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・エピローグ 4/5 - この素晴らしい友情に報いるために -

「父上が言うにはね、あの災厄の日に僕は、霧の結界の中で、終わらない学校生活を夢見ていたそうなんだ」

「ああ、その話は今朝聞いた」


 ジュリオは俺の返答に言葉を詰まらせて絶句した。


「父上め、勝手なことを……」


 しかし次官は『これは秘密だ』なんて一言も言わなかった。

 よって俺は悪くない。


「今日は大目に見てやれ。お前の卒業がよっぽど嬉しいのか、今日の次官はいつもの次官じゃなかった」

「はは、それ、ちょっと見てみたかったなぁ……」


 父親の様子を聞かされて、ジュリオは嬉しいというより恥ずかしそうな顔をした。

 その表情がまた真剣なものに戻っていった。


「グレイ……君はあそこで、君が居た頃のイザヤを見たそうだね……?」

「ああ、2つ上の先輩方の姿もあった。つまりお前は、俺たちが1年生だった頃の夢を見ていたんだろうな」


「そうだったんだと思う……。あの頃は楽しかった……」

「うん。グレイが毎日騒動を起こすから、あの頃は退屈しなかったよね」


 当時は上手く同級生と馴染めず苦労した。

 だが隣にはいつだってジュリオとトマスがいて、いい友達でいてくれた。


「リチェルちゃんが羨ましいよ……」


 いつもは気配りの出来るジュリオが、突然リチェルを深く羨んだ。


「ごめんね、ジュリオ……。リチェルがお兄ちゃん、取っちゃったせいで……」

「ああ、僕は何は言っているんだ……。ごめん、君のせいではないよ……」


「ううん、リチェルが悪いよ……!」

「違うよ。セラ・インスラー、あの人のせいだ。父と僕は同じ見解に落ち着いた。悪いのは、セラ・インスラーだ!」


 ジュリオが誰かに敵意を持つなんて、珍しいこともあったものだった。


「で、でも……セラせんせー、やさしいよ……?」

「それはない」


 そこばかりはツッコミを入れずにはいられず、俺は即答していた。

 面倒見のいい立派な人であるのは認めるが、アレはいい人ではないぞ。


 どっちかというとセラ女史は、悪い大人だ。


「えーーっっ、セラせんせー、やさしいのに……!」

「リチェル、やさしい人は公園や建物を焼いたりはしないんだ」


「そ、それは……そーだけど……。でも、リチェルにはやさしいもん……」

「ああ、女性と子供にはやさしい人だな」


 わかっているからと、リチェルの背中を撫でてなだめた。

 そうしながら周囲に耳を澄ますと、たくさんの言葉が聞こえて来る。


 最も多いのが『おめでとう』で、その次に多いのが『さようなら』だ。


「またな、グレイボーン!」

「さよなら! マレニアでがんばってね!」


 俺に気付いた元クラスメイトが、さよならの言葉を残して校門の先に消えてゆく。

 それはとてもとても、寂しい光景だった。


 もう2度と、あいつらとは会うこともないかもしれない。

 そう思うと、俺まで少ししんみりとした気分になる。


「グレイ、これからは開拓省の役人として、君を陰から支えるよ」

「僕の方からも、グレイにいつか仕事を回せるようにがんばるよ! 僕たちここでお別れじゃないよ! これからもずっと友達だよ!」


 トマスに肩へと手を置かれると、ジュリオも同じようなことをして来た。

 関係が卒業や就職で終わることを、この2人は恐れているのだろうか。


 いや程度の差はあれど、俺も同じかもしれない。

 卒業を契機に関係が疎遠になることは、もはや必然と言ってもいい宿命だ。


「ジュリオ、トマス、聞いてくれ」


 だったらここで、この友情を永遠のものにすると、誓いを交わせばいいと俺は思った。


「俺は冒険者として、生涯ジュリオとトマスの力になると、ここに誓うよ。だからその代わりに、2人は俺の力になってくれ」

「グレイ! うんっ、喜んでっ! 僕は学者として、生涯グレイとジュリオの力になると誓う! だからたまに僕の力にもなってね!」


 宣言するとすぐにトマスが続いてくれた。

 ひねくれたところのないトマスらしかった。

 こうして誓ってもらえると、友達として嬉しくて胸が熱くなった。


 一方でジュリオは、全校の誰もが尊敬する卒業主席の優等生とは思えないほどにまた大粒の涙を流して、袖でその整った顔を拭った。


「ぼ、僕は……役人として……生涯、グレイと、トマスと……ぅ……ぅぅ……ぅぁ……っ」

「ジュリオッ、がんばれーっ、がんばれーっ!」


 ジュリオはまるで子供みたいに泣いた。


「僕は……君たちの力になるよ……。僕たちは、ずっと、友達だ……。いや、今日からは、誓いを共にした盟友だ……っ! 僕は役人として、君たちを支えるっ! この素晴らしい友情に報いるためにっ!!」


 洗練されたシティーボーイのジュリオ・バロックもいいが、感極まって熱い涙を流すジュリオも友達がいがあってよかった。

 こっちまで目頭が熱くなって、つられ涙を流しそうになってヤバかった……。


 俺たちは互いを支え合うという盟約を交わして、この関係がこれからもずっと続くように願った。


「さてリチェル、そろそろ俺たちは帰るか。母さんとハンス先生へのお土産、何がいいかな……?」

「あ、グレイが涙声になった!」


「これは、つられ涙だ……」

「あはははっ、グレイが泣くなんて、なんか珍しいなぁ!」

「お兄ちゃん!」


 そんなに兄貴の泣き顔が気になるのか、リチェルに正面に回り込まれて、顔をそむけることにもなった。


「またね、グレイ。君に任せられそうな仕事はどんどん振ってゆくつもりだ。君が冒険者としての大成を望むなら、僕は役人としての出世や国の改革を目指すよ。僕が陰から君を支える」


「じゃあ僕はグレイとジュリオの力を借りて、偉い学者になる。またね、グレイ!」


 ジュリオとトマスに手を振って別れた。

 まだ名残惜しそうなリチェルの手を引いて、イザヤの校門を出た。


 それから昼食を済ませ、繁華街で山ほどの土産を買って、中央トラム駅から故郷に続くトラムに乗り込んだ。


 心地よい風を感じながら、俺たちは西へ西へと運ばれる。

 1人では車窓を楽しみようのない俺だが、隣にリチェルがいれば、空想の翼をいくらでも広げられた。


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