表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/93

・誕生の夜 - フードフェス&大バザール -

 異国街駅でトラムを降りた。

 そして到着5秒で感動した。


 1人だと右往左往確実の見知らぬ駅も、我らがシティボーイ・ジュリオが側にいれば、こんなもの余裕のよっちゃんだった。


「やっぱりお前は、イケメンだ……」

「え、急になんだい?」


「こういうところがイケメンだ……」

「だから、なんの話だい……?」


 いい友人を持った。

 こいつがいれば俺はどこにでも行ける気がする。

 まあ都内に限るだろうが、こういった時のジュリオの頼もしさは異常だった。


「男に生まれてよかった。もし俺が女だったら、お前のイケメンムーブにコロッといっていただろう……」

「もしかして会場までの道案内のことかい? グレイは道に迷いやすいんだから、仕方がないよ」


 ほらこれだ。

 これで彼女がいないなんて嘘だ。

 こんなにいい男なんだから、ストーカー女の1人や2人くらい生えてこないとおかしいだろう……。


「都生まれの方々が、時々まぶしくなるそのお気持ち、わたくしもよくわかりますのよ……。トラム路線は地上の迷宮ですの……」


 異議なし。

 特に中央トラム駅はもうわけがわからん。


「ふーんだっ、道案内ならオレだって出来るんだからーっ!」

「ああ、レーティアの土地勘もちょっとしたものさ。少なくとも、グレイボーンのガイド役としては完璧だった」


「へへへっ、ほらねーっ!」


 いやお前、ドロップをちょろまかしていた気がするんだが?

 まあともかく、そんなことを語りながら駅舎を出た。


 目的地はすぐそこの記念公園だ。

 シティボーイのジュリオが言うには、今日の異国街は普段よりずっと賑わっているらしい。


 会場である記念公園の入り口には早くも長蛇の列が出来ていて、俺たちは駆け足でその最後尾に加わった。


 すると無性に腹が減って来た。

 下ごしらえか何かか、既に辺りには香辛料と肉の焼ける美味い匂いが立ち込めていた。


 リチェルが鼻をスンスン鳴らしている姿が、まるで子犬のように感じられた。


「驚いた……。これが都ダイダロスの祭りか……。屋台の数が想像の倍以上だ……!」


 人との交流を避け続けて来たカミル先輩らしい反応だと思った。

 それほどまでに沢山の店が並んでいるのかと、俺もつられて想像が膨らんだ。


「お、お腹が……っ、お腹が嵐のようにーっ! あーれー狂ってーーっ、おりますわーーっっ!」


 背伸びをすると、低木の向こうに屋台か何かが見えるらしい。

 そうかそういうことならばと、俺は要求される前に身をかがめた。


「お兄ちゃんっ、おんぶしてっ!」

「ああ、妹には当然その権利がある。乗れ」


「えへへーー♪ あっ、あーーーっっ?!」


 リチェルをおぶろうとすると、俺にのし掛かる体重が2倍になった。


「ボンちゃん、お願ーい」

「ちゃっかりしてるな……。よっとっ」


 ケンカが始まる前に両方を抱き上げた。

 騎馬戦では2~3人が1人を抱えたりするものだが、これはその逆だった。


 後ろに回した俺の腕を足場にさせて、両肩に腕を突かせた。


「わーーっ、確かに凄い! 店いっぱい来てんじゃーん! わあああーっ!」

「う、ううー……。ううううーー……っっ!」


「うなってないであれ見なよー、リチェル! 奥のあれがバザールかなーっ!? でっかぁーっ!」

「もーっ、お兄ちゃんの背中はーっ、リチェルだけのものなのーっっ!!」


「あははっ、そう言うと思ったーっ!」

「うーっ、うーうーうーうーっ! ううーーっっ!!」


 うちの妹は獣みたいにうなってもかわいいな。

 レーティアに対抗しようにも、具体的な悪口や嫌味が出て来ないところも、さすがは俺が認めた世界最かわの妹だった。


 鐘が鳴ればバザール&フードフェスの始まりだ。

 俺は2人の言い合いに聞き耳を立てて、空腹が満たされるその時を待った。


 大人の友人もいいが、こうやって本音で言い合える同い年の友人が、やはりリチェルには必要だったのだ。

 普段聞き分けのいいリチェルが譲らない姿が、俺には何よりも愛らしく感じられた。



 ・



 10時の鐘が鳴ると、行列はイベント会場に飲み込まれていった。

 屋台はどれも馴染みのない異国料理ばかりだ。……ま、見えんが。


 さて、戦の始まりだ。

 もしもこの戦に覚悟なき者が挑めば、どの店に並ぶべきが迷いに迷い果てた末に、大きく出遅れることになるだろう。


 だが俺たちは既に、戦法(ドクトリン)を構築済みだ!


 どうせわかんない異国の飯なのだから!!

 嗅覚と胃袋に従って、直感で並ぶべし!!


「散れっ!!」

「うんっ、行ってきまーすっ!」


 俺たちは4手に分散して、それぞれの信じる行列に並んだ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ