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・マレニアの二学期 - バロック親子の断罪劇 -

・グレイボーン


 冒険者グレンデルは治安局に告発され、殺人罪に問われることになった。

 そのグレンデルは今も、往生際悪く無罪を主張している。


 ギルドのメンツを守るために、誰かが俺の代わりにジーンを殺ったんだと、白々しい供述をしているそうだ。


「実行犯はギルドの大物グレンデル。君を陥れた黒幕はクノル家と僕は見ている。父上も同じ見解だよ」


 ジュリオが言うにはそういうことらしい。

 迷宮攻略のスペシャリストであるクノール家は、数々の領土を解放した功績により、冒険者組合内外に強大な権力を持っている。


 だがその影で、この一族が迷宮を使った謀殺に、幾度となく手を染めて来た疑いが浮上した。

 それを義憤に燃えるジーンが暴こうとした。


 しかし……。

 ジーンは恩人であるグレンデルに、常態的に査察の情報を漏らしてしまっていた。

 そのグレンデルがクノール家と深く繋がっているとも知らずに。


 いやもしかしたら、ジーンなりに察していたのかもしれないが……。

 結局は、恩人を信じる選択をしてしまった。


 だからあの時、冒険者テッシはグレンデルを裏切り者となじったわけだ。


「結局、カップスープは野放しってことか?」

「ああ、グレンデルが黙秘してしまっているからね……。クラウザーにたどり着くのは難しいかもしれない」


「しかし妙だ。マレニアの学生名簿を見たんだが、カップスープなんてやつ、どこにもいなかったぞ……?」

「……え? ああ、うん……不思議なこともあるものだね……?」


 希望であふれた冒険者の世界に、深淵が広がっているのを肌で感じた。

 あの入学式の日に出会った男が、具体的にどんな顔をしていたのかすら、今となっては全く思い出せない……。


 これはもしや、魔術のたぐいだろうか……?

 名簿に本人が存在しないなどと、あり得るのか……?


「後は僕と父に任せてくれ。2度と君たちに手を出せないよう、クノル家の末っ子を追いつめてみせるよ」

「……ありがとう。そういうのは俺には到底出来ない仕事だ。お前が頼もしく感じるよ、ジュリオ」


「出世払いで返してくれたらそれでいいよ」

「はは、それじゃバロック次官だろ」


「ならずっと友達でいてくれ。僕はただそれだけでいいんだ」

「わかった。杖を突くジジィになっても、俺はお前に付き合うよ」


 すぐには黒幕のカップスープを糾弾出来ない。

 そんな歯切れの悪い結末を残して、初めての迷宮攻略から始まったこの事件は、ようやく終幕した。



 ・



 と、思うじゃないか?

 だがそこはジュリオであり、その優秀な父バロック次官だった。


 楽しいキノコ狩りの日から一週間が過ぎた月曜日、マレニアの学生たちは講堂に集められた。


「初めまして。僕はジュリオ・バロック、イザヤ学術院の3年です」

「朝からすまないね、諸君。内務省次官のバロックと申すものだ、本日はマレニアの生徒を告発に来た」


 講壇に部外者たちがいきなり立ち、治安局の憲兵を連れて告発を始めるものだから、会場がどよめくのも当然だった。


「ちょっ、貴方ね……っ、いちいちこっちに来ないで下さいましっ!」

「あーっ、お兄ちゃんっ、いらっしゃーい♪」

「リチェルが不安になるかと思ってな。何、どうせこの騒ぎだ、誰も気付かん」


「そう思ってるのは周りが見えてない貴方だけですわーーーっっ」

「ねぇねぇお兄ちゃんっ、ジュリオッ、なんでいるのーっ!?」

「それは俺もわからん。なんでいるんだ、アイツ……?」


 この騒ぎを止めないところからして、学院長とセラ女史も共犯だろう。

 どちらも学院内で行われた生徒への凶行に、前々から怒っていた。


「クラウザー・ヴォルフガング・クノル!! 僕たちは、他でもない君を告発するっっ!!」

「クノル家の末っ子よ、我々は君の関与を示す証拠を手に入れた! これは、君の字に相違ないな!?」


 と、言われても俺にはわからんのでリチェルに状況を聞いた。


「紙! ジュリオ、紙をドーンッて、出してる!」

「なるほど。転写紙か?」

「たぶん、そうだと思いますわ」


 それは罪に問えるほどに大きくないが、当人からするとかなりまずい証拠だと、そうラズグリフ教官に聞いたやつだろう。


「おいおい、たかが役人が、俺たちクノル家に逆らうのか? はっ、そんな紙切れがなんだってんだよ!」


 告発された生徒は大きな足音を鳴らし、講壇に上がっていった。

 そういえば、カップスープのまたの名を、クラウザー・なんとか、といったような気もして来た……。


 ああ、名簿にいないはずだ……。


「開き直るか!」


 ジュリオらしくもない勇ましくて好戦的な声色だった。


「はっ、確かに俺の字に似てるな。けどよー、俺たちクノル家の力を舐めるんじゃねーぞ。そんなもん、いくらでももみ消せんだよ」

「そうだろうね。僕と父はよく晩餐の席でその話をするんだ。この国は、迷宮攻略を果たした冒険者一族が、あまりに力を持ち過ぎている」


 政治の話か。

 こういうのはあまり興味がないな……。


「ほへー……」

「今日のランチ、何にする?」


「ハンバーグランチ!」

「いいな。俺はチキンにするかな……」

「この兄妹は……。とても領主一族には見えませんわ……」


 俺たち田舎者は政治闘争とは無縁の住民だからな。

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