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・終業式と夏期休暇 - 腐ってもわたくし子爵令嬢 -

 この国は西方と南方のそれぞれに険しい山岳地帯を抱えている。

 海外との接続は山間の狭路(きょうろ)に頼っており、父さんが言うには国を出るのも昔は一苦労だったそうだ。


 しかし現在は貨物トラムというものがある。

 料金はかかるがそれに乗せてもらえば、狭路の頂上にある貨物ターミナルまで簡単に行けるらしい。


 そこから先は歩きだそうだが、それでもこの国の迷宮やモンスターがもたらす宝石や鉱物、各種資源や魔法の品を求めて、多くの商人が買い付けにやってくる。


 要するにこの国は物流マニアも垂涎(すいぜん)ものの、ロマンあふれる資源生産拠点だ。


 国中にトラム路線を張り巡らせるほどに豊かであるのに、未攻略エリアという開拓と出世のチャンスがそこら中に転がっているのもまた、俺からすれば魅力的だった。


 とまあ、そんな西に見える山岳地帯なんだが、その先の空はまだ薄水色のままだ。

 だがじきに空は赤く染まり、山陰は暗く影を落とすだろう。


 まあ、ぼんやりと色しかわからんのだが。


「バ、バロック次官殿の息子さんっ、なのですかっ?!」

「ジュリオか? そうだが?」


「んなぁっ!? そういうことは先に言って下さいましーっ! 腐ってもわたくしーっ、子爵令嬢ですのよーっ!?」

「そんなこと向こうは気にしない。さ、行くぞ」


 つまり時刻は夕方前。俺たちは飲食店が混み始める前に寮を出た。

 リチェルと並んで歩くコーデリアの背中を押して校門を出て、すぐそこの青のトラムに乗る。


「ジュリオ、やさしいよ! それに、かっこいい!」

「リチェルはジュリオみたいな男が好みか?」


「え? んーー……ジュリオ、かっこいいけど……。リチェルはお兄ちゃんが好き! 結婚するって、約束した!」


 リチェルは後ろ歩きになって、元気に明るくそう言ってくれた。

 いやそう言ってくれなかったら、俺は軽く闇落ちしていたかもしれない……。


「ジュリオの方がイケメンだぞ?」

「うんっ、カッコイイ! でも、リチェル、お兄ちゃん一筋(いっきん)だから!」


 ん、いっきん……?

 ああもしかして、一筋(ひとすじ)って言いたかったのか?


「イケメンで、お金持ちで、権力者の息子……き、緊張いたしますわ……っ。わ、わたくしが関わってもいい方なのでしょうか……」


 人柄を知らないとそうなるか。

 おまけに名門イザヤの超優等生となれば、女性から見ればさぞジュリオは輝いて見えるだろう。


「アイツに彼女はいないぞ。案外これは、玉の輿のチャンスだったりしてな?」

「たまのこし……? たま、残すのー?」


「そうじゃない。金持ちと結婚して貧乏生活とおさらば! って意味だ」

「ゴクリ……ひ、非常に惹かれますけどっ、そういうのはいけませんわっ! 自分の身は、自分自身で立てませんとっ!」


「ははは、いいこと言うじゃないか」

「コーちゃんかっこいい! コーちゃんも、イケメン!」

「お、おほほ……。はぁ……惹かれますけれどね、玉の輿……」


 俺たちは青のトラムに乗り込んで、待ち合わせ場所であるバロック邸に向かった。

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