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エピローグ:暗躍する者たち

 シャルルに背負われ、従魔舎を出て行くブランシュを物陰から見つめる者がいた。


「敵ではないかと勘繰っておりましたが、あんなにも躊躇なく悪魔を倒してしまうのなら彼女は安全(セーフティー)と見ていいでしょう。それにしても、かかわるなと念を押したというのにいけない子ですね」


 整えられた口ひげを触りながら意味深に呟くのは、精霊魔術師(エレメンタリスト)科の教師ジェフ・コルベール。その口元は楽しそうに笑みを描いていた。


「またまたー、そう言っておけばむしろ逆に自分から突っ込んでいくと思ってああいうことを言ったでしょうに」


 ジェフの隣に佇む人物が、茶化すように言った。


「まあでも敵でないというなら、監視から外しますか?」

「監視はそのままに。あれほどの力を持つもの放置しておくわけにはいきませんからね」

「あわよくば仲間に引き入れたいと?」


 聞かれた言葉にジェフは答えず、微笑みを浮かべるだけだ。


「それにしても、悪魔アンドラスをあんなにも簡単に倒してしまうなんてあの女何者なんですかね先生」

「さあ、それについても調べる必要がありますね。さあさ、これから忙しくなりますよ」


 二人は再び対外用の(かお)(まと)い校舎へと消えていった。



 ▲



 冒険者の集うとある酒場に一組の男女がいた。服装や装備から彼らは一見して冒険者に見える。しかしそれは偽りの姿であり、実際には冒険者ではない。この場に居て違和感なく紛れるためのただの変装に過ぎない。


「裏町の売人、捕まったんだって?」


 女が酒の入ったグラスを傾けながら、正面に座る男に問いかける。

 人に聞かせられるような話ではないが、声を押さえることも、周りを警戒する様子もない。

 仕事あがりの冒険者たちでごった返す店内は、この時間帯になると出来上がった冒険者しかいない。

 あっちで酔っ払い同士の騒動が起こり、こっちでは程よく酔って陽気に馬鹿笑いしている集団。向こうの方では店の看板娘にちょっかいをかけて素気無く断られては仲間たちに揶揄われる若者。どこもかしこも騒がしいことこの上ない。

 こんな場所では声など潜めずとも、会話の内容など誰にも聞こえないだろう。むしろこんな場所でこそこそとしている方が、店員に怪しい客がいると思われてしまうかもしれない。騒々しくやかましい場所では、下手に隠さないのが一番なのだ。


「あの薬は失敗作に過ぎない。あいつらもただの末端だ、話されて困るような情報は知らないさ」

「でもさ、失敗作でもあのお方の残された書物に書かれていたレシピだろう? 大丈夫なのかい」

「凡人共があれを見たところで大したことは出来はしまいよ」


 甘く見ている男に一言いうべきかと一度口を開いたが、言ったことで意味などないと思いなおし女は酒のあてであるナッツをかじった。


「それよりも聞いたか?」

「何を?」

「悪魔の出没が各地で目撃されているらしい」


 さも楽しそうに男は喉の奥で笑うと、目の前に置かれたグラスに口を付ける。グラスの中に入っていたのはまっ赤なワイン、ではない。真っ赤な葡萄ジュースだ。


「世の中が混沌と化していっている証拠ね。あのお方が復活するのもそう遠くないわ」


 女は待ち受ける未来を想像してか、酷く意地の悪い笑みを浮かべて笑った。


「だがその全てが、一人の魔術師によって屠られている」

「なんですって?」


 一転して険しい表情に変わった女が男に詰め寄った。


「そいつの名前はわかっているの?」

「ああ、ブランシュ・オトテールだ」

「オトテール……。またあいつらはあのお方の邪魔をするというの」


 忌々し気に顔を歪ませた女は、苛立ち紛れにナッツを一気に口の中へと放り込んだ。ぼりぼりと咀嚼音が聞こえる。


「安心しろ、すでに手は打ってある」


 男は恍惚な笑みを浮かべながらグラスへと口を付けた。

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