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・マレニアの二学期 - これを人に向けて撃っては、いけないでござるよ? -

「ホント、ロリコンだよねー、ボンちゃん」

「シスコンと言え。子供に興味はない」


「へへへ……ごめんね。からかいやすいところだから、つい」

「お前な……」


「んーーっっ、人から奪ったお菓子って、美味しーっ!」


 どんな事情を抱えているの知らんが、歪んでいる……。

 うちのリチェルとは正反対だ。


「これからもよろしくねぇー、お人好しのボンちゃ――」


 そんな困った女の子を、俺は飛び込むように地へ押し倒した。

 誤解したのか小さな悲鳴がレーティアの喉から漏れたが、それどころじゃない。


 弓が空を切る危険な音が頭上で立て続けに響くと、誤解もすぐに解けた。


「えっ、なに……っ、誰が撃って……こ、怖い……」

「だから言っただろう、今回は危険だと。身を屈めていろ」


 何もこんなタイミングで釣れてくれなくてもいいのに。

 俺は重弩を両手に樹木を盾にして、標的の姿をうかがった。


 まあ、見えんが。


「ボ、ボンちゃん……? なんで、こんな状況で笑ってるの……?」

「当然だろう」


「な、何が……?」

「俺はこの時をずっと待っていた。最初から、アイツらが俺の標的だったんだ」


「ぇ……?」


 弓を撃ち込まれたのがよっぽど怖ろしかったのか、レーティアの声は小さく弱々しかった。


「薬草採集も、キノコ狩りも、やつらに俺を襲わせるための茶番だった」

「え、ええええ……っ?! で、でもっ、あんな大勢の悪い人たち、どうやって……やっつけるの……?」


「見えるか? 何人くらいいる?」

「さ……30人、くらい……」


「多いな。だが、コイツでどうにでもなる」


 突出して来たやつの足下に牽制の1発をぶっ放して足止めすると、俺はとある特別製の矢を重弩に装填した。


 いや、矢と呼ぶのは適切ではない。

 これは弾丸であり、ボウガンを使って飛ばす飛翔体だ。

 ソイツを上空に構えた。


 報復の矢が次々と辺りに突き刺さってヤマアラシのようになっていったが、射線を樹木でふさげば恐れることはない。


「念のため耳をふさいでいろ」

「そ、それ、何……っ?!」


「コイツか? コイツは、弓使いの新しい未来だ。撃つぞ!」

「う、うん……っ!」


 特別製のソイツを、俺は天へとぶっ放した。



 ・



「いいでござるか? 絶対に、絶対に、いくら敵に恨みがあろうとも絶対に……! これを人に向けて撃っては、いけないでござるよ……っ!?」


 その特別製の弾丸は、マレニアの教官方のお手製だ。

 制作者は他でもないセラ女史と、遠隔術担当のナスノ教官によるものだった。


「正当防衛です、皆殺しにしなさい」

「よすでござるよ、セラ教官っ!!」


「我が学院の生徒を襲った悪漢です。司法取引は任せなさい」

「司法取引まで行くようなことを生徒にさせるのは、よくないのでござるよーっ?!」


 これは魔法式の弾丸ではあるが、さすがにあの時の実習で使った超危険物ではない。


「残念ながら死にはしません。恐ろしい衝撃を受けるでしょうが、命を奪うことは出来ません」

「残念だ」

「オルヴィン卿も何を言っているでござるかっ!?」


「しかし対人性能は破格と言えましょう。使用後は正確にレポートを提出するように」

「助かるよ、女史」


 いや、ある意味であっちよりもたちの悪い爆弾だ。


「実験台にしても胸の痛まないモルモットというものは、いいものですね」

「いやまったくだ」

「と、止めた方がいいのでござろうか……。む、無茶は止すでござるよーっ!?」



 ・



 ……とまあ、そんな感じでいただいた銃弾が、高い曲射で弧を描き、敵陣のど真ん中に落下した。


 するとたちまちに、ドカンだ。

 耳を塞いでもなおやかましい爆音が辺りに轟き、それが振動となって、うつ伏せにした腹越しに伝わった。


「ヒッ、ヒィィーッッ?!」


 レーティアは意外に小心者なところがある。

 凄まじいその爆音に悲鳴を上げていた。


 ん、爆心地の連中か?

 阿鼻叫喚だ。

 やつらは耳を抱えてうずくまり、世にも恐ろしい苦悶の声を上げている。


「あ、あいつら、逃げてくよ……!? ボンちゃん、やっつけなくていいの……っ!?」


 もはや襲撃どころではないのか、リーダー格の男が声を上げても仲間たちは止まらず、森から逃げ出していった。


「ああ、そうしたいところなんだが……。追撃は止めろと言われている」

「なんで……っ!?」


「向き不向きの問題だ。俺には、殺さずにあいつらを生け捕る方法が、ない……」


 大半のモンスターがワンショットキルのぶっとい矢だ。

 一般的な弓と異なり、重弩はプレートアーマーだって貫く貫通力を持つ。


 そんなのを人に撃ったら、まず死ぬ。


「で、でも……あいつらを、ボンちゃんは待ってたんじゃないの……?」

「俺に人の逮捕は無理だ。だが、俺には、頼れる仲間がいる」


「え……仲間……?」


 俺は身を隠し、聞き耳を立てて彼方をうかがった。


「まあ、アイツはアイツでヤバいんだが、きっと俺よかマシだろう」

「だ、誰のこと……?」


「腐食のカミル。今回も、前回も、潜伏して、罠に獲物がかかるのを待っていた。罠が俺で、狩人がカミルで、やつらが獲物だ」


 さて、そろそろカミル先輩の援護に入るか。

 直撃はさせられないが、重弩の破壊力で脅かすくらいならば可能だ。


 俺はレーティアを安全な木に上らせると、樹木から樹木へとジグザグに進みながら、敵との距離を詰めていった。


 なんでも1人でこなしてしまうスーパーマンには、俺という半端者はなれない。

 こういった目に生まれた以上、強情を張らず人を頼るべきだ。


 頼れるスポッターのレーティアに、俺はそんな当たり前のことを教わっていた。

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