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・再びイザヤへ - 女史は焼き討ちがお好き -

「市民公園を焼くとは正気かね、君らはっっ!!」


 議事堂に入るなり、議員先生方はそりゃ怒った。

 いくら戦術のためだからといって、公園を焼くやつがいるとは俺だって思わなかった。


「自分ではない。火を放ったのは、マレニアのセラ様だ。文句があるなら彼女に直接どうぞ、先生方」

「セ……ッッ、セラ、教官が、き、来ているのかね……?」


「呼びましょうか?」

「い、いや結構だっ! 戦いのためなら仕方ない……っ!」


 ああ、そうか……。

 ここの連中の大半も、セラ女史の教え子なのか……。


 領地を得た二代目以降となると、マレニアに通うことになるわけだからな……。

 セラ女史が突入隊に同行したのは、これのためだったか。


「それよりも先生方、腕は鈍っておりませんね? お力を貸していただけませんか?」

「い、嫌だと言ったら、女史が我々をわからせるのだろう……!?」


「それは先生方の返答次第かと」

「た……戦おう……」


「ありがとうございます、先生方! では、避難誘導を始めましょうか。近隣の者を全て、この議事堂に集めるのです」


 そりゃ大変な大仕事だ。

 周囲は霧だらけ、モンスターだらけ。

 支配階級がやる仕事ではない。

 なんかゾンビがあふれるパニック映画みたいだ。


「わ、私はもう5年も剣を握っていないんだ! そんないきなり、戦えと言われても――ヒッッ!?」


 いたのか、女史。

 女史がカツカツと足音を鳴らして、不平を言った議員先生の前に立った。


「ここで豚に変えてもよろしいのですよ? 豚として死ぬか、誉れある戦士として死ぬか――」

「う……嘘ですっ、本当は訓練を欠かさず……っ、お、お許し下さい、セラ教官っっ!!」


 ま、そういうことになった。

 突入部隊と動員された先生方、それと警備隊は、民を守るために議事堂を出て行った。



 ・



「カミル、貴方は計画通り議事堂正面を守りなさい」

「了解しました、セラ教官」


「グレイボーン、貴方は私とこちらへ」

「さっき出て行った連中の方が幸せだったかもな……」


 俺たちも配置に付いた。

 殺傷力増し増しのカミル先輩が出入り口の安全を確保し、俺とセラ女史は見晴らし台に上がった。


 霧が深く、イザヤの学舎はここからでは見えない。


「ファイアーボールッッ!!」

「ちょっっ、ああああーーっっ、アンタなぁぁっっ?!!」


 議事堂南部にあるあの建物は……議員宿舎?

 セラ女史にファイアーボールをぶち込まれた宿舎は赤々と燃え上がり、辺りの霧を晴らしていった。


「何か?」

「何かじゃねーよ……っ。常識のない俺もっ、アンタの傍若無人っぷりにはドン引きだよ……っっ」


「……あの辺りも焼いておきましょう」

「あ、こらっ、止めっ、あーーっっ?!!」


「あれはクノル家の別荘です。ドラゴンの火に焼かれてしまったようですね」


 もはや何も言うまい……。

 俺は最悪のスポッター・セラ女史が刻んだ非常によく輝く刻印を、残弾が尽きるまで重弩でぶち抜き続けた。


 グォォォッッ!!!


 とか


 ギャオオオオーッッ!!


 とか


 ピギャラァァーッッ!!


 とか、怪獣大決戦な叫び声があたりからとどろいたが、何せ見えん。

 しかしまあまあの支援にはなっただろう。


「おおっ、天から救いの矢がっ!!」

「う、嘘だろ……っ、屋根よりでかいドラゴン、一発で……っ?!」

「燃えている……我々の議員宿舎が、燃えている……」

「助かりました、議員様! まさか直々に私たちを救いに来て下さるなんて……」

「カミル様っ、素敵ーっ!!」


 下は下でなんか大騒ぎだ。

 逃げ遅れた市民が議事堂に集まって来て、やっと助かったと口々に喜んでいた。


「妙ですね」

「何がだ?」


「イザヤの生徒の姿がありません」

「なんだと……?」


 見晴らし台から身を乗り出しても俺の目には見えない。

 イザヤのみんなを守りたくてここまで出張ったというのに、それはないだろう……。


「弾も切れたことです、激励にまいりましょう」

「ああ、先生方が泣いて喜びそうだ」


 俺たちは見張り台を降りた。

 最悪の報告を聞くことになるかもしれないと思うと、気が重かった。


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