表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/93

・マレニアの二学期 - ある男の末路 2/2 -

「クノル家の当主、長男、次男坊。色んな悪党と一緒になって、行けば帰って来れない迷宮にー、目障りな冒険者を送り付けてたんだものねぇー?」

「お、おまえ……ほんとうに、神、なのか……っ」


「だからそう言ってるじゃなーいっ!? なーんでみんなっ、揃いも揃って最初は信じてくれないのよぉぉーっ!?」


 愉快なグレイボーンに転生したあの坊やは、最後までツッコミの手を緩めない面白いお客様だったわ。


 だけどこのクマさんは、ダメね……。

 全ての悪行を神に見られていたと知って、すくみ上がってしまったわ。


 こうなるとつまんないわー。

 さっさと終わらせちゃいましょ……。


「アアタの次の人生……最悪よ」

「なんでだよ……っ!?」


「そりゃ悪さしたからに決まってるじゃーない。あの舎弟の坊やを殺したのだって、自分が関わってた悪事を、あの子が暴こうとしたからじゃなーい?」

「ジーンが俺の警告を聞かねぇのが悪ぃんだっ!」


「かーわいそぉーー……。いくら態度の悪いクソ客でもぉー、信じてた叔父貴に殺されちゃうなんてぇー……かーわいそぉぉー♪」


 ジーン坊やが可哀想で可哀想で、ついアタシ笑っちゃった。

 そしたらクマさんったら、真っ青に青ざめちゃったの。

 んもぅ、失礼しちゃうわー。


「神様、お、俺は、どうなる……?」

「大丈夫♪ アタシが加護をあげるわ」


「お、おお……」

「特別よ? 特別に、前世の記憶を引き継がせてあげる♪」


 アタシ、来世が面白そうな相手には、こうしてあげてるの。

 観察がますます楽しくなるから。


「最初から、ズル賢く生きれるってことか……?」

「そうよ。はいっ、このお酒をどーぞ。これを飲めば、アアタは強くてニューカマーしちゃえるわぁー♪ カマの加護だけに、ニューカマー……オホホホホッ!!」


「ありがてぇ……助かるぜ、神様!」


 彼はアタシのお酒を飲み干した。

 惚れ惚れするくらい、クマっぽかったわー。

 やっぱり蜂蜜酒にしておけばよかったかしらー?


「はーいっ、ではではーっ、一名様来世にご案なぁーいっ♪」

「おいちょっと待て、神様! ちゃんと説明してくれよ! 俺はどこの家のガキになんだよ?」


「家……? 家らしい家はないわね……」

「ないのか……? いきなり捨て子かよ……」


 いえ、捨て子というか、育児の概念がないというか、なんて説明したものかしらねぇん……♪


「違うわ。アアタ、卵から孵るのよ」

「…………は? まさかこの俺が、貧弱な小鳥ちゃんになるとか言うなよ……?」


「いいえ、最強よ」

「おおっ!!」


「どんな熱にも堪えられ、氷の中に閉じこめられても死なない」

「つまりモンスターか……っ? まあ、それだけつええなら、別にいいかっ!」


「まあ、強いっちゃ強いわね。空気がなくても生きられる上にー、放射線も効かない上にー、凍ってる間は老いが止まっちゃうものぉー! このクマ、無敵ねぇ」


「最強のクマかっ、そりゃ最高じゃねぇか! ダハハハハッ、いいぜ、山ほど人間ぶっ殺してやるところ、見せてやんよっ!!」


 それはちょっと無理というか、絶望的じゃないかしらねぇ……?


「そっ、がんばってねぇーんっ♪ それじゃ♪ 不死の最強生物の世界にぃーっ、ご案なぁーーいっっ♪」


 クマはクマでも、ミクロの世界の最強のムシケラ、クマムシちゃんなのだけど……。

 ま、住む世界のサイズが違うだけでー、最強に変わりはないわよねーっ♪


 捕食者から逃げ延びられれば、ミクロの世界最強の座はアアタのものよっ!!


 アタシはクマさんを、クマムシの世界にご案内して、表のお仕事を終わりにしたわ。

 パチリと指を鳴らすと、透明になってもらっていた2人のお客様がカウンター席に現れた。


「若い頃はあんな男ではなかった……」

「おい、何考えてやがんだ、テメェ? 叔父貴をクマなんかにしたら、それこそ大変なことになんだろが……っっ」


「いや、その心配はなかろう。神様がいやに親切なときは、必ず裏があるものだ」


 あら、わかってるわねぇ、ロックちゃん。

 いつか転生させなきゃいけないのが、惜しいくらいだわー……。


「……ははぁ? 実は、クマじゃなくて、野ウサギに生まれ変わるとかだろ?」

「うふふふっ、ざぁーんねんっ、もっとちっちゃいわーっ♪」


 アタシが陽気に祝杯を上げると、ロックちゃんがニヤリと笑ってくれたわ。


「ほう? ならば……ダンゴムシくらいか?」

「いやダンゴムシ以下はねーだろっ!?」

「やーだぁっ、もっとよぉーっ!」


「マ、マジかよ……っ?!」

「そーよ? もっともっと、もーっとちっちゃい虫ちゃんになるのよぉーっ!」


「虫……虫か……。哀れな……」

「彼はぁーっ、クマムシちゃんにーっ、転生しましたーっ!! キャーッ、すごぉーいっ、ぱちぱちぱちーっ♪」


 恨まないでね、クマさん。

 選択肢が1つしかなかったのはアアタだしー、アタシにはどうにも出来なかったのー。


「おめぇ、悪魔かよ……」

「生前の記憶――いや、人間だった頃の記憶を残してやったのは、そういうことか……」


「うふふ、なんのことかしらーん? アタシ、賢く生きられるようにしてあげただけよぉー? ていうかー、神が知恵を授けて何が悪いのぉー?」

「そうかよ……。もうどん引きしかねーわ……」


「恐ろしい神様もいたものだ。ウィスキー、おかわり」


 さてさて、坊やの続きの人生でも眺めながら、もう一度祝杯を上げるとしましょ。


 転生したらクマムシだったっ!!

 キャーッ、素敵っ! 出オチ過ぎて開幕1話だけでアタシ十分っ♪


 せいぜい、がんばってらっしゃいねーっ♪ クマさん♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ