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・誕生の夜 - 誕生 -

 部屋に戻るとコーデリアは不在だった。

 もしやと思いテーブルを見ると、風呂に行って来ると書き置きがある。


「風呂、入るか?」

「……ほへ…………?」


「無理そうだな。なら一緒に卵と寝るか?」

「あれ……たまご、どこ……。リチェルの、たまご……」


「魔法の言葉があっただろう。サーモン・リボンだ」

「さーもん、りぼん……?」


 現れた卵をキャッチして、リチェルをベッドに寝かせた。

 すぐに寝息が上がり、俺も兄の当然の権利として一緒に横になった。


 今日は俺が卵に魔力を与えよう。

 卵を抱いて、リチェルと一緒に目を閉じた。


 いい休みだった。

 レーティアの処遇が少し心配だが、それは後で考えよう。

 俺の妹は眠っている姿も世界一かわいかった。



 ・



 あまり寝た感じはしなかった。

 急に目が覚めてしまい、暗くなった室内で俺は目を開いた。


 リチェルはまだ眠っている。

 コーデリアの気配はない。

 まだ風呂だろうか。


「ん……寝相の悪いやつだな。ん……?」


 手元でモゾモゾと何かが動いていたが、それはリチェルではなかった。


「リチェル、リチェル。起きろ、見逃すぞ?」

「んえ…………? お兄、ちゃん……?」


「寝てていいのか? なんか、お前の大事な卵が揺れているようだが?」

「…………えっっ?!!」


 リチェルは飛び起きた。

 明かりの魔法をパッと灯して、大事な卵がいつもある辺りを見下ろした。


 するとそこには、兄が言う通りグラグラと揺れる卵があった。


「ひび、入ってるっ! わっ、わあああーっっ!」

「さて、どんなやつが産まれて来るかな。かわいくなかったりしてな」


「かわいいに決まってるよーっ! あっあっあっ、なんか、白い!」


 見ると確かにそれは白かった。

 白くてふわふわとした口が卵を割って生えた。


「ちょっと待て……いやに、ふわふわしてないか?」

「ふわふわのドラゴンかもーっ!」


「そんなバカな」

「あっ、出てくる! がんばれっ、がんばれーっ、がんばれーっ!!」


 飛竜のヒナは少しずつ殻を割って外に出ようとしている。


 大丈夫だろうか……。

 途中で力尽きたりしないよな……?

 見ているだけで、なぜだか無性に心配になってくる……。


「リボンちゃん、がんばれーっ!」

「なあ、それ雄だったら――おっ」


 名前を呼ばれて反応したのか、竜はついに殻を割って姿を現した。

 頭に引っかかった殻を、リチェルは壊れ物に触れるかのように慎重に取り除く。


「お、お兄ちゃん、大変っ! か、かわいい……」

「そりゃヒナだからな。羽毛みたいな毛が生えてるが……こりゃ竜だ」


 リチェルはその子を抱いた。

 その子は俺とリチェルをジッと見つめている。


「ふ、ふわふわ……しっとり、ふわふわ……」

「シフォンケーキか?」


「ケーキより、ふわふわ! リボンちゃん、かわいい……」


 名前を呼ぶと、竜が小さく鳴いた。

 産まれたばかりの小鳥のヒナのような、小さな鳴き声だった。


 セラ女史が言った通り、かなり成熟した状態で産まれた。

 やがて竜はリチェルの両手の上で立ち、翼を広げて羽ばたいた。


 さすがにまだ飛べたりはしないようだ。

 だが動きはかなりしっかりして来ている。

 これならば心配はいらなそうだった。


「お兄ちゃん……かわいい……」

「そのセリフ3回目だぞ」


 リチェルがヒナを包み込むと、ヒナは甘えるようにリチェルにすり寄った。

 まあ確かに、胸の中が爆発しそうなほどに、ヤバいかわいさだった……。


「ただいまですわーっ、今日はすっかり長湯してしまいましたわーーっ!」

「ピィッ?!」


「あら……っ?」


 コーデリアのやつ、間が悪いな。

 白くてふわふわのヒナは、突然の外敵に驚き、翼を羽ばたかせた。


 するとそのやわらかな身体はリチェルの両手をすり抜け、なんと宙に浮き、部屋の奥へと飛んで行ってしまった。


「ああああーっ、リボンちゃーんっ?!」

「なんてタイミングで帰ってくるんだ、お前は」

「産まれましたのっ!? 産まれましたのねーっ!?」


 あの竜、リボンちゃんはどこだ……?

 リチェルがベッドを離れ、リボンちゃんの名前を呼んで部屋中を捜した。


「ピィィ……」


 そしたらなんか、俺の背中の後ろに隠れていた。

 抱き上げてみると、確かにほんのりしっとりのふわふわだった。


「あっ、お兄ちゃんのとこにいたー!」

「さ、ささささっ、触らせて下さいましーっ!」


「お前が落ち着いたらな」


 子供だからそうなのかもしれないが、その竜はずいぶんと甘えん坊だった。

 身をすり寄せられると、俺は男だが、ママになってもいいような、異常な庇護欲が脳髄を刺激した。


「セラ女史のところに報告に行って来る。しばらく任せた」

「えーーっ、お兄ちゃんと、リチェルの、子供だよーっ?」


「だからこそ、最大の功労者に祝って欲しいだろ」

「わたくし、落ち着きますの……落ち着いて、リボンさんに怖がられないやさしいおばさまになりますの……っ、スーハァスーハァスーハァッ……」


 今日何度目の感想かわからんが……。

 大丈夫か、お前?


「ピィ……」

「お兄ちゃんっ、娘が、娘が寂しがってるよー?」


 小さく鳴いたのはそういう意思表示だそうだ。

 俺はふかふかでやわらかい竜を小指で撫でた。


 あまり雑菌とかくっつけるのも心配だ……。

 こうして産まれたからには、健康に育ってくれないと……。


「わ……わたくしが行ってまいりますわ……。行かないでパパと、そう言っている気がしますの……」

「パパ? パパな……?」

「リチェルがママなのですっ!」


 まあ、お前がママというならママだろう。

 どうも気恥ずかしくなって来た俺はコーデリアの善意を断り、セラ女史のところまで報告に出た。

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