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14、魔力測定(side:サラ)

 私サラ・タイヨンは今年で、魔術学院ソルシエールの基礎魔法学の教師となって二年目になる。去年は担当のクラスはなかったのでとても楽だった。しかし今年からは担当クラスを持つことになり、正直気が重い。

 Bクラス以下ならもう少し気が楽だったのだろうが、なぜかよりにもよってAクラスの担任だ。初めてのクラス担任でAクラスなんてかなり無謀すぎる。

 なんで新米とたいして変わらない私なのかとも思うけれど、上部の決定に文句を言える立場ではない。一度決まってしまったことは仕方がない。


 この国の魔術学校で一番のレベルの高さを誇る魔術学院ソルシエール。一年生はA~Eクラスの五クラスある。その中でAクラスは特に別格だ。入学前から既にその辺の魔術師なんかよりも魔術に精通している子たちばかりが集められたクラス。

 初日から貴族至上主義の強い貴族の平民叩きが起きていたが、それはまだいい。毎年どこのクラスのあることなのでそれ相応のマニュアルも存在するくらいだ。

 それに今年のAクラスには貴族至上主義のお貴族様はあまり数も勢いもそれほど強くないようで、初日以来大人しい。先輩先生の話では、過去には貴族至上主義派のお貴族様たちがクラスの覇権を取り、平民の生徒たちをAクラスから追い出したなんて事例もあったとの話だ。

 私自身は貧乏貴族の三女というギリギリ貴族という立場 (私自身はあまり貴族という自覚はない)なので、そんなクラスの担任になってしまったらどう考えてもやっていける自信がない。今のAクラスが比較的まともな方でよかったと本当に思う。

 基礎魔法学とは名前の通り魔法の基礎を教える授業だ。そんなもの入学前から身に着けているであろう魔法エリートのAクラスの生徒たちにはいらないのではないだろうかと思ってしまう。だが天才とはある分野に特出している者も多く、案外魔法の基礎知識を知らない生徒なんかもいたりするので全くの不必要とは言えない。

 貴族の子女で幼い頃から家庭教師を雇ってもらい、魔法を習っていた子どもたちには基礎魔法学なんて今更な知識だろうが、Aクラスには並外れたセンスだけで魔法を使いこなすような天才も何人もいる。そういう子たちは自身の使える魔法以外は全くの無知だったりもするものだ。


 今年の新入生で言えば、その筆頭がブランシュ・オトテールだ。誰でも知っているような常識を知らないかと思えば、暴走したベヒモスを倒すことが出来るほどの実力者だ。

 たとえフォーコンプレ先生がある程度ダメージを負わせた後だとしても、防御力の高いベヒモスを無力化させることが出来たのは彼女の力に他ならない。

 私はこの目で見てはいないが、当事者であるフォーコンプレ先生がおっしゃっていたのだ、間違いないだろう。

 一部では聖女ブランディーヌの生まれ変わりなんて噂も出てきている。普段であれば入学したばかりの新入生がありえないと、一笑に付すところだけど、今回ばかりはそうもいかない。

 なんと彼女はかの有名な天才宮廷魔術師ダヴィド・バロワンの弟子だというではないか (情報源であるフォーコンプレ先生は忌々しそうに眉間の皺を深めていた。なにかあったのだろうか)。彼の弟子とくれば興味がわかないわけがない。


 ダヴィド・バロワン。飛翔する弾丸(エクラバール)の二つ名で知られる。最年少で宮廷魔術師となった天才。

 自身への付与魔法は不可能だと言われていたが、たやすく偉業を成し遂げた驚異の付与魔術師(エンチャンター)

 彼の名前を知らない付与魔術師はいないとも言われている。私も付与魔術の端くれである以上、当然彼の伝説は嫌というほど聞いた。キングゴブリン率いる三百匹以上のゴブリンが住まう集落を殲滅(せんめつ)させたとか、最恐最悪と言われていた盗賊団を瞬く間に壊滅させたとか、最強の魔物と名高いドラゴンを打倒したなどなど。多少の誇張もあるのかもしれないが、凄い人であることには違いないだろう。

 しかし私個人として彼の強さや偉業よりも、もっと重要なことがある。それは顔だ。

 ダヴィド・バロワンは魔術師としての実力を持って名を馳せているのは事実だが、それと同じくらいに彼の美貌もまた語られるほどに秀でていた。貴族の奥方や令嬢にはファンも多いという。かく言う私もその一人だ。

 以前聖女誕生祭のパレードで一度だけ彼を見たことがある。とはいってもかなり遠くから望遠の魔導具を使って見ただけなのだけど。

 その最見た彼の横顔はとても美しく整っており、奥方や令嬢が熱を上げるのも頷けるほどの美形だった。

 あっという間に私もダヴィド・バロワンもとい、ダヴィド様のファンになってしまっていた。ミーハーだと笑われるかもしれないのであまりおおやけには言っていないけれど。

 結局顔か? と思われるかもしれないが、これは仕方がない。人間誰だって美しいものが好きに決まっている。とはいっても別に結婚したいとか付き合いたいとか思っているわけではない。ただの目の保養だ。


 で、だ。私の推しの弟子が私の受け持つクラスの生徒になったわけである。教師として贔屓はしない。贔屓はしないけれど、仲良くなれないだろうかなんて思っていたりする。そしてあわよくば、師匠であるダヴィド様を紹介してくれないだろうかなんて考えていたりもする。

 いや別にワンチャン狙えるかも! なんてことは考えていない。ただ、担任として……。そう、担任としてオトテールさんの師匠ともお話ししたいなーと、思っているだけである。決してやましいことは何一つないのである。



 ▲



「皆さん、今日は皆さんの魔力の量と属性を測っていきます」


 Aクラスでの二回目の基礎魔法学の授業は魔力測定だ。今後の授業にもかかわる大事なことである。


「全ての人間の体内には魔力が流れています。その魔力をそれぞれ得意な属性に変改して体内に放出することで、魔法を使うことが出来ます。皆さん、属性についてですが基本の属性は何種類、どういった種類があるか知っていますか?」


 これは魔法をかじっているものなら誰でも答えられる簡単な質問だ。私は視線の合った一番前の席の眼鏡の男子生徒を指名した。


「基本の属性は火、水、風、土、光、闇の六種類です!」


 彼は考えることもなく、すらすらと質問に答えた。


「はい、正解です。光魔法を極めると聖魔法になったり、水魔法を極めると氷魔法を扱えるようになったりと派生魔法もありますが、基本の属性は今彼がいった六種類です」


 その他にも植物魔法や音魔法などあるが、元となる基本の属性を使えないと覚えることすら出来ないし、派生魔法はどれも高度な魔法なのでつかえる人はごく少数だ。ちなみに私は派生魔法は一切使えない。


「人によっては使える属性と使えない属性があります。平均的な魔術師は二つ~三つ、滅多にいませんが多い人では全属性使いこなせる人がいます。成長するにつれて属性が増える人もいるので今の段階で一属性しか素養がなくても落ち込まなくても大丈夫ですよ。ちなみに先生は火、風、光の三属性持ちです。属性が決まるのは、血筋や出身地が関係あると言われていますが正確な所はよくわかっていません」


 説明を一旦終えると、持参した鞄をゴソゴソとあさり目的のものを取り出す。それは両手に収まる大きさの水晶玉。この水晶玉が魔力測定器だ。

 魔力測定器は珍しいものではないが、属性と魔力量を両方計れるタイプはあまり多くはない。私が通っていた魔術学校では一体型はなかった。流石は魔術学院ソルシエールといったところだろう。


「この魔導具で今から属性と魔力量を測っていきます。皆さん既に魔法を使えるので、どの属性が大体使えるか大体はわかっているかもしれませんが、今後の授業の参考にさせていただきますので全員計ってください。案外使えないと思っていた属性も適正があったりしますので、計った方がお得ですよ」


 そう言いながら私は水晶玉に手を置くと、軽く魔力を流す。すると水晶玉が赤、緑、黄色と輝きだした。


「水晶玉に手を翳し、魔力をそそぐとその人の持つ属性の色が光ります。火が赤。水が青。風が緑。土が茶色。光が黄色。闇が紫です。光の強さが強いほど魔力の量が多いです。名前を呼ばれた人から前に出てきてくださいね」


 窓際の席の生徒から順に名前を呼んでいく。待っている人は期待に胸を膨らませて、終えたものは、結果に喜んだりガッカリしたりしてお喋りに花を咲かせている。他の教室に迷惑にならない程度の音量なら注意する必要はないだろう。

 生徒たちの魔力測定の結果をノートに書きとめていると、ふととある生徒の会話が耳に入って来た。


「ねーねー、ブランシュは属性何が使えるの?」


 一番前の席に座るオビーヌさんが、隣の席のオトテールさんに話しかけていた。


「えっと、火と水とあと土は使えるよ」

「私は、火と土よ。お互い一般的ね」


 オトテールさんは三属性。オビーヌさんは二属性。オビーヌさんはともかく、オトテールさんは思っていたよりも普通だ。少なくとも一般属性は全部使えるぐらいは思っていた。

 火、水、土、風の属性は使える人が多く一般的な属性とされている。光は一般属性に少しだけ珍しいが貴重というほどでもない。闇はとても珍しく適性持ちだったともしても使えないことも多い。

 オビーヌさんの言う通り自認では属性も扱える数も二人とも一般的だ。

 とはいえ、実際に計ってみないことにはわからない。扱える属性が自認よりもかなり多かったなんてことは毎年よくあるのだ。

 それにオトテールさんは絶対に何かしらやってくれると思っている。なんてったって、ダヴィド様の弟子なのだもの。むしろここで何かやってくれないとかえって興ざめである。


「マリーロール様頑張ってくださいませ!」

「マリーロール様ならきっと素晴らしい結果を出してくれるに決まってますわ!」

「おーほほほ。当然ですわ、わたくしはその辺の平民や成金貴族や田舎貴族とは違いますもの!」


 次に測定するのは、ブルシャルドンさん。彼女は毎年いる貴族至上主義の筆頭だ。入学初日に早速問題を起こしていた。

 まあ、こういったタイプは勢いがあるのは最初だけだ。

 上級貴族の子女として魔法の勉強は必須。学校に入学するまでに家庭教師を雇って、ある程度の魔法を使えるように育て上げる。もちろんAクラスに入れるくらいなので全く才能がないとは言わないけれど、本物の天才とは格が違う。

 後々、本物の天才に追い抜かれては世の中の厳しさを実感するものだ。最終的には大人しくなるか、プライドを捨てられずに他校に編入するかのどちらかだ。

 今年のAクラスは天才、奇才、鬼才揃っているのですぐに大人しくなるだろう。私たち教師があれこれ言う必要もない。

 ブルシャルドンさんが水晶玉に魔力を流すと、赤、青、緑、黄色と順番に輝いた。


「マリーロール様、四属性もおもちなんて凄いですわ!」

「しかも珍しい光属性もおもちなんて!」


 歓声を上げたのは彼女の取り巻きたちだ。

 確かに入学時既に四属性はすごい方だろう。得意げになるもの仕方ない。しかし光の強さから見て魔力量はどれも平均前後だ。


「たいしたことじゃありせんわ」


 高らかに笑いながらブルシャルドンさんは取り巻きを引き連れて自分の席へと帰っていった。


「なーにあれ、たかが四属性で偉そうにしちゃって。使えなきゃ意味ないってのに……」


 不満げに呟くのはオビーヌさんだ。


「次、オビーヌさん」

「は、はい」


 彼女は名前が呼ばれた瞬間、先ほどの呟きを私に聞かれたのかと一瞬顔を曇らせたが、次が自分の番なのだと気が付くと平静を装って席を立った。

 聞こえていたのは正解だけれど、その程度の嫌みを叱る気は私にはない。まあ流石に授業中に面と向かって喧嘩を売るようなことをしたら私も止めるしかないのだけど。

 オビーヌさんは水晶玉に手を置き、魔力を流した。暫くすると、水晶が光り出した。赤、青、茶色、緑と光っていく。赤が一番光が弱くて、緑が一番光が強い。


「オビーヌさんは火、水、土、風の属性を持っているのね」


 自己申告では火と土だけだったけれど、どうやら風と水の適性もあるらしい。


「ふん、どれも一般的な属性ばかりですわ」


 偉そうなことを言っておきながらも、結局同じ四属性だったのがプライドの高いブルシャルドンさんは悔しいのかもしれない。


「次、オトテールさん」

「はい」


 彼女が教壇へと向かうと、クラスメイト達の視線が前に集中する。先ほどまでおしゃべりに興じていた人たちも一旦黙り、こちらに視線を向けていた。

 生徒たちが誰しも注目するのはわかる。私もオトテールさんならなにかとんでもないことをやってくれるのではないかと思っている。

 緊張した面持ちで水晶玉に手を置くオトテールさん。


「大丈夫ですよ、ゆっくりでいいですから」


 軽く深呼吸をして、ゆっくりと魔力を流し込むと水晶が光り出した。

 赤、青、緑、茶色と順番に光っていく。どれも色が光が強い。これはかなり魔力量が多いようだ。

 入学試験の際に、かなり魔法を連発していたと聞いていたので魔力量は多いだろうと元から思っていたのでこれは想像の範囲内だ。

 これで四属性。そろそろ終わりだろうかと思ったが、水晶は光るのをやめることなくそのまま黄色に光った。まさか全属性光るのではと思った瞬間、水晶がビシリと音をたててひびが入った。え、なにこれ?

 驚いたのは私だけではなくオトテールさんも同様のようで、慌てた様子で水晶玉から手を放そうとした。しかし既に遅かったようで、大きな破裂音を上げて水晶は木っ端みじんに砕け散ってしまった。

 一気に騒がしくなる教室。


「ご、ごめんなさい!」


 オトテールさんは訳もわけもわからないといった様子で混乱しながらも私に向かって必死に頭を下げて謝罪の言葉を述べる。おそらく壊してしまったと思ったのだろう。

 確かに彼女が魔力を流したことで魔力測定器は壊れてしまったのだけど、別に責任を取れとか、弁償しろなんて言う気はない。オトテールさんは私の言ったとおりに水晶玉に魔力を流しただけなのだから。


「ああ、多分経年劣化ね。古いものだったから気にしなくて大丈夫よ。それともオトテールさんこそ大丈夫? あら、怪我しているじゃない! 保健室行っておこうか。誰かついて行ってあげてー」


 だから私は彼女が気に病まないように、なんてこともないように努めて明るくそう言った。

 騒然となったA組だったが、ただの経年劣化だとわかるとすぐにいつもの落ち着きを取り戻した。

 オトテールさんは付き添いのミュレーズ君と共に保健室へ向かった。

 まだ計測が終わっていなかった生徒たちは後日改めて計測することになった。アクシデントはあったものの二回目の基礎魔法学の授業は終わった。

 あくまで表向きはだけど。

 うん、経年劣化なんてのは嘘。実際のところは、オトテールさんの魔力が魔力測定器の限界値を越えてしまって、耐え切れずに壊れたのだろう。

 もちろん滅多なことでは起こりえない。現にオトテールさんの前には既に二十人以上の生徒たちが測定を終えていたけれど、誰もヒビすら入れていない。国内一の魔術学園の魔導具なのだ。そう簡単に壊れるような脆いものは置いていない。

 測定時に今までの誰よりも強く、どの属性も全て同じくらいに光っていた。総魔力量はとんでもない量に違いない。間違いなく規格外の魔力量だ。

 規格外なのはそれだけではない。属性についてもそうだ。壊れる寸前に一瞬だけ紫色の光が輝いた。それまでの属性も全て輝いていた。ということは、彼女は全属性の適性があるということだ。

 本来であれば、全属性などそうそうにあり得るものではない。熟練の魔術師でも希少だ。だというに学院に入学したばかりの生徒が全属性など信じられるものではない。


 オトテール家の人間と聞いたときもしかしたらと思ったけれど、彼女はやっぱり清福なる(ジョワイユ)なのだろう。

 私は精霊術師(エレメンタリスト)ではないので、精霊は見えないけれど彼女の側には精霊がいる可能性が高い。

 契約しておらずとも、清福なるものであれば精霊の加護を受けていることもある。精霊の加護とは精霊が気にった人間を庇護することだ。また加護の恩恵で属性や魔力量が増えると言われている。

 きっととてもすごい精霊の加護を受けているのだろう。上級精霊に違いない。どの属性も魔力量が多いことを考えると、もしかしたら複数いるのかもしれない。

 さすがダヴィド様の弟子だ。ただものではない。

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