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・再びイザヤへ - ふわふわの飛竜のいる冬 -

 12月に入ると、肌で感じられるほどに学内が慌ただしくなった。

 前期に続き、期末の現地実習が迷宮で行われることに決まり、マレニアの学生たちは少しでもいい成績を得ようと、水面下での勧誘活動を始めていた。


 俺たち一年生にあてがわれたのは、3人編成の迷宮だ。

 それもまあまあ実入りのいいところだそうだ。


 前回失態を冒した冒険者組合は、しばらくはマレニアに頭が上がらない。

 よってこういったことになったそうで、クラスの仲間たちも小金が稼げるかもしれないと喜んでいた。


「ボンちゃんおはよー」

「ああ、おはよう、レーティア」


「ちょいストップ! そこ凍ってるからひっくり返っても知らないよーっ!」

「そうか、助かった。そっちは雪かきか?」


「うん、感謝してよねー。夜明けからずーっと、やってあげてんだから!」


 都では一昨日から雪が降ったり止んだりとしている。

 その雪を10月頃に雇われた新人用務員が、息を白くして回廊からどけてくれていた。


 そう、セラ女史はレーティアを用務員として雇った。

 レーティアは来年、この若さでここの試験を受けるつもりだ。


 合格出来るかはわからないが、自分なりにやれるところまでやってみるそうだ。


「ねー、リチェルとあの子はー?」

「まだ寮だ」


「リボンの炎の息でさー、この雪どけてくれないかなー……」

「凍ったのが解けて、余計面倒になると思うが?」


「うーー、今年寒過ぎだよー! これじゃ訓練どころじゃないしー!」

「わかった、手伝おう」


「え、いいのーっ!? あっ、リボンだ! ねぇねぇっ、この雪、あの火で解かしてよーっ!」

「おい、止めろ、アイスバーンになるぞ!」


 また寮を抜け出して来たのか、白くてふわふわの飛竜がレーティアの視界を横切った。

 リボンはレーティアに懐いている。

 お子さま同士だからな。


「ピィッ♪」


 リボンは頼られたのが嬉しかったのか、鷹のように高い声で鳴いた。

 それから生後2ヶ月とは思えない飛翔能力で、レーティアがどかした雪の塊の前に飛んで来た。


 そして俺の話も聞かずに、その雪に炎のブレスを吐いたとくる……。


「あははっ、すっごーーいっ!!」

「止めろ、お前らっ、女史にまた叱られるぞ……っ!」


 雪は見る見るうちに液体となり、調子に乗ったリボンは除雪された雪を次々と解かし回っていった。


「ピィィ……フゥ、フゥ……」


 だが竜はすぐにガス欠になった。

 疲れた竜は体当たりをするように俺の胸に飛び込み、甘え上手にも自分を抱かせた。


「ほら言わんこっちゃない、アイスバーンになるぞ、これ……」

「でも一応消えたし、いいじゃん」


「よくねーよ……」


 雪は枯れた芝生の上で、解けかけのグズグズのシャーベットになっている。

 俺は甘えん坊の竜を撫でて、その子をレーティアに抱かせて、除雪に使っていたスコップを奪った。


 こうなったら固まる前に、人の通らない端っこに寄せるしかない。


「よーしよし、ありがとうなー、リボン!」

「ピィー♪」


 余計な仕事を増やしただけじゃないか……。

 とは言えん。

 リボンは人の言葉がわかるようだった。


「あーーっ、いたーーっっ!! もーっ、勝手に外出ちゃダメって、言ってるでしょーっ!」

「あ、逃げたー」


 そこにリチェルが現れた。

 消えたリボンちゃんを捜していたようだ。


「こらーーっ、リチェルの言うこと聞きなさーいっ!」

「リチェル、指輪の力を使ったらどうだ? ステイ・リボンだ」


「可哀想だからダメーッ!」

「そうか」


 逃げる子竜を追ってリチェルは走り出した。


「あっ、そこっ!」


 そこは凍っているところだと、さっきレーティアに教わった。

 俺はスコップを捨てて駆けた。


「あ……っ?!」


 後ろにひっくり返りかかっていた妹に飛びかかり、寸前のところでどうにか抱き支えた。


「ナイス、ボンちゃんっ!」

「あわわわ……び、びっくりしたぁ……」


 今年の冬は異常だ。

 軽いリチェルをわざわざ下ろすのもなんなので、このまま通学してしまおうか。


「ピィ……?」

「あはは、戻って来たじゃん。リボンはいい子だなー!」


 そう考えていると、白いふわふわが引き返して来て、今度はリチェルの腹の上で丸まった。


「もーっ、心配させないでーっ!」

「過保護過ぎないか?」

「はぁー? それボンちゃんが言っていいセリフじゃないんだけどー?」


 まったくもってその通りだな。

 だがそれはそれ、これはこれだ。

 改める気は欠片もない。


 俺はそのまんま、竜とお子さまを抱いて教室まで通学した。

 その日はそんな寒い冬の日だった。

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