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・誕生の夜 - 打ち上げに行こう -

 来る来週、移住者の集まる街トリッシュ地区にて、フードフェス&大バザールが開かれる!


 学内でもまあまあの噂になっていたこのイベントは、俺がリチェルに美味しいものや、かわいい小物を買ってやるために存在している。


 そう断言してしまってもいいくらいに、俺にとってこれは都合のいいイベントだった。


「い……っ、いいんですのっっ?!!」

「予定があるなら無理にとは言わないが――」


「いただきますっ、いただきますっ、ぜひごちそうさまですわーっ!!」

「助かるよ、コーデリア。俺とリチェルだけだと、時々……憲兵隊に声をかけられることがあってな」


「それはリチェルちゃんへの愛情が、常軌を逸しているからではなくて?」

「常軌? そんなもの母さんの腹に置いて来た」


「でしたら今すぐに、お母様のお腹に取りに行くことをお勧めいたしますわっ」


 腹ぺこのコーデリアは当然乗ってくれるとして、せっかくなんで他の連中もどんどん誘っていった。



 ・



「遠慮するよ……。僕が行ったら君の友達に迷惑がかかる……」

「大丈夫だ、俺の友人につまらんことを気にするやつはいない」


 カミル先輩も誘った。

 潜伏して襲撃を待ちかまえるというあの役は、俺がやった囮役より遙かに面倒で、極めて退屈な仕事だった。

 なのでせめてものお礼がしたかった。


「どうせリチェルも行くんでしょー?」

「当然だ。で、そっちこそ、どうせ来てくれるんだろ?」


「いいよー。リチェルはどうでもいいけどー、カミル様とボンちゃんが行くならオレも行くー」

「ぼ、僕は行くとは、一言も言ってないよ……」


「あー、無理無理。ボンちゃんってこういう時、超強引だから」

「よくわかってるじゃないか。じゃ、安息日の予定を開けておいてくれよ」


 カミル先輩の部屋に居着いていたレーティアも誘った。

 俺はまだ、リチェルに歳の近い友人を作らせて、健全に成長させるという計画を諦めたわけではない。


 いや理屈は置いといて、レーティアと仲良くする姿が見たかった。

 何せうちのリチェルはいい子だからな。

 その点、レーティアとは本音を言い合うところがあって、とてもいい関係だと思うのだ。



 ・



「誘ってくれるのかい!? 喜んでいくよ!」

「作戦成功の打ち上げでもあるからな、当然お前は数に入っている」


 久々にイザヤ学術院を訪ねてジュリオも誘った。


「さて、次はトマスだな」

「うーん、トーマスは来週難しいかな。考古学の教授と発掘に行くって言っていたような……」


「新しい友人をトマスに紹介したかったんだが……なら仕方ないか」

「トーマスはトーマスで、来年から研究者としての新しい人生が始まるからね……」


「ま、アイツの人生が充実してるならいいか」

「次の機会があるよ」


 そんなわけで今回のメンツはこれだけになった。

 トマスを誘えなかったのが残念だ。


 リチェル、レーティア、コーデリア、ジュリオと俺で、安息日は異国の屋台物を食い歩いて、バザールで舶来品を買いあさろう。


 友人たちが望むならば、全て俺のおごりで!

 金はある!

 もしなくなったら、一攫千金の迷宮でまた稼げばいい!



 ・



 かくして時は来た!

 セラ女史に手をイカにされたりタコにされたり、ほどほどに波乱を秘めた日々を乗り越え、俺は安息日の朝にたどり着いた!


 この手のイベントは先制攻撃あるのみ!

 出遅れればすなわちそれ、敗北なり!


 朝10時頃にアバウトになる鐘に合わせて始まるこのフードフェスに勝つには、適切な時間に出発し、イベント開幕前に並ぶべきだ!


「あ、ボンちゃんおはよー。ついでにリチェルもねー」

「ふふーんっ、リチェルは昨日もっ、お兄ちゃんと一緒に寝たんだからーっ! ねーっ、お兄ちゃんっ♪」


「うっわぁぁ……」


 もちろん、学食で朝食なんて食わない。

 俺たちは男子寮と女子寮の境界線にある、あの広いレクリエーションエリアで待ち合わせをした。


「兄と妹で、あの卵を毎晩温めているからな。てかお前、普通に居着いてるな……?」

「教官方には言わないでくれ……。この子は家がないそうなんだ……」


「そりゃ家出娘だからな……」


 リチェルはレーティアに同情した。

 レーティアは同情の目が気に入らなかったのか、邪険にそっぽを向いてしまった。


「ごめん遊ばせっ! ジョギングに熱が入ってしまいましたの……!」

「わかるー! せっかくボンちゃんがおごってくれるんだしー、限界までご飯たからなきゃ、損だよねーっ!」


「はいっ! 本日は、おたからせていただきますわーっ!」


 とにかくこれでマレニア側は全員だ。

 集合が済んだ俺たちはマレニアの正門を出て、目の前のトラム駅に入った。


「お兄ちゃん、早く早くー!」

「グレイボーン、僕の手を」

「あ、ああ……」


 するとちょうどいいタイミングで、青いトラムがやって来ていた。

 乗車の心配してくれたのか、カミル先輩が俺の右手を取って、トラムまで引っ張ってくれた。


 世間の人がカミル先輩の外見をどう思おうと、俺からすればカミル先輩はイケメンだ。

 女にしておくのが惜しいくらいにカッコイイ先輩だった。


 そんなカミル先輩だが、今は左にリチェル、右にレーティアと、両手に花を抱えて座席に座っている。

 さて、俺もリチェルの隣に――


「どっこいしょっ、ですわっ!」

「なっ?! なんという暴挙……っ!! リチェルの隣を俺から奪うかっ?!」


 座れなかった。

 リチェルの隣はコーデリアに奪われた……。


「ゴチになる相手にこう言うのもなんですけれど……。少しは妹慣れしなさいな」

「する気はないっ、一生だっ!」

「えへへー、リチェルもーっ。……あ、そだっ、リチェルが、お兄ちゃんのお膝に乗ればいいんだよーっ」


「それだっ!!」


 俺は席を立ち、リチェルの前に立った。

 リチェルが望むならば、俺は馬だって敷物にだってなれる!


「やっぱロリコンじゃん……」

「恥ずかしいから止めて下さいましーっっ! いくら友人であっても、それ以上は堪えられませんことよーっ?!」

「通報されたら面倒だ、おとなしくしていてくれないか?」


 カミル先輩にまでそう言われては、無念だが引き下がる他になかった……。

 それにもし、トラムの外に膝の上のリチェルを落っことしてしまったら、ビックリどころじゃないからな……。


 加えてカミル先輩とコーデリアに囲まれたリチェルは、両足を元気に揺するほどに楽しそうにしていたので、それはそれで兄として美味しい眺めだった。



 ・



 中央トラム駅でジュリオと合流した。

 ブロンドの貴公子様は、休日は普通にオシャレなジャケットにハンティングキャップ姿だった。

 なんかこう、シティーボーイって感じにキラキラして見えた。


「こうして見ると君は、女性の友人がいやに多いね……」

「男の友人はお前がいるからいいんだ」


 俺がそう返すと、ジュリオはまんざらでもなさそうに笑った。


「やあリチェルちゃん。それにカミルさんとコーデリアさんもしばらく。そちらの子がレーティアちゃんだね?」

「う、うん……よろしく……」


 レーティアはジュリオを警戒していた。

 何せ金持ちでイケメンで性格までいいやつだからな、気持ちはわかる。存在が嘘臭い。


 すれたところのあるレーティアからすると、ジュリオの善意に裏があるのではないかと、そう疑ってしまうのだろう。


「ねぇ、グレイ? ちょっとした好奇心で聞くのだけど……」

「トラムが来るぞ?」


「君にとって、この中で最も魅力的な女性は、どの人かな……?」


 そうジュリオが聞くと、なぜか俺に注目が集まった。


「はは、そんなのリチェルに決まっているだろう。当然のことをわざわざ聞くな」

「これだけの綺麗どころに囲まれて、素でそう答えられてしまう君の家族愛は、本物だね……」


「何せ顔が見えんからな。容姿に魅了されようがない」


 緑色のトラムが駅に到着した。

 俺たちはそれに飛び乗って、フードフェスの会場であるトリッシュ地区、通称異国街へと向かった。

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