ。

 ――人間に。


「おかしいわよね。魔物が自分たちの領地に攫うっていうのなら……まあ、わかるわ。戦争中はよくあったことだから。でも人間が人間を攫ってどうするの?」


「魔物が襲ってきたからってあの男の子は言ってた。…………考えたくないけれど、生贄として男の子の母親を連れて行った可能性は高い」


 だとすれば、普通の感覚をここの村人が持っているのならば、男の子の話はしたがらないだろう。

 だか相手は勇者と王族。

 話せないで通せるとは思えない。

 そうなった時人間がどうするか。


「少なくとも馬鹿正直に話してはくれないでしょうね」


「隠蔽されてもいいように、裏から探りたかったんだけど……」


「私は動けそうにないわ。こそこそ動いてるのがバレたら村人が怖がるでしょうし」


 だから正体を隠したかったというのに、とアリアをじとっと見つめてしまう。

 まあ起こってしまったことはもう諦めようと、体から力を抜いた。

 ずっしりと肩にのしかかると、なぜかアルフォンスは笑う。


「これが終わったら旅行にでも行こうか? 労いも兼ねて」


「あら、いいわね。にゃんことララも連れて行きましょう。きっと喜ぶわ」

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