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20、コルベール先生と精霊

「さて、大通りに戻りましょうか」


 この辺りは危ないので送りますよ、と言われて私はコルベール先生と共に来た道を戻ることになった。

 ゴロツキの男たちはそのまま放置してある。ジェフ先生が言うにはあとで憲兵に連絡しておくのでいいとのことだ。

 それにしても明日シャルルたちには何というべきだろうか。勝手に調査をやめるとジェフ先生と約束したと言ったら怒られるだろうか。かといって黙っておくわけにもいかないだろう。


「~~……♪」

「っ!」


 またあの歌声のような笑い声のような声が聞こえた。驚き顔を上げると、コルベール先生に寄り添う人影が一瞬見えた。先程も見た、人形のような中性的な人。


「どうしましたか?」


 あまりにじっと見つめすぎたせいか、コルベール先生が不思議そうに問いかけてきた。


「あ、あの……、その人は、もしかして精霊ですか?」

「え?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような表情。これはやってしまったのではないだろうか。もしかしてコルベール先生は見えていないのでは? 私だけが見える謎の幻覚だったりするのでは? このままでは私は頭のおかしい生徒だと思われてしまう。


「あ、えっと、ち、違います。き、気のせいです!」


 わたわたと慌てて否定する。そんな私の様子に、コルベール先生は思わずといった感じで笑みを浮かべた。


「ふふ、すみません。別にバカにしたわけではないのですよ。ただ少し驚いてしまっただけで……」


 ブリジットとコルベール先生が名前を呼ぶと、中性的な人が再びその姿を現した。


「ブリジットは私が契約している氷の上級精霊です。貴女も精霊が見えるようになったのですね」


 感慨深そうに言われるが、私は横に首を振る。


「見えたり見えなかったりです。コルベール先生、どうすれば精霊がちゃんと見えるようになりますか? 私の側にもいるんですよね? 自分の目でその精霊を見てみたいです」


 今も私の側にいて、見守ってくれているのだろう。お礼も言えないどころか、その姿さえ見れないなんて少し寂しい。

 コルベール先生は少し考えた後、私の頭を優しく撫でた。


「あなた次第、としか言えません。しかし時々であれ、ブリジットの姿が見えるのであればそう遠くない未来、きっと君は見えるようになるでしょう。慌てることはありませんよ、君には適正はあります。ゆっくり待つのです。そうすればある日突然見えだしたりするのですから」


 コルベール先生の優しい言葉はすとんと心に入って来た。そしてきっと大丈夫なのだと得心した。いつか私も、コルベール先生のように精霊と共に語り合ったりできるようになるのだろうか。

 暫くすると、私たちは大通りへと戻ってきた。裏通りとは違い賑やかな喧騒が帰ってくる。


「さて、私には他に用事がありますのでここでお別れです。ああ、丁度お迎えも来たみたいなので大丈夫ですね」

「お迎え?」


 いったい何のことだと思いながら、コルベール先生の指す方へと振り向くとそこにはこちらに向かって走って来るコレットの姿があった。


「お嬢様! やっと見つけました!」


 その形相は明らかに怒っていた。しまった。待っていてと言われたにもかかわらずその場を離れてしまったのだった。すごく怒られることを覚悟して、コレットの元へと向かう。


「ブランシュお嬢様! 大丈夫でしたか? 何もありませんでしたか?」


 素早く駆け寄り怪我などないかを確認するコレットは、矢継ぎ早に安否を問いかける。


「大丈夫だよ、コルベール先生と一緒だったから」

「学院の先生と一緒でしたか。お礼を言いませんと。それでその先生はどちらに?」

「どこって、そこに……」


 いるよ、と言おうとして今までいた場所を振り返るが、そこには先ほどまでいたはずの彼の姿はない。周りを見回してみるが、それらしき姿も見つけられない。

 他の用事とやらによっぽど急いでいったのかもしれない。時間がないのにわざわざ送ってもらって申し訳ないことをしてしまった。

 そう言えば、コルベール先生はなぜコレットの顔を知っていたのだろうか。


「ブランシュお嬢様。そろそろ日も落ちますから早く帰りましょう」


 コレットの声で思考が中断された。まあ、たいしたことではないからいいや。


「帰ったらたっぷりとお説教ですからね!」

「……はい」


 目を吊り上げるコレットに、私は大人しく(こうべ)を垂れるしかなかった。

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