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・マレニアの二学期 - 変態だろうとシスコンだろうと結構だ -

 目的地のキノコの森では紅葉が始まっていた。


「役割分担だ。食えるキノコはお前に任せた」

「おっけー。となるとー、ボンちゃんは食えないキノコ役?」


「惜しいが違う。俺は魔力を帯びたキノコを集める役だ」

「え、魔力? ボンちゃん、魔力とかわかんのー?」


「こう見えて、俺はマレニアで魔法の教練も受けている」


 誇れるところはないが、取り合えず胸を張っておいた。


「えーっ!? じゃあっ、魔法とか使えたりするのーっ、すっごーいっ?!」

「いやそれが、てんでからっきしだ。俺はリチェルを側で見守るために、魔法教練の授業を受けている」


 いまだ魔法を使える兆しなし。

 ミソッカス扱いにもすっかり慣れた。


「ふーん……いいなぁ……」


 いいなあ?

 それはまた、意外な反応だな……?

 レーティアは魔法に興味でもあるのだろうか?


「お、そこの木の根本に魔力を感じるぞ。何かないか?」

「……あっ、何これーっ!? なんか、絵本に出てくるみたいなキノコが生えてるーっ!」


 レーティアがそのキノコを採集した。

 寄って来た彼女に見せてもらうと、それは――とある国民的アクションゲームを連想させるようなキノコだった。


 マッシュルームのような大きく厚い傘が付いたキノコで、オレンジ色の基調に、赤の斑点が付いている。


 魔力があるなら使い道がきっとある、ヨシッ。

 それを背中の籠に投げ入れた。


「まさか、食べるんじゃないよねー……?」

「食うわけないだろ、こんな怪しいキノコ」


 もし巨大化したら困るし。

 それは売るのが惜しくなるくらい、スーパーなキノコにそっくりなフォルムをしていた。


「レーティアは食えるやつを頼む。食えるやつは2人で山分けだ」

「いやいくらオレでも、野生のキノコを食べるほど困窮してないから……」


「そうか?」

「キノコ嫌いだしー。シダー・マッシュルームとかならー、お金になるし、好きだけどー」


 シダー・マッシュルーム?

 松、茸……?

 あんの? この世界にも?


 俺たちは依頼のキノコを探しつつ、食えそうなやつと、魔力を秘めたやつを探していった。


「あ、ボンちゃんっ、敵っっ!!」

「敵確認ヨシッッ!!」


 たまにモンスターが現れたが、森だろうとどこだろうとワンショットキルのズドンだ。


「ボンちゃん強っ!! シスコンの変態なのにー、実力だけは本物っ!」

「変態だろうとシスコンだろうと結構だ。……で、ドロップは?」


「それがさー、またキノコだったー……」

「そうか、またか……」


 この森のドロップは微妙だ。

 得体の知れないキノコを籠に入れて、俺たちは採集を続けていった。


 キノコ、キノコ、キノコ。

 キノコだらけで早くもうんざりして来たのは、もはや言うまでもない……。



 ・



 レーティアの積極的な採集もあってか、3時のおやつ時を待たずして、採集籠がキノコキノコキノコでいっぱいになった。


 食用の値打ち物は布袋に詰めて、松茸にしか見えないやつも、4本も見つかってくれた。

 スーパーなキノコみたいなやつは、数え切れないほどに籠いっぱいだ。


 これ、毒キノコだったりしないよな……?


「おつかれ。チョコクッキー食べるか?」

「え……? なんでそんなの持って来てるの……?」


「嫌いか? なら1人で食うか」

「要らないなんて言ってないよー! ちょーだいっ!」


「そうか、おつかれ」


 持って来たチョコクッキー12枚のうち、袋半分をレーティアに渡した。

 どんな顔をしているのかはわからないが、興奮したのか小さな声が上がった。


「コーデリアの3べん目の出涸らし茶が恋しいな……」

「うん」


「ん、突っ込まないのか?」

「え……何?」


「いや、大した話じゃない」


 レーティアはチョコクッキーに夢中だった。

 今はそっとしておこう。

 仕事の疲れを癒しながら、俺もクッキーをまたかじった。


 しかし今日もまた、釣れなかったか……。

 ま、今日は釣れなくてラッキーだったな。

 樹木に背中を預けながら、辺りに聞き耳を立てても、それらしい物音は何もない。


「じーーー……」

「レーティア? 今、口でわざとらしく『じー』とか言わなかったか?」


「じーー……。それ、食べないの?」

「そっちこそ、いやに食べるのが早いな?」


 こちらの手元にはクッキーが2枚残っている。

 一方でレーティアの手には、チョコクッキーの黒い影は1枚もない。


「俺のだ」

「子供がお菓子を欲しがって、じーーーっと見てるんだよー? その返事が、俺のだ?」


「だから寄越せと?」

「別にー。でもさー、こういう時に人間の評価って、分かれるところだと思うんだよねー?」


 素直にちょうだいと言えばいいものを。

 不器用でめんどくさいやつだ。


「やる」

「やったっ! なんか悪いねーっ、催促したみたいでーっ!」


「次はもう少し多めに買っておこう」


 菓子2枚で人の心が買えるなら安いと思う。

 喜んでチョコクッキーを譲ると、レーティアはますますご機嫌になった。


「さて……それ食ったら帰るか。早めに帰った方がリチェルも喜ぶ」


 仕事を終えたらリチェルに会いたくなった。

 次の休みこそは、リチェルと買い物に行くべきか……。

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