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・マレニアの二学期 - ド近眼の向き不向き -

・グレイボーン


 ラズグリフ教官から一通りの話を聞いた。

 ジーンは寮へと続く回廊で生き絶えているところを学食帰りの生徒に発見され、その遺体は故郷イオニア村へと搬送された。


 マレニアはてんやわんやの大騒ぎ。

 冒険者ギルドも、司法局も、突然の惨事に大きく動揺した。


 特に冒険者組合と、そこで仕事を請け負う冒険者たちのショックが大きかった。

 なにせ内部の不正を暴こうとしたジーンが、突然何者かに惨殺されてしまったのだから。


「で、お前はどうする?」

「……難しいな」


「難しい? 何がだ?」

「犯人捜しだ」


「おいっ、こりゃお前が関わることじゃねぇ!」

「そうでもない。俺は被害者たちのルームメイトだ」


 犯人は寮にいたガーラントさんも襲った。

 全治1ヶ月の重傷だそうだ。

 後ろから頭を殴られ、きつく拘束され、今は都の病院だ。退院は来週以降らしい。


「落ち着け、人が死んでんだぞ? 深入りするべきじゃねぇ……」

「だが、次にうちのリチェルが狙われたらどうする?」


 大真面目にそう主張すると、厳しい顔をしていた教官が笑った。


「ははは……お前そればっかだなっ!?」

「俺はリチェルを守るためにマレニアに入ったんだ。危険な殺人犯を排除して何が悪い」


「狙われたのはお前とカミルだ」

「なら次は、俺の弱点を狙うだろうな」


「む、むぅ……。なら……リチェルの部屋でしばらく寝泊まり出来るように、便宜をはかってやる。だからおとなしくしろ……」

「本当かっ!?」


 それは興味深い……。

 ガーラントさんもしばらく病院だ。

 何よりリチェルと夜も一緒に過ごせるというのが、いい……。


「では女子寮で寝泊まりしながら、ジーンの仇を捜すことにしよう」

「はぁ……!? いやなぜそうなるっ?!」


「ジーンは俺を守ろうとしてくれた。もしここで逃げたら、カッコ悪いだろ」

「いやお前っ、そもそもその目でどうやって、犯人を捜すってんだよっ!?」


「ああ、それなんだよな……。こういう仕事は俺に向いていない……」

「なら止めろやっ!!」


 何せこの目だ。

 証拠品も、そうでない物も、まるっとひとまとめに、なんも見えん……。

 困ったな……。


「だがなんで推理物の登場人物みたいに、殺られるのをおとなしく待っていなきゃいけないんだ? 犯人を捕まえよう」

「まあ、一理なくもねぇ……。だけどよ……その目で一体全体どーすんだってんだよぉっ!?」


「がんばればどうにかなる」

「ならねーよっ! ちょっとは俺たち大人を頼れや!」


 いや、マジでどうしたものか……。

 この目では捜索なんて不可能。

 教官の言う通り、誰かを頼るしかないのだろうか……。


 腕を組んで自分なりに考えてみたが、やはり俺に探偵は無理だ。

 ところがそうしていると――


「失礼します!」


 聞き覚えのある声が職員室の扉越しに響いた。

 張りがあって声質まで妙に誠実なこの声は、もはや忘れようがない。


「探したよ、グレイ」


 それはイザヤ学術院のジュリオのものだった。


「ジュリオ、来てくれたか!」

「ああ、この件には僕たち親子も噛んでいたからね。本当に残念だった……」


「だいたいの話は教官から聞いている。悔しい結果になった」

「まったく酷い話だよ……。彼は組織内部の不正を正そうとしただけなのに……」


 ラズグリフ教官は重いため息を吐いた。

 どうやらジュリオともう面識があるようだ。


「お前からもなんとか言ってくれ……。コイツ、犯人を捜すつもりでいるぞ……」

「はい、その件で来ました」


 ジュリオはハキハキとした声でそう返すと、俺の前に立って、俺にも見えるように自分の顔を近付けた。


「協力してくれるのか?」

「逆かな。君を止めに来た」


「なんだと……?」

「ここは僕に任せて、学業に集中してくれないか?」


「いや、俺も手伝う」

「いやだから、どうやってだよ……」


 教官がそうぼやくと、ジュリオはおかしそうに笑った。

 俺と教官の関係が面白いのだろうか。


「君にはリチェルちゃんの保護者って仕事があるだろう?」

「む……まあ、それはある……」


「それに君は学生、学ぶのが仕事だ」

「ジュリオ、それを言ったらお前もそうだろ」


「そうだけど、こっちは就職活動が終わって暇なんだ」


 あーー…………。

 それ、1度は言ってみたい勝ち組のセリフだなぁ……。

 本命の内定勝ち取り済みでーす、的な……。


「だが俺はジーンに借りがある、何もしないわけにはいかん」

「その借りは僕が代わりに返しておくよ。グレイ、これはここだけの話だけど……」


 ジュリオは俺に耳打ちしてこう言った。


「ジーンはガーラントというルームメートに暗号を遺していたんだ。その暗号が解ければ、隠された証拠にたどり着ける」


 なかなか風向きのいい話だった。

 犯人はガーラントさんを気絶させる前に、尋問するべきだったな。


「だから俺の出る幕はないと……?」

「ジーンを殺害した犯人と、君を陥れた者が同一人物だとすると、エスカレートした犯人は再び君を狙うかもしれない」


「……なるほど」

「その前に僕は犯人を見つけて君を守り抜くよ。戦う力はないけど、こういった形なら君の力になれるんだ」


「なるほど、まったくもって、なるほどな……」


 そうか。

 エスカレートした犯人は俺を狙うか。

 それなら話が変わってくる。


「ジュリオ、お前のおかげでたった今、もっと簡単な方法を思い付いた」

「え?」


 俺が短気を起こして容疑者カップスープ・クノールを襲うとでも思ったのだろうか。

 ジュリオが不安そうな声を上げた。


「暴力はダメだよ?」

「……ここには教官がいるからまずい。トイレで話そう」


 ジュリオの腰を押して、2人だけになれる場所に誘った。


「おい、あんま悪さすんなよ……? 俺からも言うが、暴力に出たらかばってなんかやれ――おいこらっ、最後まで聞いていけやっ!?」

「教官、女子寮の件はよろしく頼む」


「どんだけマイペースなんだよっ、お前はよーっ?!」


 俺は相棒をトイレの個室に連れ込み、少し狭かったがド近眼にはしっくりくる距離で、思い付きの計画を語った。


 ……ちなみに。

 2人で個室を出るところを他の生徒に見られてしまったが、まあなんのことはない。


「僕たち、男同士で何をやっていたのかと、そう思われてしまっただろうね……」

「何って、悪巧みだろ?」


「イザヤでも誤解されたの忘れたのかい……? 君がいちいち、顔を近付けてくるから……」

「いや、すっかり忘れてた」


 誤解されようとも、人の評価なんて無視して堂々としていればいいだけのことだった。

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