・警告:パーティが見つかりません - 横暴だっ、訴えてやる!! -
7月。夏期休暇を目前としたこの時期のマレニア魔術院は、イザヤ学術院以上に忙しない。
期末試験の大変さはイザヤと大差なしとして、マレニアでは時に死傷者すら出す危険な実習、現地実習が行われる。
よって当然ながら、俺はリチェルと一緒にこの現地実習を受けるつもりでいた。
しかしリチェルと俺は組めなかった。
「なぜだっ!? なぜ俺に妹を守らせないっっ!? 横暴だっ、訴えてやる!!」
「だから言っただろう。今回、国が解放してくれた迷宮が、2名編成の迷宮だからだ」
ここは職員室。
俺は今、クルト先生の呼び出しを受けている。
「前衛なしの2人で迷宮を下ってはいけないという法律はないっ!」
「そうかもしれないが、お前の望む編成は不安定だ。お前は大切な妹を、捨て身で突撃して来た敵に殺られてもいいのか?」
リチェルのペア相手の座は、女騎士コーデリア・ハラペに奪われた……。
不安だ……。
彼女の野心は認めるが、いくらうちの妹が魔法の天才だからといって、万一というものがある……っ。
「その目では妹の護衛は無理だ。そのくらいは認めろ」
何という現実。
何というハンデだ……。
しかし考えてみればあれもこれもそれも……!!
「く……っ、あの、カマ様め……ッッ」
アイツがちゃんと説明しなかったからこうなってるんじゃないのか!?
「カマ? 急になんの話だ?」
「カマだ! オカマの神だ! 俺はあのオカマの神に騙されて、そのせいでこんな目に生まれてしまったんだっ!!」
「お前、大丈夫か……? 妹が心配なのはわかるが、コーデリアはファイター部門で学年7位の実力だ。何も心配はいらないぞ」
満足か、カマよ!
俺がこうして苦悶する姿が見たかったんだろ!?
だってお前、そういうやつだもんっ!!
人の人生をリアリティーショー感覚でのぞいてるような神だもん!!
「とにかく妹の心配より、お前は自分のペア探しの心配をしろ。このまま見つからないようじゃ、リタイアしてもらうことになるぞ……」
「は? どうしても見つからない時は、1人で挑戦する。それでいいだろ?」
多少分は悪いが、まあどうにかなるだろう。
1人で挑む分、誤射がなくて気楽ってもんだ。
「バカなやつだな……。視力弱者の生徒を1人で迷宮に行かせたら、何かあった時に俺たちの責任問題になるだろが」
聞けばつまらない理由だった。
しかし客観的に受け止めれば、まあそうもなろうって感じだ。
「今日まで勘で生きてきたんだ、どうにかなるさ」
「ペア相手を見つけろ。見つからないなら強制リタイア、これは決定事項だ、わかったな?」
「マジかよ……」
迷宮実習は立候補順だそうだ。
俺みたいにまだ相手が見つからないやつは、予定日終盤にずれ込むことになる。
「タイムリミットは27日だ。これを参考に、どうにかして相手を見つけるように」
俺は【ペアの見つからないあぶれ者のリスト】を受け取り、ため息を吐きながら職員室を出た。
見つけろと言うは簡単だが、果たして、俺にペアが見つかるのだろうか……。
しかし廊下でざっと目を通すと、そこに見覚えのある名前を見つけた。
オロシャ村のガーラント。
俺のルームメイトにして、でかい男だった。




