表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/93

・誕生の夜 - あら変態…… -

 今動いたら全部出てしまうそうだ。

 何がって、コーデリアの胃袋の中身が。


「いいのか? 欲しいのがあったら奢ってやるぞ?」

「わ、わたくし……うぷっ?! あ、貴方と一緒にいると……うぶっ?! 堕落、してしまいますわ……け、結構ですのよ……っ!」


「こっちは奢るのが楽しいんだ。遠慮なんてしなくていいぞ?」

「いえっ、大金を借りているのですっ、これ以上は――んっ、んがんぐっっ?!!」


 コーデリアには銀貨を少々握らせて一端別れた。

 堕落してくれて結構。

 こっちは今のうちに恩を着せまくっておくつもりだ。


 俺たちはコーデリアを残し、次なる目的地、すぐそこのバザールに向かった。


「コーちゃん、へーきかなぁ……?」

「大丈夫だ。ヤツは食った物を死んでも吐かん蛇のような女だ」

「何その変な信頼……」


「コーデリアの食い意地は凄いぞ。ヤツはあの通りのとんでもない大食らいだが、俺の知る限り、食った物を吐いたことは一度もない。まったく、大したやつだ……」

「あ、リチェルも見たことない!」


 やはりな。

 ヤツの前世は爬虫類か何かに違いない。


「ボンちゃんってやっぱちょっと変」

「グレイはイザヤきっての大変人だったからね」

「フフ……そこにマレニアを含めてもなんの差し支えもなさそうだ」


 妙だな……。

 俺は俺なりに、常識人のつもりでいるんだか……?


 ともあれそうしているうちに、大バザールの会場に到着した。


「あ、意外と広いな……」


 初めて見る光景に、カミル先輩が素直な声でそう言った。

 確かに想像よりもずっと道幅が広く歩きやすい。


 異世界のバザールというくらいだから、細い通りに人がひしめいていて、身動きがまるで取れないようなイメージでいた。


「他だとこうもいかないけど、ここは公園自体が広いからね」

「いざとなったらリチェルを肩車して回るつもりだったが、いらなそうだな……」

「うわ恥ずかしっ!」

「ひ、人前で肩車は……ちょと……恥ずかしい、かも……」


 故郷では平気で兄の肩をタクシー代わりにするのに、都だとダメなのか……?

 まあいい。

 俺はリチェルと手を繋い――


「あっ、あの店面白そーっ、リチェルいこーっ!」

「う、うん……っ」


 繋ごうとしたところで、レーティアに最愛の妹を奪われた……。

 嬉しいような、悔しいような、複雑な気分だ……。


 リチェルを奪ったレーティアが興味を持ったのは、どことなくゴツい感じがする露店だった。


「ねーねーボンちゃん、なんでも奢ってくれんだよねーっ!?」

「ああ、男に二言はない」

「ちょ、ちょっとグレイッ、値札を見てそういうことを――言おうにも見えないんだよね、君……」


「そういうことだ」


 近付いてみると、それは異国の武器防具屋だった。

 目立つところに飾られたでかい両手剣には、金貨7枚の値札がかかっている。


「フフ、君の冒険2回分の稼ぎが吹っ飛ぶ値段じゃないか」

「……ああ。レーティアが身の丈2メートルの巨漢の、クレイモアが似合う女子でなくて、よかった……」


 リチェルとレーティアが何かを見て盛り上がっている。

 寄ってみるとそこには奇妙な道具が飾られ、『スカウト装備一式・中古品』と記されていた。


「ねーねー、ボンちゃーん……?」

「なんだ、それが欲しいのか?」


「欲しい!」

「わかった、買ってやる」


「えーっ、いいのーっ!? 金貨1枚するけど、ホントにいいのーっ!?」

「いいぞ」

「ちょ、ちょっと待つんだ、グレイッ。君の金銭感覚は、やはりおかしいと思うんだっ!」


「だよねー……」


 金を払おうとするとジュリオに止められ、金貨を奪われた。


「でもでも、レーティアちゃん、すっごく欲しそうだったよーっ!?」


 ほう……。


「う、うん、まあ……欲しいけどさー……」

「そうか、なら買おう」


 金貨をジュリオから奪い返した。

 するとジュリオはいつにない強引さで、奪った金貨をまた俺から奪い取った。


「僕は買うなとは言っていないよ。定価で買うべきではないと言っているんだ。僕に任せてくれ」

「またイケメンムーブか……。よし、任せた」


 任せると、ジュリオの左右にリチェルとレーティアが並んだ。

 ん、カミル先輩の姿がないな……?

 鼻をスンスン鳴らして、カミル先輩の匂いを捜した。


「こんなところにいたか」

「ああすまない、ちょっと気になって」


 先輩が居たのは少し奥の店だ。

 ぼやける視界にギターに似た弦楽器、リュートが浮かんだ。


「楽器屋か? 先輩は楽器に興味があるのか?」

「ああ……」


「何が弾けるんだ?」

「うん、これでもオルガンとリュートが弾ける……。ううん、弾けたって言った方が正しいかな……。もう何年も触っていない……」


「音楽家の家だったとか?」

「違うよ、通ってた学校で教わってたんだ」


「へー。実はお嬢様だったとかか?」

「さてね……。ん、これなかなかいいな……。これも弾けるよ」


 先輩が興味を持ったのはアコーディオンだ。

 先輩は店主に確認を取ってそれを両手に持つと、早速演奏を始めた。


「上手いな」

「そうでもないよ。昔のようには手が動かない」


「よし、買おう。買って練習をしよう」

「はぁ……っ。ジュリオと似たようなことを言うけど、君の金銭感覚はどうなっているんだい……」


「世話になった礼がしたいんだ。店主、これはいくらだ?」

「お客さん羽振りいいわね。金貨2枚と銀貨60枚でどうかしらー?」


「金貨2枚にしてくれ。その楽器は先輩の手に渡るべきだ」

「止めてくれ、グレイボーン」


「だがこれがあったらなんだか楽しそうだ。やはり買おう」


 金貨を2枚だけ取って店主に突き出した。

 店主はその金をあっさり受け取ってくれた。


「いいわよ、交渉成立ね。よかったわねぇ、彼女さん♪」

「ハハハッ、冗談はよしてくれ。そこの男は、誰を恋人にするかと聞かれたら、迷わずに実の妹を選ぶ男だよ」

「あら変態……」


 酷い誤解だ……。

 だがすぐそこでリチェルが買い物をしている手前、うかつなことは言えん。


 うちの妹は今のところ、本気で俺と結婚するつもりだからな。

 傷つけるわけにはいかん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ