・エピローグ 3/5 - 一緒に卒業するはずだった -
ジュリオたちの卒業式が終わった。
次官とジュリオのスピーチ以外は、これといって新鮮味のない式典だった。
「リチェル、終わったぞ。ジュリオとトマスに会いに行くぞ」
「あ…………寝てた……」
「だるいならおんぶしてやる。さ、行くぞ」
「うん……」
ちょっと大きな女の子を背中に背負って、俺は講堂を出て行った卒業生たちを追った。
ちなみにバロック次官はこっちの学院長なり、お偉いさんたちなり、もろもろの方々に捕まってしまった。
外に出ると、俺は元クラスメイトの姿を見つけるたびに、卒業おめでとうと祝福の言葉を贈った。
希望にあふれる笑顔でみんなが祝福を喜んでくれた。
「あっ、トマス! ジュリオもいたーっ!」
「あ、リチェルちゃんとグレイだよ、ジュリオ!」
ジュリオたちは桜の木の下で休んでいた。
リチェルが声を上げると2人はこっちに駆けて来て、俺の自慢の妹に注目した。
「卒業、おめでとーっっ!!」
「ありがとう、リチェルちゃん!」
「2人とも来てくれて嬉しいよ。……父上は?」
「偉そうな人と、お話してる!」
「学院長たちに捕まってた」
リチェルを背中から下ろすと、トマスの前に飛んで行った。
俺はジュリオの前に立ち、顔をのぞき込んだ。
「なんだ、感動に泣きべそ上げてるのかと思ったら、普段通りじゃないか。……ん、トマスはちょっと泣いたな?」
「ホントだーっ! トマス、目っ赤い!」
「泣くのが正常だよ。ずっと一緒だったみんなと、これっきりのお別れをしなきゃいけないんだから……寂しいに決まってるよ……」
リチェルにまで顔をのぞき込まれて、トマスは逃げるように下がった。
「ああそうそう、卒業おめでとう」
「はぁ……泣き顔を茶化す前に、その言葉が欲しかったよ……」
それはトマスのいじりがいのあるリアクションがいけないんだ。
「グレイは……正直じゃないからね……。ありがとう……グレイ……」
「ジュリオ……?」
スピーチで泣きもしなかった男の声が今、いやに震えていたような気がする。
まさかなと思いながらも再びジュリオに顔を近付けると、整った両目から大粒の涙がこぼれ落ちるところを見てしまった。
「泣いて、悪いかい……?」
「いや、正常だ。この状況で泣かない方がおかしい」
つられ涙か、それを見てトマスも目元を拭い始めた。
「卒業、おめでとーっ、ジュリオ! あと、トマスも!」
「なんかおまけみたいな言い方だけど……ありがとう」
「すまん、リチェルに悪気はないんだ」
しかしこうしてジュリオとトマスと一緒に立つと、どうしても感じてしまう。
俺たちは一緒に卒業するはずだったのに、と。
「君と一緒に卒業出来なかったのが本当に残念だよ……」
この前もジュリオは同じようなことを言っていた。
「そうだね……。でもグレイはマレニアの方が合ってたんだよ。だって昔より、ずっと生き生きしてるもん」
「そうだけど……。残念なものは残念だよ……」
ジュリオは涙を拭い、背筋を伸ばした。
ジュリオの中にはまだ未練があるようだった。




