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・マレニアの二学期 - 魂の行き先 -

 故郷に別れを告げ、兄妹でトラムに乗り込んだ。

 リチェルはコーデリアの話が多かった。

 それに次いで、ジュリオとトマスも話題によく浮上した。


 会いたい顔が山ほど浮かぶのは俺も同じで、否応なく話が弾んだ。

 隣の客には迷惑かもしれないが、楽しいトラムの旅になった。


 やがてトラムが中央駅に到着すると、俺たちは青のトラムに乗り換えることにした。


「ジュリオがな、ここで親切に教えてくれたんだ。試験会場の行き先を」

「ジュリオ、やさしい!」


「ああ、いいやつだ。危うくこっちはアイツのせいで、マレニアに入学しかけたがな……」

「ほへ……?」


「俺が重弩を背負っているから、マレニアの試験を受けると勘違いしたんだよ、アイツ……」

「そうなんだー!」


「まあ間違えて当然だな」

「でも、それで友達になった! ジュリオとお兄ちゃんはー、んー、えとー……あ、運命っ!」


「運命? ならいつかアイツと結婚でもするか」

「えーーっっ?! ダメ!! お兄ちゃんは、リチェルと結婚するのーっ!!」


 そう言ってくれると俺は信じていた。

 さすがに本当に結婚するわけにはいかないが、この子を誰にも渡したくない。


 懐かしい都の町並みにリチェルは目を輝かせて、目の悪い兄の代わりに沢山の話をしてくれた。



 ・



 ところがだ。

 いざマレニア魔術院に帰って来てみると、妙な違和感があった。


 学生たちはこれまで通りだったが、教官方が妙にピリピリとしていた。

 夏季休暇中に何かあったとしか思えなかった。


 クラスメイトたちも教室で再会を喜びながらも、気持ちの悪い違和感を肌で感じて不安そうにしていた。


「リチェルちゃん!」

「コーちゃん! ただいまーっ!」


「ああっ、会いたかったですわーっ!」

「リチェルも! えへへ、また一緒だねー!」


 まあうちの妹と腹ぺこ貴族に限っては、のん気なものだったが。

 やがて教室にクルト教官が現れた。


「学院長から話がある。講堂に集まるように」


 彼が言ったのはその言葉だけだった。

 愛嬌のあるクルト教官とは思えない簡潔さで、ますます俺たちは異常を感じ取った。


 ただちに講堂に集まり、全生徒の集合が済むと、講壇に学院長が立ち、セラ女史がその後ろに控えた。


「あ、うむ……。今日は諸君に、残念な話をしなければならない……」


 あの学院長が言葉を選んで、普通に話している……。

 まさか戦争でも起きて、これから動員でもされるのかと、嫌な噂をする者まで現れた。


 そいつらはすぐに女史に静粛させられた。


「つい数日前、不幸な事件があった。我が校の1年生、イオニアのジーンが……」


 ジーンの名前が出ると1年生を中心に動揺が走った。

 俺はすぐに列を離れ、リチェルの隣に移動した。


「何者かにより……ジーンは、殺害された。現在、治安局は目下、犯人を――」


 そこから先は学院長が何を言っていたのかわからん。

 ジーンを知るリチェルが小さな悲鳴を上げ、その背中を抱いて落ち着かせるだけで精一杯だった。


 動揺は講堂中に広がり、そしてわけがわからないうちに、教室に戻るように誘導された。

 教室に戻ると、ラズグリフ教官が訪ねて来た。


 午後から予定されていた授業は全て中止、学生は寮に戻り、明日からの授業に備えろとのことだった。


「話がしたい、職員室に来い」

「わかった。コーデリア――」

「申し上げずとも存じております。リチェルちゃんは任せを」


「頼りになるな」

「お兄ちゃん……また、後でね……」


「ああ、後で散歩にでも行こう」


 ラズグリフ教官と教室を出た。

 大柄な彼が早足になると、付いて行くのも一苦労だ。


 職員室には人影がなく、どうやら教官と俺だけだった。


「勝手なことされる前に説明しとくぜ」

「信用がないな」


「あるかバカ。……それとも、友達の死に様なんて聞きたくねぇか?」

「本当に殺されたのか……? 知りたい、聞かせてくれ」


「なら単刀直入に言うぜ。ヤツは口封じに消された。……よりにもよって、この学内でな」


 ルームメイトが学校内で殺された。

 さすがの俺もこのショッキングなニュースに、頭が真っ白になってしまった。


 粗暴なところはあるが、仕事熱心で真っ直ぐな男だった。

 あの皮肉屋のだみ声をもう聞けないと思うと、実感に欠けた寂しさが胸を覆った。


「お前は当事者だ、詳しく話してやるよ」

「ああ、頼む……」


 ああ、アイツも……。

 ジーンのやつも……。



 あのオカマバーに行き着くのだろうか……。



 ああ、悪い、ジーン……。

 そう考えると、悲壮感とか急に薄れてきたわー……。


 ま、せいぜいがんばれ。

 あのカマ様は、マジで人の話を聞かない邪神である上に、人の人生をリアリティーショー感覚で眺めてるヤベーやつだから、割り切って付き合えよ?

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