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・妹は同級生 - 冤罪着て、ヨシッ! -

 遠隔戦闘術の授業では、弓術以外を選択して教わった。

 俺にはロウドック・オルヴィンという厳しくも優秀な師匠がいたからだ。


「また命中でござるな。その目、本当に見えていないのでござるか?」

「見えてるけど、見えてないでござるよ、ナスノ教官殿」


「拙者の口調まで、まねしなくてもよいでござる」


 お手本にと持たされたショートボウで、勘で的を狙撃すると拍手喝采された。

 魔法系の授業ではおかしなお兄ちゃんかもしれないが、得意分野では俺は同級生に尊敬されていた。


「ではオルヴィン殿、次は自慢の重弩にコイツを装填して、あちらの射撃演習エリアに構えるでござるよ」

「わかった」


 妙な矢を受け取った。

 臭いと重さからしてこれは鉛の矢だ。

 それに太く、非常に重い。


「皆、訓練を止めて集合! これより特殊な弓の使い方を教えるでござる。弾速と角度、これが弾道学の基本でござる」


 くいっと、教官は俺の重弩の角度をだいぶ上に上げさせた。


「真っ直ぐに撃つだけが射撃ではござらん。最新の弓術のとれんどは! 重量物の曲射にござる!」


 俺も他の生徒と一緒になって、教官の言葉に感心した。

 父さんが現役だった頃にはない、新しい弓の運用法を教官は教えてくれた。


 これはうぬぼれかもしれないが、俺が実技に退屈しているのもあるのかもしれない。


「真っ直ぐに撃てば味方に当たってしまう状況であっても、ほれっ、撃つでござるよっ!」

「このままか? わかった」


 重弩のトリガーを引くと、爆音がとどろく。

 鉛の矢が高い弧を描いて飛翔し、演習上の彼方にドスリと突き刺さった。


「この通り。味方に当てることなく、飛翔体を目的地に飛ばすことが可能にござる」

「でも先生、この方法で目標に当てられるのですかー?」


 真面目な生徒がそう聞いた。

 目標に命中させるための弾道学の知識であるが、相当にこれは難しいだろう。


 風、特殊な矢の空気抵抗。

 こればかりは正確に計算出来ない。


「弾道学を究めれば、なんとなくのところまでは飛ばすことが可能にござる」

「結局、当たらないってことですか?」


「無理に直撃させる必要はないのでござるよ。……オルヴィン殿、次は同じ場所に、これを撃ち込んでみなさい、でござる」


 無理して『ござる』口調にする必要があるのでござるか、教官?


「これは……爆弾か?」

「左様」


「左様ってアンタ、いくら授業だからって、爆弾なんて使っていいのか……?」

「拙者は勉強熱心な皆を信じているでござる。さ、その魔法爆弾を矢尻にした矢を、撃つにござるよ!」


 しかしこれは面白いな。

 本来の実習内容からはだいぶ外れるかもしれないが、確かにこういった物を運用出来れば、戦略の幅が広がる。


 ここぞというタイミングで、魔物の群れの中心に爆弾を落とせるようになる。


「やってくれ、グレイボーン! 面白そうだ!」

「私は撃ちたくないけど、君が撃つなら見てみたいわ!」


 もしバレたら、撃った俺とナスノ教官が責任を取らされるだろうな。

 まあいい。撃ってみたいから撃つとしよう。


 俺は重弩を構え、さっきと同じ場所に着弾するように角度を微調整した。

 この弾は空気抵抗が高い。射撃の角度を気持ち下げた。


「さ、撃つでござるっ!」

「了解」


 トリガーを引くと爆音がとどろき、そして弾丸が弧を描いて彼方に飛翔した。

 空気抵抗の高いこの弾はまるでフォークボールのように途中で失速し、カクンと落ちるように落下した。


 そして次の瞬間、爆風をともなう凄まじい大爆発と、激しい地響きが引き起こされた。


 古い慣用句を使うならば、それは『晴天の霹靂』だ。

 正体不明の爆音と地響きに、学校中が蒼然となった。


「ちと、魔法の教官方ががんばり過ぎたようでござるなぁ」

「何を悠長なこと言ってるんだ……」


「何、院長先生もわかってくれるでござるよ。たまたま矢の中に、魔法の矢が混じっていたのでござるよ」

「いや、通らんだろ、それ……」


 マレニアに入ってよかった。

 この技術は弓使いにとっては画期的だ。

 彼の下で弾道学を学べば、より確実に敵の足下にこれを落とせるようになる。


 遠隔戦闘術の授業は学ぶ価値がありだ。

 この場で授業を受けた皆がそう思っていた。


「お前たちっ、これは何事だっ!! はっ、またグレイボーンお坊ちゃんのトラブルにございますか!?」


 そこに高速手のひら返しマシーンこと、ロートゥル教官が現れた。


「なんで自動的に俺のせいになるんだ……」

「トラブルと言ったらお坊ちゃんの専売特許にございましょう!」


 と責めるようにように言いつつ、ロートゥル教官は両手でごまをするのを忘れない。

 いや、ところが……。


「う……撃ったのはオルヴィン殿にござるっ! 拙者は、拙者は危ないと止めたのでござるが……っ」

「おいっ?!」


 俺は信じていたナスノ教官に裏切られた。


「許せでござる……。減給を免れたら、後で酒でも奢るでござるから……っ」

「それが教師のすることかっ! それに俺は、まだ未成年だ……」


「とにかくそういうことにして欲しいでござるよ……っっ」

「アンタな……」


 しかしさっきの爆発は素晴らしかった。

 もし爆弾の曲射に関する実習を禁止されてしまったら、教官から技を教われなくなってしまう。


 ここは合理的に考えよう。

 ナスノ教官に恩を売る価値は十分にある。


 もしも退学騒ぎになってしまったら、その時はその時だ。

 俺も手のひら返してナスノ教官を売ればいい。


 とりま、冤罪着て、ヨシッ!

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