表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/93

・警告:パーティが見つかりません - ネコババしようとして何が悪い! -

 それから約1時間後。

 帰って来ないリチェルに兄がソワソワし始めていると、ホール中央の床に刻まれていたレリーフがまばゆい蒼色に輝きだした。


 座学での学習が正しければこれはポータルであり、空間転移だ。


「わ、わっ、わあああーーっっ?!」

「な、なんですのぉーっ、これぇーっっ?!」


 光の中からリチェルの声が響くと、俺は重弩を床に置いてその中に飛び込んでいった。

 綺麗な光の中にリチェルを見つけて、手を取って、指が5本あることに安堵した。


「リチェルッ、無事でよかった!! 恐くなかったかっ、怪我はないかっ!? 何かしてほしいことや欲しい物はあるかっ!?」


 リチェルの顔を深くのぞき込むと、やけに嬉しそうというか、得意げな表情がそこにあった。


「お兄ちゃんっ、これ見てっ!」

「ん……これまた、でかいメダルだな?」


「これっ、100点の証だって!」

「なんだって!? 100点なんてすごいじゃないか、リチェルッ!!」


 リチェルを抱き締めて、リチェルの大活躍を兄妹で喜び合った。


 俺は信じていた。

 リチェルは魔法の天才だ。

 こんな下級の迷宮でやられるはずがない!

 コーデリアもまあまあよくやってくれた!


「コーデリアさん。こちらへ」

「な、何かしら……? わたくしも100点のメダリオンをゲットいたしましたのよっ!?」


「その鎧の内ポケットにあるものを、こちらへ」


 何か問題だろうか。

 胸の中のリチェルが途端に元気を失って、心配そうに金ぴかのコーデリアのことを見ている。


「実習で手に入れた品は、本校に納めるのが約定。そうですね?」

「う、うう……。なんで、わかったんですの……」


「新入生の皆が皆、そうするからですよ」


 ジャラリと、かすかに光る何かが女史に渡された。


「リチェル、あれはなんだ?」

「迷宮でね、宝箱を見つけたの……。見たことのない、おっきな銀貨でいっぱいだった!」


「で、それを学校に納めずネコババしようとしたと」

「うん……。いけないことだと、わかってたけど……コーちゃん、お金必要、言ってたから……」


 生徒ががんばって手に入れたお宝を、マレニアは奪い取るのか?


 なんて酷い仕組みだ!

 なんて酷い搾取構造だ!

 ネコババしようとして何が悪い!


「後ほど1割が学校から貴女に返納されます。立て替えておきますので、今後はこのようなことがないようになさい」


 と、思ったのだが、女史はさすがだった。

 納められた銀貨から1割どころか3割ほどを取ると、コーデリアにそれを渡した。


「あ、ありがとうございますっ、このご恩は忘れませんわ!! お父様がツケ払いで、また大きな買い物をして……今すぐお金が必要だったんですの……っ」


 よくお前、闇オチしなかったもんだな。

 ついそう思ってしまうくらい、コーデリアの家庭事情は普通に悲惨だった。


「お兄ちゃん……」

「なんだ、リチェル? 100点のご褒美が欲しいか?」


「そろそろ、熱いかも……」

「おお、あまりに抱き心地がいいのでうっかりだ! リチェル、メダリオンの取得おめでとう!」


 このメダリオンが置かれている場所には、そうそう簡単にはたどり着けないと聞く。


 俺の妹はやはり天才だ。

 マレニア魔術院生徒として、順風満帆な成績を上げてゆくリチェルが俺には誇らしく、それでいてまぶしかった。


「グレイボーン」

「なんだ、女史?」


「妹を祝福する前に、自分の心配をなさい」

「きっとどうにかなる。俺と組むくらいなら赤点でいい、と考えるやつが最後に残らない限りな」


「それは挑戦者が偶数だった場合でしょう。今回の試験の参加者数は、奇数です」


 なん、だと……?


「…………つまり?」

「努力しないと、貴方は独りで挑むことになります。が、学園は視力に問題のある貴方を、単独で挑戦させるつもりはありません」


 妹の試験を見守っている場合ではなかった、ということか……。


「ま、どうにかなるだろ!」

「そういう嫌に前向きなところは、父親に似て腹が立ちますね……。さっさと帰って、自分の相手を見つけなさい!」


「そうだな。リチェル、一緒に帰ろう。ついでにそこの金ピカも」

「何か勘違いしておりませんっ!? わたくし、好きでこんなの装備してるんじゃありませんことよっ!?」


 がんばったリチェルを抱っこして、もう片手に重弩を持って、ピカピカして見分けやすいやつに振り返った。


 この鎧は素晴らしい。

 実に見分けやすく、俺の目だけにやさしい。


「お、お兄ちゃん……っ、みんなの前で、こ、こういうのは、恥ずかしいよぉ……っ」

「なんだ? 領地では人目をはばからず、俺に肩車させてたのに、なぜ今さら恥ずかしがる?」


「な……なんか……だって……。みんなの前だと、恥ずかしいんだもん……」

「気にするな」


「き、気にするよぉ……っ」

「ほんとにバカ兄ですのね……。では皆様、ごきげんよう」


 こうして重弩と天才魔法使いを抱えた男と金ピカの鎧女は、トラム駅へと引き返し、やたらに人々の注目を浴びながら、マレニア魔術院へと帰っていったという。



 ・



 迷宮実習強制リタイアまで、あと4日。


 いや3日。


 いやまだ2日ある。


 と思ったらついに明日となったその日、俺はゲームオーバーの宣告をされた。


「グレイボーン、ついに最後のペアが見つかった。これで君が組める相手はいなくなったことになる」

「知ってた。俺なりに誘ってみたが、結局全員に断られたからな」


「お前の実力は学年の誰もが認めるところだが、視力の低さもまたしかり。誰も背中を撃たれたくないようだな」

「おい、そうハッキリ言うなよ、クルト教官……」


 無念だが、こうなっては投了だ。

 悔しいが今学期は諦めて、2学期にリベンジを果たすことにしよう。


「おい、どこに行くんだ? まだ話は終わっていないぞ」

「寮に戻って帰省の準備をする」


「お前、諦めるのか?」

「諦めるも何も、組む相手がいないと言ったのは教官だろう」


 教官には何か考えがあるのだろうか。

 引き返して教官の顔をずいとのぞき込んだ。


 するとそこには、頼もしい年長者の笑みがある。

 あの青いバンダナも健在でよく似合っていた。


「お前のこれにもすっかり慣れたもんだ」

「すまん。で、何か腹案でもあるのか?」


「ああ、お前が組む相手はもう同級生にはいない。……同級生にはな」

「上級生と組んでもいいのか? そんなレギュレーション、聞いてないぞ?」


「どうしても見つからない場合、特例が許される。ただし、挑むのは1年生の迷宮ではなく、上級生の迷宮だ」


 そう聞かされて俺は無意識に笑ってしまっていた。


 こういう展開は嫌いじゃない。

 俺の重弩で貫く相手は、強靱な生命力を持った強敵であってほしい。


「なんでもないな。問題はその上級生が、首を縦に振ってくれるかどうかだ」

「では寮室で待機していろ。訪ねるように伝えておく」


「わかった、茶の準備でもしておこう」

「念のために言っておくが有望なやつだ。断るなよ?」


「俺と組んでくれるなら、チワワだってありがたく迎えるよ。ありがとう、クルト教官」

「いいさ。それより新しい武勇伝を期待しているぞ、グレイボーン」


 呼び出された職員室を離れ、食堂でアイスティーを注文してから自分の部屋に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ