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・イザヤ学術院の静かなる日々 - 国営トラム公社の運転手デボア -

 31日間の夏期休暇を終えると、俺はまたあの魔導トラムに乗って都に戻った。

 そして都に着いたところで、すっかり忘れていた約束を思い出した。


 イザヤの学生書を手に入れたら、国営トラム公社の運転手デボアに学生書を突き付ける。

 ちょうど中央トラム駅から会社が近場だったので、それを実行に移した。


「あははははっ、聞いた聞いたーっ! そんなのもう知ってるわーっ!」

「わざわざ証明に来たのに、なんだと……?」


「間違えてマレニアに入学しそうになったんでしょーっ!? あははははっ、うけるぅーっ!」

「運転手さんまで知ってたのか……」


「だって前代未聞じゃない。間違えるにしてもー、普通は校門の前までじゃなーい?」

「まあ、その通りだが……。いちいち正論で人を殴るな……」


 俺はどうやら、この車輪の都ダイダロスのちょっとした有名人になっていたらしい。

 酒の肴になる愉快な話として、あちこちであの騒動が語り継がれてしまっているようだ。


「わざわざ来てくれてありがとう。噂を聞いたとき驚いちゃったー」

「そう、その反応だ。最初にその反応がほしかった」


「ふふふっ、勉強がんばってねー」

「ありがとう。……それで1つ、確かめたいことがあるのだが、いいだろうか?」


「あらなにー?」

「お姉さんの顔を見たい。顔を近付けてもいいか?」


「ああ、前にそういう話をしたわねー。どうぞ」

「あの時は信じてもらえなかった気がするぞ。では失礼」


 国営トラム公社の運転手デボアの顔を見た。

 彼女はおばさんではなく、20代後半くらいの黒髪が綺麗なお姉さんに見えた。


「失礼ついでに年齢を聞いてもいいか?」

「やだ、まだ口説いてるぅー?」


「最初から口説いていない」

「27よ」


「ああ、そんな感じだ」


 謎が1つ解けた。

 デボアさんはデボア姉さんだった。


 彼女は早めの夕食に誘ってくれて、俺は喜んでその誘いに乗った。


「うーん、もうちょっと歳がいってたらー、今度合コンに誘ってあげたんだけどー……」

「独身なのか? 彼氏は?」


「いるわけないでしょーっ!!」

「いきなり叫ぶな、恥ずかしい……。それに、美人なのに意外だ」


「忙しいのよっ、トラムの仕事は!」

「おかげで帰省も楽だ。こっちは助かってるよ」


「夏休み!? 帰省!? 学生はいいわよねぇーっ、学生はーっ!」

「俺にキレるなよ、職場に文句言えよ……」


 ダイダロスは面白い人がいっぱいだ。

 リチェルと別れるのは寂しかったが、いざこっちに戻ると、楽しいことがいっぱいだ。会いたい顔もたくさん頭に浮かんだ。


「もうこの際、イザヤの若い子でもいいから……彼氏紹介してよぉー……?」

「すまん、クソマジメな友人しかいないんだ」


「じゃあ君でいいからー、付き合ってー……」

「妥協に妥協して俺かよ」


 デボラさんみたいな女性が好きそうなやつに、声をかけてみると約束したら、割り勘だった夕飯代を奢りに変えてもらえた。

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