・マレニアの二学期 - 家出娘レーティア -
「というわけだ。兄のために花畑を魔法で広げようとしたリチェルは、力が暴走して枯らしてしまった。恐るべき妹だ……」
「オレはにーちゃんの方が恐ろしいけど……」
「さて、籠もいっぱいになったことだ。そろそろ終わりにしよう」
「あ、うん……」
そう言うと、その子は急に静かになってしまった。
なかなか楽しいお喋りだった。
俺もまだまだ語り足りない。うちのかわいい妹のことを。
「解散が寂しいか? ならまた会おう、いつでもマレニアに遊びに来てくれ。リチェルを紹介する」
「ところでさ、オレの名前、聞かないの?」
「ああ、それか。聞いたらまたロリコン扱いされそうだ」
「特別に教えてあげる! オレの名前は、レーティア! しょうがないしー、今度遊びに行ってあげる」
「おお! そうか、楽しみだ!」
「リチェルには興味ないけど、にーちゃんからかうのは楽しいし! そうだーっ、また手伝ってあげるよーっ! にーちゃんに怪物撃たせるの超楽しいしー!」
「それは遠慮しよう。助かってはいるんだが、不都合もあってな……」
「ふつごー? ふーん……?」
採取地を離れると、レーティアに駅まで送ってもらった。
レーティアはあの琥珀がよっぽど気に入ったのか、よくそれを空にかざして眺めていた。
よっぽど気に入っているようだ。
……いや、ムカデ入りは趣味が悪いと思うが。
「ではな」
「んんー……しょうがないし、マレニアまで送ってあげる」
「は? いや、お前には家があるだろ?」
「オレ、ここの子じゃないもん。実はー、家出中でーす! へへへー……!」
そう言われて、背中がゾクッと震えた。
もしこれが現代日本だったら、連れ去り案件だ……。
さらにこれがアメリカなら、アンバー警報ってやつが発令されて、被害者と誘拐犯の追跡が始まるやつだ!
銃殺もあり得る!
俺の知ってる洋ドラではそうだった!
「大丈夫か、お前……?」
「そっちこそ1人で帰れるー? ほんとに大丈夫、ボンちゃん?」
「トラムを乗り換えてマレニアの駅で降りれば、目の前が学校だ。迷いようがない」
「ふーん……。次の休みも、ギルドの仕事するのー?」
「ああ、そうだ」
「じゃあ、また来週ね!」
「いやだから、危ないからこれ以上は……」
「トラム来たよ。じゃ、また来週!」
寂しいのかな……。
しかしこちらには、こちらの予定があるんだが……。
俺は黄のトラムに乗り込み、レーティアの見送りを受けて町を出た。
さて、どうしたものか……。
歳が近いので、リチェルと友達になってもらいたいだけだったんだが……。
まさか冒険の方に、興味を持たれるとはな……。
まあ、いいか。
来週の俺がどうにかするだろ。
知らん。




