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・妹は同級生 - 俺がやったと言っている!!! -

「俺がやった。学院長室にでもどこにでも連れて行ってくれ」

「助かるでござるよぉぉ……っっ」


 元は俺たちに新しい技術を教えたくてやってくれたことだ。

 トラブルになる前に許可を取っておけ、って話になるが。


「やれやれ、ナスノ教官には困ったものですなぁ、お坊ちゃん」

「そのお坊ちゃんは止めてくれ。家督を継いだのは妹だ」


「リチェル、あの子もまた素晴らしい。ワシはね、勝ち馬を見抜く能力にはそれなりに覚えがありましてね、お坊ちゃぁん……」

「……そういえば、アイツは元気か?」


 ふと2年前の入学試験のときのことを思い出した。


「はて、アイツとは、どなたですかな?」

「ほら、カップスープの……なんとかかんとかだ」


「いや全くわかりませんな」


 アイツの名前、なんだっけ……。

 格闘ゲームに出てきそうな名前だったところまでは、覚えているんだが……。


 順調に進級したのなら、今はマレニアの3年生だよな、アイツ?


「なんとかかんとか・なんとか・カップスープだったと思うんだが」

「……バロック次官より、便宜を図るように仰せつかっております。が、これ以上のトラブルは困りますぞ、お坊ちゃん」


「あの人、こっちにも顔が利くのか……」


 これはやることなすこと、次官とジュリオに筒抜けと見るべきだろうか。


「いやぁぁ、お坊ちゃんは、いい後援者をお持ちですなぁぁ……っ」

「アンタどんだけ権力に弱いんだよ……」


「大人になったらコネ! コネが命ですぞ!」


 いやそうなんだけど、教師には言われたくないド正論ってあると思う。

 俺は終わり無きおべっかを聞かされながら、院長室の前まで案内されると、そこでロートゥル教官と別れた。


「お坊ちゃま……私はこれにて失礼いたします! では、ご健闘を!!」


 いや、院長との接触を避けて逃げたと表現した方が正しかった。



 ・



「ワシがマレニア学術院院長!!! ブランチ・インスラーであるっっ!!!」


 マレニアの教官は個性的だ。

 よってその長である学院長は、さらに個性的であって当然だ。


 ロートゥル教官が逃げたのは、一重にこの学院長が苦手だったからなのだろう。


「どうも、先ほどの爆発なのですが」

「うむっ、なんであるかっ!!!」


「俺が持ち込んだ魔法式の矢が原因でして、威力を高めすぎた結果、ああなってしまいました」

「……クワッッ!!!」


 な、なんだ……?

 今、学院長の目から、正体不明の閃光が走ったような……。


「ワシがマレニア学術院院長!!! ブランチ・インスラーであるっっ!!!」

「ぐっ……?!」


 いや、確かにまた光った。

 迅雷のような大声に先んじて、まるで雷光のようにその目が光っていた。


 これが……これが胆力ってやつか……?

 ぼやけてなんも見えない俺に、ここまでのプレッシャーを与えてくるとは……。

 これが学院長、ブランチ・インスラーか……。


「も、申し訳ない……いや、申し訳ございません、学院長先生……!」


 俺なりに言葉を選び、頭を下げた。

 頭を下げただけであの爆弾曲射の技術を教われるなら、こんなもの安いものだ。


「ぬ……? ぬぅ、ぬぅぅぅぅん……!!!」

「いや何が不満なんですかー!? うわっっ!?」


 学院長ブランチ・インスラーは、書斎机にその大きな拳を叩き付けた。

 見るとそこだけ陥没している感じがする。

 それは家具への立派な虐待であり、常習的な激高癖の証左だった。


「ワシがマレニア学術院院長。ブランチ・インスラーである……」

「いやどうしろと……」


「ワシがマレニア学術院院長!!! ブランチ・インスラーであるっっ!!!」

「なんなんですか、もーーっっ?!」


 まさかこの人、見抜いて、いるのか……?

 俺がナスノ教官をかばうために、身代わりとしてここに出頭したことに……。

 いや、まさかな……。


「俺がやった」


 いい機会だと学院長の前に立ち、どんな顔をしているのかのぞき込んだ。

 彼はまるで虎みたいな、カタギにはとても見えないでっかいお人だった。


 頭をつるつるに剃っていて、体格が超ガッシリしているのもまた、カタギに見えない要因の1つだった。


「ワシがマレニア学術院院長!!!」

「俺がやったと言っている!!!」


「ブランチ・インスラーであるっっ!!!」

「人の話を聞けっ、犯人は俺だーっっ!!!」


 書斎机が何度虐待されようとも、俺は言い張った。


「ワシがマレニア学術院院長……。ブランチ・インスラーである……。フッ……」


 しばらくにらみ合うと、もういいと手振りで返された。

 おまけになんか満足げに笑われた。


「もういいのか?」


 こくりとうなずき、学院長は最後にこう言った。


「ロウドックのことは、残念だった……」

「そこで普通に喋るのかよっ!!」


「また来い」

「あ、ああ……。じゃ、次は詫びじゃなくて、茶菓子でも持ってくるよ」


 さすがは変人たちの長だ。

 父さんの顔の広さに驚きながら、俺は刺激的な弾道学と爆薬の授業を守り抜き、むやみやたらな気迫に包まれた学院長室を出た。

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