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16、赤髪の男子生徒と長身の男子生徒

 ようやく放課後となったので、ピオレットと共に従魔暴走事件に関しての聞き込みに向かうこととなった。まずは身近な所からだ。

 事件が起こった際にあの場にいた人たちが何人かAクラスにいるのでそこから聞いてみることにした。まずは入学試験の時に私の近くにいた二人組だ。名前は何と言っただろうか……。


「あー、入学試験の時のベヒモス暴走か。あれは従魔師(テイマー)のせいじゃないかと思っているんだけど」


 長身の男子生徒が軽くそう言いながら、手持ち無沙汰に前髪を弄る。


「マルチダさんの?」

「あのベヒモスの飼い主、マルチダって名前なの? ってことは女子か。その人どんな人? 魔力強い?」


 隣で聞いていた赤髪の男子生徒が興味深げに身を乗り出し矢継ぎ早に質問してきた。彼の口からは、ゴリっという飴玉をかみ砕く音が聞こえた瞬間、甘い香りが漂う。


「どんな人って言われても一度しか会ったことないし……。んー、シャルルのお姉さんでちょっと気が強い人、かな? 魔力はちょっとわからない」


 実際は義姉だし、本当は気が強いというか高飛車と言った方が正しいような気もするけれど、シャルルもいないところでクラスメイトにあれこれ言ってしまうのは良くないだろうとここはぼかしていう。

 魔力に関しては本当によくわからない。師匠が初対面で私の魔力が多いとかなんとか言っていたけど、一目見ただけで相手の魔力がわかるのが魔術師として普通なのだろうか。私はそういったのは一切感じたことなどない。


「なるほどなるほど、プライド激高で高慢ちきであんたより魔力は少ないと……」


 一人頷きながら納得している。というかちょっと気が強いがかなりグレードアップしていた。あながち間違ってはいないけど。


「わからないしかいってないのに、なんでブランシュよりマルチダって人の方魔力低いってわかるのよ?」


 今まで隣で黙って聞いていたピオレットだったが、赤髪の彼の様子にじれったくなったのか焦れた様子で口を開いた。


「え、だって魔力多い人って会っただけでなんかわかるくない? 肌がザワっとするっていうか、背筋がぞわぞわするっていうかさ―」


 パキっと口の中で飴玉が弾けた音がした。続いてゴリゴリと飴玉をかみ砕く音が聞こえる。

 意見を求められても全く私には判らない。困り顔で首を傾げると、彼も同じように首を傾けた。おそらく感覚的なものなのだろう。師匠も感覚で生きているような人なので、きっと誰でもできる芸当ではないのかもしれない。


「こいつの特技なんだよ。見ただけで相手の魔力の量が大体でわかるらしい。たまーにいるんだよ、そう言う特異体質」


 長身の男子生徒が補足する。


「ん~、まいっか。どっちにしろ魔力多すぎなオトテールより多い人はそうそういないかー」


 ぼそぼそと呟くと、口の中の飴玉がなくなったのか再びポケットから飴玉を取り出し口へと投げ入れた。朱色の飴玉が大きな口へと吸い込まれていく。


「っで、ベヒモスの暴走がなんで従魔師のせいなわけよ」


 それた話を戻すために、ピオレットが聞いた。


「だって、マルチダって人弱いんでしょ?」


 さも当然のように答える赤髪の男子生徒。彼は三つ目の飴玉を口に投げ入れた。茶色の飴玉だ。まだ口内には二個目が入ったままだったのだろう、微かにコツンという固いものに当たった音がした。

 訳が分からず首を傾げる私たちに、長身の男子生徒があのさ、と続いた。


従魔師(テイマー)ってさ、どうやって魔物を従魔にするか知っているかい?」


 私とピオレットは揃って首を横に振る。


「まず、基本は実力でねじ伏せるって感じだな。魔力なり、腕力なりで弱らせて契約の魔術で縛れば従魔の完成だ」

「ふーん、思っていた以上に結構乱暴なのね」

「まあね、魔物は自分より弱い者には従わないから」


 要は強さを見せつけて、どちらが格上かをわからせるってことだろう。いかにもお嬢様といった感じだったマルチダさんにはあまり似つかわしくないような気もする。


「まあ、弱い魔物だと餌与えて懐かせて従魔にするって手もあるよ。ほんとに弱いスライムとかにしか使えない手だけどね」

「っで、今の話がベヒモス暴走とどう関わりがあるの?」

「ベヒモスって普段は温厚で大人しい魔物だけどさ、魔物としては結構強い部類に入るんだよ。かなりの実力を備えていないと従魔に出来ないわけ。しかも契約の魔術は魔物の強さに応じて消費魔力が変わってくるんだけど、ベヒモスはかなーり魔力消費するね。教師ほどにあったら楽勝かもしれないけど、一般学生程度の魔力じゃ正規の方法じゃ無理だろ」

「正規の方法ではないやり方で契約したって言いたいの?」


 長身の男子生徒は、渋い表情になると少し言い淀んだ。


「そー。あれはおそらく、ズルして従魔にしたんじゃないかなって俺は思ってるわけ」

「ずるって? どんなの?」

「なんか今巷ではやっているみたいなんだよ。魔物を無理矢理従魔にする薬。っていっても噂に過ぎないけどな」

「なにそれ、詳しく聞かせなさいよ!」

「いや、詳しくっていっても俺もそんなに詳しくは知らないってか……。最初は冒険者の間では流行り出したとかで、なんか実力以上の魔物を強制的に従魔にする薬らしいんだけど、実力無視で無理矢理従魔にするからけっこう暴走とかあるらしくてさ。死亡事故も起こったらしい」


 長身の男子生徒は自業自得だよねと言って笑った。


「裏町で売人が売り歩いているって噂だけど、ほんとかどうかはさっぱりだ」


 おそらくその薬をマルチダさんも使っていると彼は言いたいのだろう。本当に使っているのだろうか。私には判らない。


「他には? 何かない?」

「他にって、欲しがるねぇ。そうはいっても特に何も……あ、そう言えば」


 何もないと言いかけた長身の男子生徒は、何か思い出したのか軽くっパンと手を打った。しかし彼は言いにくいことなのか、歯切れが悪そうにもごもごと言い淀む。


「……言っても信じてもらえるかわからないけど……、ベヒモスが暴走していた時にさ、変なもの見てしまったんだ」


 視線で促すと、彼は重々しくも口を開いた。


「ベヒモスに張り付くような気味の黒煙が見えた……」

「なにそれ? ブランシュたちも見たの?」


 私はそんなもの見ていない。赤髪のクラスメイトも知らないようで、首を横に振っていた。


「誰も見てないっていうんだよ。なんか自分だけ見えたみたでさ……。気味悪い」


 彼は怯えるように、顔を歪めた。

 黒煙という言葉に、私は二年前のことを思い出した。お母さまがおかしくなった時に絵から現れた黒煙。お母さま曰く、私が浄化したと言っていたけれど私にはそんな記憶はない。しかしあの日以降、あの黒煙は見ていない。

 結局あの黒煙が何なのかわからなかったけれど、間違いなくいいものではないだろう。ベヒモスが暴れたのも同じ黒煙が原因なのだろうか。彼の証言だけでは今のところ何もわからない。


「じゃ、俺らもう行くから」

「エイデンたちありがとう。ひきとめてごめんねー」


  ピオレットが手を振って彼らを見送る。ああ、そう言えば赤髪の彼の名前はエイデンだったと今更に思い出した。

 去っていく二人から甘い匂いがした。飴玉の匂いだろうか。

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