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・終業式と夏期休暇 - 金貨を溶した夏の夜 -

「ほわぁぁ……っ、こ、これが、おむらいす……っ、お兄ちゃんっお兄ちゃんっ、これすごーいっ!」


 タイミョウ軒のオムライスは絶品だった。

 中でもホワイトシチューのかかっているやつは、ご家庭では到底作れない手間暇の結晶だった。


 ハンバーグにコロッケ、カツレツ、フライドポテトにえびフライ。

 お子さまの好きな物が目白押しで、リチェルは金のことなんて忘れてはしゃいでくれた。


 カレーなのにライスではなくパンが付くのは、納得がいかなかったが……。


「そっちのハンバーグ、少しわけてくれるか?」

「うんっ、いいよ!」


「代わりにえびフライをかじらせてやろう」

「う、うん……っ」


 デミソースのハンバーグも美味かった。

 食べかけのえびフライをリチェルの口に突っ込むと急におとなしくなった。


「ほわぁぁーっっ!!」

「あっ、こらっ、あっ?!」


 かと思ったらよっぽど美味しかったのか、尻尾だけ残して全部食われた。

 えびフライ1本にしたって、こういう高級店となるとわけが違う。


 エビが分厚く、衣も厚く、サクサクの香ばしい揚げたての香りが自己主張していた。


「わたくし、今日この日のご恩は忘れませんわ……」

「またお前も大げさだな」


「リチェルちゃんには朝昼晩のご飯を分けていただいて、そのお兄さまにはこんな、こんな……ああっもったいないっ、もったいないけど止まりませんわーっっ!!」

「遠慮するな、いくらでも注文してくれ」


「ではデミソースハンバーグを3つとっ、えびフライを12本お願いいたしますわーっ!!」


 エビフライ用のエビの在庫、今ので死んだかもな。

 女性でありながら誰よりも大食いなコーデリアに、ジュリオとトマスは目を見開いて驚いていた。


 ま、おごる側からすればこれくらいがちょうどいい。


「トマスは食わないのか? コーデリアの4分の1も食ってないだろ」

「あ、ごめん。人間の胃袋って、どうしてこうも大きさが違うんだろうって、考え込んじゃって……」


「アイツの胃袋は特別製だ。しかしあんなに油物を食って、後で腹を壊さなきゃいいんだが……」


 トマスは小食だ。

 食事よりもお茶や会話、読書を好むような静かなやつだ。


「グレイ、僕たちから君に報告があるんだ。聞いてくれるかい?」

「あ、そうなんだよ! 君の冒険話も気になるけど、僕たちからも聞いてほしいことがあるんだ!」


 普段物静かなトマスが声を大きくして主張した。


「実は僕たち、内定を貰ったんだっ! それも本命のねっ!」

「おお、マジかっ! もしかして、国立学問所か!?」


「そう、僕は国立学問所! またの名を蒼爪の塔! そこで研究をさせてもらうことになったんだ!」

「よかったな、俺はトマスが学者に向いていると思う。……となると、ジュリオの方は父親と同じ内務省か?」


 レモンジュースでジュリオと祝杯を上げようとすると、ジュリオはそれに付き合わなかった。


「いや、僕は開拓省だよ」

「開拓……? お前、内務省の高級官僚になるって言ってなかったか?」


「ああ、それが出世の最短コースで、父上の望みだった。でも止めたんだ」


 開拓省は名前の通り、開拓に関連する省庁だ。

 冒険者組合の上層組織にあたる。


「君の助けになりたくて、この道を進むことにした。父上に望まれただけの進路を歩むだけでは、やりがいなんてない気がしたんだ」

「お前……思い切ったことしたな」


「一足先に待っているよ、グレイボーン・オルヴィン。今さら冒険者は止めるなんて、言わないでくれよ?」

「そんな予定はないな」


 ジュリオは父親の反対を押し切って、俺の夢に近い道を選んでくれた。


 卒業後にジュリオが待っていてくれる。

 そう思うと、これから夏季休暇に入るというのに今からハードなトレーニングでもしたい気分になった。

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