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・妹は同級生 - ドロップキック系お嬢様 -

 入学式。俺はまたもや浮いた。

 リチェルの隣で式を迎えるために、女子生徒側の席に座ったのもある。


 しかし根本的な原因は、同級生より一回りでかいこの背丈と、2年前のあの伝説だ。

 式を終え、1-Cの教室に通され、俺はリチェルと並んで教壇に机を並べた。


 立候補でもしてくれたのか、担任はあのクルト教官だった。


「グレイボーン、お前はつくづくマイペースな男だな。……この距離感、俺としてはどうも落ち着かないんだが、なんとかならないか?」

「すまん、教官が黒板を使う以上、こうする他にない」


「リチェル君、君は目がよさそうだが、なぜそこにいるんだ?」

「あのねっ、ジュリオがね、こうしたんだって! だからリチェルもこうするの!」


「……誰だ、ジュリオって?」

「イザヤで世話になった同級生だ。目がいいのに、席を俺の隣に動かして一緒に浮いてくれた面白いやつだよ」


「へぇ、なかなかの美談だな。担任からすれば、まったく勘弁してほしいがな……。ああ、邪魔臭い……」


 マレニアの入学式はイザヤと同じだった。

 クルト教官が学校の仕組みや科目を解説し、引率して学内を案内すると、最後は寮に行き着いた。


 本当にイザヤと全く同じ構造の寮だった。

 生徒それぞれに部屋番号付きの鍵が渡された。

 なるほど、俺は男子寮のようだ。


「バカ抜かせ、このバカ兄!」

「わかっている、無理は承知の上だ。だが教官、俺はリチェルと同じ女子寮に行く!」


 そういうわけなのでこの鍵は必要ない。

 だがクルト教官は俺から突き返された鍵を受け取らなかった。


「だからっ、バカかお前はっ! いくら兄貴だからって、許されるわけがないだろうがっ!」

「お、お兄ちゃん……っ、い、いいよぉ……っ」

「大丈夫だリチェル、お兄ちゃんに任せておけ」


 なんと言われようとも、リチェルの生活の面倒は俺が見る。

 リチェルを男子寮側に来させるわけにはいかないので、俺が女子寮に行くしかない。


 リチェルの背中を押して女子寮側の廊下を進もうとすると、クルト教官に道を阻まれた。


「教官、わかってくれ。同じ部屋でないと妹を守れない」

「トラブルを起こさずにはいられないのか、お前はっ! この先に進めば入学早々、変態の烙印を押されるぞ!」


 妹のためだ。

 手痛いが致し方ない。

 甘んじて変態になろう。


「わかったよ、この際だ、俺が女装しよう」

「通るかアホッ!!」


「安心してくれ、俺に下心はない。必要ならば、お嬢様言葉だって使いますことよ」

「は、はぁぁぁ……っ。バカ兄過ぎるぞ……」

「お兄ちゃん、なんか、リチェル恥ずかしいよぉ……」


 困った……。

 これではリチェルが女子寮でいじめられた時に、助けに行けないではないか。

 リチェルは今夜、心細く他人と共に眠ることになるんだぞ!?


「あら、こんなところにいましたのね、リチェルさん」

「ほへ……? お姉ちゃん……あ、同じクラスの……」


「それでいて貴女のルームメイトですわ。見るに見かねて、お節介に来ましたのよ」

「お、お兄ちゃんが、ご迷惑をおかけしてます……」


「ふふふっ、愛情深いのはいいことですわ。行き過ぎて、いますっ、けれどもっっ!!!」


 俺はクルト教官相手にゴネていた。

 なんとしてもリチェルと同室になるべく、ゴネてゴネてゴネまくっていた。


 うちのリチェルに女子生徒がちょっかいをかけ始めたけれど、彼女の助け船などいらない。

 俺は実力で、妹との幸せな生活を手に入れる!


 と、心に誓った俺の背中に!


「黙れですわっ、このボケ兄ッッ!!」

「ウガハッッ?!!」


 その女子はドロップキック的な物理攻撃を放って来た!!


「お、おおお、お兄ちゃぁぁーんっっ?!!」

「わたくしが妹さんの面倒を見てあげますからっ、おとなしく男子寮側に行けですのっ見苦しいっっ!!」


 俺は壁に激突して、膝を突いたところでリチェルに介抱された。

 状況はわからんがこのお嬢様言葉の女、なかなかいいキック力をしているじゃないか……。


「お前がリチェルの面倒を見る、だと?」


 身を起こして、推定ドロップキックをぶち込んで来た相手の顔をのぞき込んだ。

 涼しげな青い髪が全く似合わない、気の強い貴族女子の顔がそこにあった。


 貴族だと思ったのは、赤いルビーの髪飾りを付けているからだ。


「なんですの、このわたくしにケンカ売ってるんですの?」

「ち、違いますぅ……っ! お兄ちゃん、目が悪いからいつも、知らない人にはこうなのです……っ」


「あらそうですのー♪ 知らなかったらケンカを売っていたところでしたわー♪」

「いや既に蹴りを入れたところで、ケンカ売ってないか……?」


 貴族出身のようだが荒っぽいやつだ。

 こんなやつにリチェルを任せられるわけもない。


「教官方の隙を突いて部屋に呼んで差し上げますから、今はおとなしく自分の部屋に行きなさいな」

「それ、教官である俺の前で言わないでくれるか?」


 む……。だが話はわかるようだ。

 悪意も感じず、善意で言っているように聞こえる。


 こんな子がルームメイトなら、多少は安心か。

 ……かなり、荒っぽいが。


「本当か?」

「ええ、女装してでも来やがれですの」


「わかった、そうしよう」

「え、ええええーーーっっ?! お、お兄ちゃんっ?!」

「だからっ、俺の前でそういうことを言うなっ! 教官にも立場があるんだぞ、お前らっ!」


 今は妥協する他にない。

 学校公式の許可が下りるまで、彼女を頼るしかないだろう。

 とても、心配だが……。


「すまん、リチェルを頼めるか?」

「ええ、かまいませんことよ。お兄ちゃんのために、席を隣にくっつけたところがとても気に入りましたわ。かいがいしい子ですのね……」

「貝……? リチェル、貝は好きじゃない……」


「ふふふっ、超かわいいっ!! ということですわ!!」

「ふむ……」


 この女、リチェルの愛らしさを理解するか。

 なんだ、なかなかわかっているじゃないか。

 そうだ、うちの妹はかわいい。超かわいい。


 まあ当然のことだが。


「だがあまりにリチェルがかわいいからって、おかしなことはするなよ?」

「兄バカもほどほどにいたしませんと、いつか嫌われますのよ、お兄さん」


 うちの妹に限ってそれはない!

 そう言いたいところだったがその前に、リチェルに顔を近付けた。


 気のせいか、リチェルが苦笑いを浮かべている、ような……。

 リチェル、俺に引いていたりしないよな……?


「お兄ちゃん、リチェルは大丈夫。心配してくれてありがと」

「本当か? 心細くないか? 1人で寝れるか? 何かあったらすぐに言えよ? お前をいじめるやつには、鋼鉄の矢をぶち込んでやるからな……?」


「それは、やり過ぎかも……」


 また、心配に、なってきた……。


「それじゃお姉ちゃん、一緒に行こ! お兄ちゃん、またねーっ!」

「あ、ああ、リチェルッ!?」


 リチェルが女子寮の奥に行ってしまった。

 俺は妹に手を伸ばしたまま、立ち尽くしてしまった。


「グレイボーン、お前は自分の心配をした方がいいぞ。初日から浮きに浮きまくっている」

「2年前から浮いている、の間違いだろ。それに浮くのはイザヤで慣れているし、そんなのは今さらだ」


「はぁぁ……っ。イザヤは常識をお前に教えなかったみたいだな……。ほら、こっち来い、お前の部屋まで送ってやる」

「どうせ3人部屋なんだろ?」


「そうだ。イザヤ同じだ。ほらそこだ、仲良くやれよ?」

「案内ありがとう。だが妹が心配だ……」


「だから、先に自分の心配をしろ……っ」


 俺はクルト先生に誘導され、自分の寮室に入った。

 ああ、ジュリオとトマスが恋しい……。


 あいつらは真面目過ぎるところはあったものの、気持ちのいいルームメイトだった。

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