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・マレニアの二学期 - 小さな子ばかりにモテモテ -

「レーティア、小づかいをやるから今回のところはリチェルと――」

「え、何言ってんのー? 一緒に行くしー」

「えーーっ!? そんなの、ずるいよーっっ?! その子はいいのに、なんでっ、リチェルはダメなのーっ!?」


 レーティアにはリチェルと休日を過ごしてほしかったんだが、ものの一瞬で話がこじれた。

 リチェルは俺の前にやって来て、背伸びをして、一生懸命に不満を訴えていた。


 兄が他の女の子を優先するなんて、リチェルからすれば気持ちのいいものではない。


「だってにーちゃん、オレのことが好きだからねー」

「貴方っ、やっぱりロリコンでしたのねっっ?!」

「やっぱりとはなんだ、やっぱりとは……」


 しかしレーティアのやつ、これはまさか、リチェルに対抗しているのか……?

 保護者としては、歳の近い女の子同士で、仲良くしてくれる展開を強く望んでいたんだが……。


「リチェルなんてほっといてー、オレといこーよっ、ボンちゃん!」

「ダメーッッ、リチェルのーっ!! お兄ちゃんはリチェルのお兄ちゃんなのーっ!!」


「でも今日はオレと遊びたいってー?」

「違うもんっ!! お兄ちゃんっ、今日はずっとっ、リチェルと一緒に居てーっ!!」

「あらあら、やたらと年下におモテになられますわね」


 そうやってわざわざ、トゲのある言い方をしなくてもいいだろう……。

 俺はただ、リチェルに同い年の友人を作ってもらいたかった、だけなのに……。


「あれ、それ……何?」

「あっ、これーっ!? これねっ、あのねっ、これっ、リチェルとお兄ちゃんの、こども!!」


「えっっ、マジでーっ?!!」


 おい、そんなにデカい声で真に受けるな……。

 お前、本気で俺のことをロリコンだと思ってるのか……?


「先週、ワイバーンの卵を拾っただろ? あれに2人で魔力を流して、孵そうとしているんだ」

「えっ?!」


 真実を伝えてやると、レーティアは孵化器のガラス窓に顔を張り付けた。


「えーーっっ、それ、本当っ!? 竜の赤ちゃん育てちゃうのーっ!? それって、なんかすごいじゃんっっ!!」

「へへへ、そうでしょそうでしょーっ! 夜はー、リチェルとお兄ちゃんがーっ、一緒に温めてるんだよーっ!! 同じ、ベッドで!!」


 リチェル、最後のは余計だ……。

 それも『ちょっと』とか『若干』とかそういう次元ではなく、『超』余計だ。


「うわ……っっ、キモ……ッッ。いやリチェルはキモくないしかわいいと思うけどーっ、にーちゃん、マジでヤッバーッッ!?」

「兄なら当然だ」


「うっわああああ……」

「まったくもって同意ですわ。うっわああああ……ですわっ!!」


 なぜ理解が得られないのだ?

 俺は大切な妹を、親元から離れたこの環境で、兄としてやさしく支えているだけだというのに。


 まったく、狭量なやつらだ。

 兄が妹を愛して何が悪い。


「俺はもう行くぞ。レーティア、今日は危ないからリチェルと遊んでやってくれ」

「んーー、それも面白そうだけどー、やっぱりオレ、ボンちゃんと行く。リチェル、にーちゃんの子守はオレに任せてよ」


「子供はお前だろう……」

「だって冒険中のボンちゃんって、なんか見てらんないしー。だから特別に、オレがサポートしたげるよ」


 ありがたいことだ。

 これでドロップをネコババするところさえなければ、最高なんだが。


「今回は本当に危険なんだ」

「だったらなおさらオレが要るじゃん! にーちゃんは見てらんないのっ!」


 いやネコババはするが……いい子だな。


「レーティアちゃん……」


 ところがリチェルの声が急に素直になったのが気になった。

 さっきまであれだけ張り合っていたのに、気のせいか――レーティアの言葉に感動しているようにも感じられなくもない。


「心配だよねー」

「うん……」


「わかるー! だってね、この人ねー、なーんにも見えてないのにー、モンスターだらけのところに平気で歩いて行くんだよー?」

「平気だからな」


 いざとなったら動く者全てに、鋼鉄の矢をぶち込めばいい。


「そんなわけないし見てらんないよっ! ってこっちは言ってんのーっ!」

「うんっ! そうっ、そうなのっ! お兄ちゃん、見てらんないのっ!」


 リチェルまで同意するとは想定外だった。

 成長を感じる一方、寂しくもある……。


「でしょーっ! あと変に羽振りがいいのも心配。いつか誰かに騙されちゃうかもー? 案内役がいるよねー?」


 そんなわけあるか。


「いるかも……。レーティアちゃん……っ、あの……リチェルのお兄ちゃんを……っ、今日は、よろしくお願いしますっ!!」


 俺は、保護者側の人間だよな……?

 面倒を見る側のはずだよな? 兄なんだから。


「いいよーっ、監視しといてあげる! この人、先週の帰りもねー、全然違う道に行こうとして、それとなく誘導するの大変だったんだからー」


 それは、知らなんだ……。

 無意識に迷子になりかけていたか……。


 レーティアと一緒なら、迷わずに目的地にたどり着けるというのは、確かに、でかいな……。


「ありがとう、レーティアちゃん! お兄ちゃんが、お世話になりますっ!」


 守ればいいか……。

 自分ごと、この厚かましいほどに強引なお子さまを……。

 そうだ、それなら……。


 俺は自分の学生鞄のサイドポケットを漁った。


「レーティア、これを」

「何? あ、鈴……?」


「身に着けてくれ。これがあれば誤射をせずに済む」


 目印ならぬ、音印になるこれを持たせよう。

 商店街を歩いていたときに、たまたま鈴を見つけてそう思い、買っておいたんだった。


「ずるい……」

「何……?」


「お兄ちゃんっ、レーティアちゃんばっかりずるいよーっっ!! リチェルもそれ欲しいーっ!!」

「いや、ただの小さな鈴だぞ……?」


「欲しいのーっ! リチェルにも買って!!」


 知らなかった……。

 俺の妹は、こんなに嫉妬深かったのか……。


「へーー、まあまあかわいいじゃん。貰ったげるー」

「お兄ちゃんっ、買ってっ、それと同じやつ、買ってーっっ!!」

「わ、わかった……。同じ店を訪ねてから帰るから、ともかく落ち着け……」


 気が合いそうだと思ったんだが、リチェルとレーティアはそりが合わない部分もあった。


「小さな子ばかりにモテモテで、わたくし羨ましいですわー」

「嫌みったらしく2度も言うな……」


 そんなわけでギルドへの出発は、予定より大きく遅れることになっていた……。

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