第十四話 デッドヘッズ【08:08】
施設に到着すると俺はケイカ、セイカのお弁当を届けるためケイカのオフィスへ出向いた。
俺のIDではケイカのオフィスに入れないため、ケイカの秘書という肩書のアキに同行してもらって入ることができている。
しかし……朝からアキがずっと俺にくっついている。
通勤の車の中でも腕に絡んできてたし、今も後ろに居て俺のシャツをつまんでいる。
とは言え、もうすぐ就業が開始する頃だ。ケイカがオフィスに居ないことから仮眠室で寝ているのだろう。アキに起こしてくるように言い、俺はオフィスでケイカとセイカの朝食の準備をする。
元気よくドアが開くとセイカが「おあよー!」とこちら側に走ってきて俺の腹に頭突きをしてくる。いつものルーティンだ。
きちんとリアクションをしないと喜んでくれないので、セイカの腹頭突きをくらい「うっ!?」というところまでが一連の挨拶となる。
ギリギリまで寝ていたケイカが起きてきて、家族そろって朝食を囲み(俺とアキは実家で食ってきたのでコーヒーのみ)セイカを(託児所と勝手に呼んでいるが)ロボットのAIセイカに預けている。預かってもらっている間はセイカは勉強しているそうだ。
AIセイカだのロボットセイカと説明するのもややこしいがそういうことだ。
職場の違うケイカ、アキと別れ、セイカを預けた後、今日はスクランブル以外の予定は無い。午前は施設内で訓練だ。
まずはトレーニングセンターに行きIDを使って入室する。
センターの入り口で週に一度の血液検査を受け、水の入った紙コップとたくさんのカプセルが入った容器を渡された。カプセルというのはサプリメントと聞いている。仲間内でも俺だけ半端じゃない量のサプリメントを一日数回飲んでいることから「カプセルアディクション」と呼ばれ、アディックというあだ名がついた。
俺に関しては「たいちょう」とか「アディック」とか「アディ」とか数通りの呼び方あるがどれもあんまりかっこいいものじゃない。
更衣室で着替えているところでロジャーと合流。手のひらに山盛りのサプリメントを飲んでいるところを見られて引いていた。
ここのトレーニングセンターは広大な土地に建てられたもので、広さはアメリカのスーパーマーケット、またはコス○コを思い出してもらえれば伝わると思うだろうか。
レスリング、柔術、打撃スパーリングができる直径8メートルの金網で囲われたリングが5か所、筋トレ用のマシンが各部位、有酸素運動のマシンと共ににずらずらと並んでおり、外周は走ったりもできるようになっている。
「よう、アディック。調子はどうだ?アキがいないじゃないか。どこにいるんだ?」
手を肩の位置くらいに上げてシェイクハンド、お互い体を引き込んで肩を合わせた。外人特有の挨拶だ。
こいつはジャンカルロ、通称Jだ。
ケツが軽い女好きだが俺とも気の合ういい奴だ。同じ部隊でマルヨンと呼称されている。
「アキはいつも通りケイカといるよ。俺の娘をあんまり変な目で見るんじゃないぞ。俺が手を出す前にまたアキに氷の彫刻にされちまうからな」
以前、Jは業務中のアキに忍び寄り、尻を触ろうとしてそのポーズのまま魔術で氷漬けにされた。アキは紙に「痴漢の瞬間」と書いて、氷漬けのJに貼り付けて去ってしまった。
その後部隊の連中で助け出したのだが時間がかかってしまい、もう少しで腕と足が凍傷になるところだった。しかも熱が出て一週間入院したことを思い出したのだけど、まだコイツ懲りてないのか……?
挨拶も済んだところで、デバイスをチェックして今日のタスクを読んでいく。
ちなみに俺の行動を管理しているのはAIセイカだ。何でも管理されている。
………………‥‥‥‥‥・・‥‥‥‥‥………………
☑サプリを飲む
□準備運動・ストレッチ
★サーキットトレーニング
□レッグカール⇒ジャンピングスクワット⇒デッドリフト
□ラットプルダウン⇒ローロー
□ショルダープレス⇒ケーブルアップライトローイング
□学習センターまで35kgバック装備でダッシュ(1.2km)
□セイカと歓談(15min)
□セイカとも歓談(20min)
★昼休憩
□セイカちゃんがマッサージ♡(60min)
□トレーニングセンターまで35kgバック装備でダッシュ(1.2km)
★以下スペシャルルーム
□キックボクシングスパー【3分10R】(ジャンカルロ)
□レスリングスパー【3分5R】(ロジャーボーン)
□ナイフトレーニング(ソーニャ・富子・しまこ・ライドルト)
□現代剣術、現代体術
………………‥‥‥‥‥・・‥‥‥‥‥………………
……途中からおかしなタスクになってるぞ。大丈夫か?
セイカと歓談って2項目あるけど、幼児セイカとAIセイカ、どっちが15分でどっちが20分なんだ?
あとマッサージ♡(60min)ってお店を意識していてゲスい考えこじらせちゃうからやめなさい。
まあ、行けばわかるか。就業中に娘に会いに行けるだけありがたい。
しかし、今日、俺のトレーニングは筋トレに関しては背面主体で結構楽だ。
部隊のメンバーとのスパーリングはそこそこハードなものとなっているが、いつものメニューと比べると、優しさを感じている。
今日の血液検査の結果からそうなったのかもしれない。昨日結構ハードだったし、セイカからは健康状態について24時間モニタリングされているはずだしね。
「んげ、なんだよこのタスクはよぉ~」
Jがタスクの多さに悲鳴を上げている。
「アディックと10ラウンドもキックボクシングスパーって死ぬぞ?全然こっちの攻撃当たらないから疲れるし、一方的に殴られるし!」
確かにJのメニューを確認すると確かに悪意を感じる程のメニュー量となっている……。今日の俺の3倍くらいハードなメニューだ。
おそらくアキに狼藉を働いて反感を買ったのはアキ本人だけではないと言ったところだろうか。
ロジャーとJ以外のメンバーが来たので部隊全員揃った。
うちの部隊は全員IONで5年以上、仮想空間で訓練を行ってきた者たちだ。
面構えは全員全然普通だ。今日はトレーニングなので。
各々受けたタスクに沿ってトレーニングを開始する。
この施設は俺たちだけの場所ではなく、他の兵士やセキュリティーも使用ができる。ただ特殊なトレーニングに関してはこの地下に俺たちだけが使えるスペースがある。
遠回しに言ったが、銃火器OK魔法OKの何でもありの部屋だ。
『おい、あいつらって』
『しっ!言うんじゃない見えない振りしてろ』
『俺、昨日聞いちゃったんだけどさ、あのジジイみたいな髪のやつ――』
『見ろよあれ、ジュニアハイスクールくらいの子供がいるぜ』
『あれがデッドヘッズなのか』
『俺たちより弱そうじゃねえか』
来た時からちらほら聞こえていた。恐らく俺達のことを言っているのだろうと思うけど、もうちょっと聞こえないように配慮してほしいものだ。一応同じ施設に居る仲間なのだから。
俺達の部隊は特殊部隊SAVと呼ばれているが、この施設内では「デッドヘッズ(死んだ人たち)」と呼ばれている。全員戸籍を一度失っているのでそういう意味では的を得ている。
まあ、もう一つの意味では「役立たず」なんてものもあって、ミッション成功率が芳しくない俺たちにとって、トンチと嫌味が効いているなと思うけど。
部隊全員特に気にする様子もなく、個々にトレーニングを開始している……一人を除いて。
「おい!聞こえていたぞ!子供って誰のことを言ったんだ!?」
子供……うん、年齢の割に幼く見えてしまっているので気にしているのだろう。うちのライドルト君がひそひそ話に反応してしまった。中性的な出で立ちだし、明るい金髪で小さいし目立っているのですぐわかった。呼称はマルナナ。ついでに言うと幼く見えて実年齢とギャップがあるのはしまこのほうが上だ。
しかも相手はムキムキの兵士さんだ。あんまり関わりたくないな~。
「ああ、ムキになんなよ。悪かったって」
ムキムキのクセにムキになるなって、あんたムキムキじゃんつって……ぷぷー!
まあ、兵士のほうは案外大人じゃないか。子供相手だしな、無理もない。
「ぼくはもう19なんだ!お酒だって飲める歳なんだぞ!」
「いや、ここ(日本)じゃ飲めないよ!?おいそこのジイさん、あんたこいつの保護者なんだろ?もう連れて行ってくれよ」
俺?ムキムキ兵士さんはこっちを見て言っていたので、自分を指さして確認してみた。
まあ、この見た目だからよく言われるし髪が白髪交じりだしね。そう見えちゃうよな。
「ライドルトく――」
「いででててて!!!」
その場をいさめようとして俺は手を伸ばしたところ、ムキムキ兵士の体が浮いた。
「よく見て!どこがジイさんよ!?」
ムキムキの顔が俺の目の前まで来た。アキがムキムキの後頭部をつかんで巨体を持ち上げている。
「げっ!魔女――」
「ほら!わかったらちゃんと謝って!」
「アキさんや、そのへんでおやめなさい」
ジイさんと言われたので、らしさを演出するためにも光圀公をオマージュ。
「ほらみろ!話し方がジイさんじゃねえか!」
あれっ?日本に居るのに水戸の超有名人をご存じない!?もうそんなに時代は進んでしまったの?
「でもなんだ、あんたの顔は見た目若いんだけど、何を経験したらそんな表情になるのか……ああいや悪かった」
「こちらこそ部下が突っかかってしまって申し訳なかったね。ここは共有施設なのだからお互い言動には気を付けよう」
「アキも」
「ごめんなさい」
「あ、ああ……俺も悪かった」
そう言って、ムキムキは居心地悪くその場を離れていった。
「うん、いい子いい子」
アキは謝った後、俺の腰に手を回してくっついてきたので頭をなでた。
今日はどうした。お父さんに甘えたいムーブだろうか。いやいつもそうか。
「ランドルト、見た目のことをからかわれて怒るなとは言わない。だけど俺たちは今何をしている?」
「トレーニングです」
「何のための?」
「敵を倒すためです」
「そこは違う。戦友と生き残って笑うためだ。そこを理解して集中してトレーニングをしてくれ。できるか?」
「はい」
「よし。じゃあトレーニングを再開しよう」
俺達は部隊であって軍隊ではない。だから個人に対して我慢しろとか耐えろとか理不尽なことを言う気はないが、精神年齢が幼い〔アキも含めて〕者もいるので目線を合わせた付き合い方が必要だと俺は思っている。
ぬるいとか言われるのだけど、そこの対して、上司(AIセイカ)に怒られるのは俺だけだからね。部下に迷惑はかけていない……はずだ。
出鼻をくじかれてしまったが、トレーニングを再開しようとした時――
『スクランブルです。SAV隊員は全員地下5Fブリーフィングルームに集合してください。繰り返します――』
個別のデバイスにスクランブルが流れた。軽く見回すとうちの部隊はこちらの指示を待つ形でこちらを向いている。昨日から連日でのスクランブル。今日の予定はすべて白紙となった。
「メッセージは聞いたな?SAV各員、3分で着替えを済ませてブリーフィングルームに集合」
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
部隊の中では俺が一番最初に部屋に到着したが、部屋を覗くとすでにケイカが待機していた。
「SAVマルイチ到着しました」
俺の上官にあたるケイカへ敬礼して入室した。娘とは言えそこは規律が大切だ。
「ご苦労様、先に言っておくけど連日の緊急出動になるので気を引き締めておいてください」
「了解……」
ビジネスライクな会話。ケイカと砕けた会話をしたのはいつくらい前だったのか……。
部隊の連中全員が揃い、最後にアキが入ってきたところでブリーフィングが始まった。今回もアキが参加するのか。
「みなさん、ご苦労様。これからミッションを説明します。今回は2チーム編成で作戦に当たってもらいます。これは事前から決まっていた北海道での監視対象U-6に関するものよ。本来ならみなさんの同行予定はなかったのだけど、本部からの指示で私以下SAVの数名同行で状況確認が必要となりました」
そういえば昨日ケイカから「明日は出張があるからお弁当は弁当箱じゃなく食べたら捨てられる物にして」と聞いていたのでおにぎりと水気の出ないおかずにしていたのを思い出した。実際U-6というのはまだ帰還していない対象のはずだ。現場に赴く必要があるが、危険があるから俺たち部隊を連れて行くという事か。
「ここからがもう一つのミッション、本日発生する帰還者のデータよ」
そう言ってケイカはSAVの隊員にデータ送付する、俺も確認した。
対象は四五口宗助【しごぐちそうすけ】消失時2071年4月25日 当時25歳 男
発生予想場所は武藤ビル8F現在は本組織が所有
発生予想時刻は10:55
あと2時間後だ。場所はここから車でちょうど2時間くらいかかる。これは空での移動になりそうだ。
気になる点は発生場所が会社のビルだという事だ。今まで自宅の寝室で発生してきていたので初めてのパターンだ。
あとは……消失時から3年で帰還するという事。これは前例からしても短い帰還となっている。こういう場合、大体ミッション失敗になる強敵が多い。こういう時にメンバーが分断されるのは少々痛い事だ。
「はい。軽く目を通してもらったところで説明を続けます。今回のチーム編成はこちらで決めさせてもらっているわ。送ったデータをスライドしてください」
【U-0085→K0022四五口宗助処理チーム】
◎オギツキアツシ兵曹長
ロジャー・ボーン一等兵曹
ジャンカルロ・ロランディ二等兵曹
【U-6 オギツキケイカ護衛チーム】
◎トミコ・シャンボン一等兵曹
ソーニャ・エレメイ・ヴォロビエフ二等兵曹
タルザキ シマコ二等兵曹
オギツキアキ
※ ◎は現場指揮官とする
「は?なにこれ。処理チームが3人って危険じゃない。あたしが処理チームにいる方が普通でしょ?」
アキがメンバー配置を見て、まくし立てる。
「オギツキアキ。まだ説明は終わっていない。意見は最後まで説明を聞いてからよ」
ケイカが厳しく答えて現場の空気が一層引き締まる。アキはイラつきの表情を隠さずに押し黙った。俺はアキに落ち着くようにと言う意味も含めて視線を送った。
「本来U-6の調査は私と数名の技術者で行う予定だったのだけど、オギツキセイカからの報告で情報漏洩が確認されている。現場はすでに警戒体制だけど、ここからの移動に関しても護衛が必要になったと言う訳です。K-0022四五口に関しては異世界滞在期間が短い事から3名での対応で十分との本部から回答を出している。今から上告して回答を待つ時間はないわ。つまりオギツキアキ、あなたの意見を聞いてあげられる時間がないという事よ。わかった?」
「…………おとーさんが死んでもいいって事なの?」
アキの声が低くなっている。かなり怒っているな。
「はーい!小官に30秒時間をくださーい!」
これはまずい。姉妹でケンカなんて良くない。俺もこのミッションについては言いたいことがあるけど、そんなことよりこの場を収めることが先決だ。
「なんですか?時間がないって言ってるでしょ?」
ケイカもちょっとキレてるな。余裕がなくなってる感じがする。
「ちょっとだけ!お願い!」
手を合わせてお願いした。面倒なので許可を貰う前にアキを連れて部屋から出た。
「なによ!ケイカ姉さん!死にに行けって言ってるのと一緒だよ!ひどいよあんなの!北海道なんて一人で行って海鮮丼とか食って太ればいいんだよ!」
「アキ北海道は海鮮丼だけじゃないんだぞ……いやそんな事は今はどうでもいい。俺はこのメンバー分けで良いと思っている。ケイカにアキがついているから俺は安心して仕事ができるよ」
「おとーさんは良くてもとっても危険なのは変わりないよ」
「そうかもしれない。でもケイカが危険だとわかっているところに一人で行かれて俺が心配しないわけがないだろう?そうなったら俺のパフォーマンスが落ちるし、そもそも俺が帰還者に負けると限ったわけじゃない。だからそんなに怒らないで俺の言う事を聞いて――」
「じゃあ言う事聞いたらデートしてくれる?」
いつも一緒にいるじゃないか。と野暮なセリフが出かかったが今はそうじゃない。親子デート位、時間があるときはいつでもしてやれるのに、俺が目覚めてからアキはあまり我が儘言わなかった。
おそらく俺に気を使ってくれていたのだろう。
いや多分気を遣わなかったのは俺の方だ。
「ああ、わかったアキが行きたいところに行こう。だからケイカ姉ちゃんを守ってくれよ?」
――俺は死亡フラグを立てることでアキを宥めることができた。
「お待たせしました。オギツキ所長説明は以上でしょうか?細かい話はHQから説明ありますよね?」
アキを連れて部屋に戻った。全員こっちを向いているけど白い目で見られている。お前ら露骨だな。
「はい。時間がないので各々状況を開始してください!」
ケイカの掛け声で全員で返事をしてロジャー、Jと現場へ向かった。
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