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13、グラウンド調査

 と、いうことで翌日は朝早くに私は寮を出て学院のグラウンドを訪れていた。事件の起こった場所をもう一度しっかりとこの目で調査しようと思ったのだ。まあ、ここ以外に当てが思いつかなかったというのもある。

 例のベヒモス、ベリーちゃんに会ってみるというのも考えたのだけど、獣舎は従魔師(テイマー)科以外の人間は従魔科の人間が同伴か、教師の許可がないと入れない。昨日あの後、シャルルと行ってみたけど門前払いされてしまったのだ。

 なにより今ベリーちゃんは危険獣指定されており、従魔師科の教師以外は立ち入ることのできない封印の施された檻に厳重に入れられているそうなので入ったところで会えないのだけど。


 グラウンドで調査を始めてから既に三十分ほど経ったけど、めぼしいものは特に見つからない。まあそんなに簡単に見つかるとも思っていなかったけれど。

 それにしても誰もいないグラウンドというのはなんだか物珍しい。入学試験の時も人がたくさんいたし、入学してからも誰かしらいるところしか見ていない。

 予鈴が鳴るのは八時三十分。現在の時刻は七時三十分を少し過ぎたところだ。早くに登校してきた教師たちを何人か見たが、生徒の姿はまだない。

 過ぎ行く教師たちにちらちらと不審な目で見られてしまったけれど、声は掛けられなかったのでセーフということにしておいていいだろう。

 ちょっと早く来すぎたとも思ったけれど、グラウンドはとても広いのでまだ半分も見れていないという有様だ。後三十分もしたら人も増えてくるだろうからそれまでに調べ終えておかないといけないけれど、この調子じゃ無理かもしれない。

 中腰のまま隅にある花壇の周りを調べていたので、腰が痛い。ちょっと年寄り臭いけど、立ち上がり伸びをする。


「ん~……、うぐっ!」


 あんまり逸らしすぎたせいか、バランスを崩して後ろに倒れてしまった。一年前に比べて体力はついたものの未だにどんくさいのは治っていない。

 マクシムお兄さま曰く、これは天性のものだから一生なおらないと言われてしまった。いやいや、もう少ししたら背も伸びて大人っぽくなるだろうから中身もそれに準じるに違いない。そう信じている。


「あれ?」


 芝生の上を転がったところで、私は近くに植わっていた木の根に視線が釘付けとなった。正確に言うと、木の幹にあったものにだ。


「これは……」


 私はそれを手に取る。それは、鳥の羽だった。手のひらサイズのそれはスズメにしては大きい。茶色なのでカラスではないだろう。茶色と言っても薄茶、焦げ茶、白のまだら模様であまり見かけない模様だ。いったい何の鳥の羽だろう。

 私は鳥に詳しくないのでなんという鳥の羽かは見ただけではさっぱりわからない。後でコレットにでも聞いてみようかと、私はその羽を制服のポケットへとしまった。


「あれ? ブランシュじゃない。こんなところで転がってどうしたの?」

「ピオレット!」


 突然かけられた声に驚いて振り向くと、そこにはピオレットが私を見下ろしていた。思わず恥ずかしい所を見られてしまった。


「えっと、昼寝?」

「今まだ朝よ」


 誤魔化すことに失敗し、結局私はピオレットに何があってこのような状況になったのかを話すことにした。



 ▽



「それで二人で真犯人探しをすることになったってわけね。ちょっと水臭いわね! なんて教えてくれなかったのよ」


 経緯を話し終わると、開口一番でピオレットはそんなことを言っていた。なんでもなにも昨日ピオレットはもう先に帰っていたし。それになんの関係もない人まで巻き込むわけにはいかなかったのでいうつもりはなかったのだ。


「それにしても、そのお義姉さんって人ちょっと傲慢よね。私たちで真犯人捕まえてぎゃふんと言わせてあげましょうよ!」

「ちょっと待って。別に犯人がいるって決まったわけじゃないから。事故とかかもしれないし」


 誰かしらの思惑とは一概に言えない。ただ偶然が重なっただけの事故かもしれない。ハナから事件だと決めつけるのは思考が狭まってしまうのでよくないことだ。と、以前読んだ推理ものの小説に書いていた。


「あ、そっか事故である可能性もあるのか……。っで、ブランシュ探偵は早速調査に乗り出したってことは、何か見つけたわけ?」


 期待を込めて私を見つめる焦げ茶の瞳。だが残念なことに、その期待には応えられそうにない。


「……何も見つかってない」


 唯一見つかったのは鳥の羽だけど、おそらくあれは野鳥が落としたもので何の関係もないだろう。改めて考えると気合入れて朝早くから調査したのに何の手掛かりもつかめていない。無駄にグラウンドを駆けずり回っただけだった。


「……もしかして、考えなしに手当たり次第に調べてた、とか言わないわよね?」

「……考えなしに、手あたり次第でした」


 ピオレットは肩を落とすと、あきれ果てた顔で盛大なため息を吐いた。



 ◆



「ブランシュは、今朝から早速調査してたのかい?」

「とはいっても、考えなしの行き当たりばったりよ。もう少し頭を使うべきだと思うの」


 今朝の出来事を呆れ顔でシャルルに話したピオレットは、再びため息を吐いた。

 いや私だって何も考えていない訳じゃない。現場検証は基本だと推理小説にも書いていたし。犯人は現場に戻るとも書いていた。いや、犯人がいるとは決まってないけれど。

 しかしそれをピオレットに言ったら、入学試験当日から何日たってると思うのよと言って呆れられてしまった。

 確かに既に二週間近くは経っている。現にあちこち探ってみたけど、何もめぼしいものは見つからなかった。


「じゃあ、ピオレットは何か案があるの?」


 言われっ放しは悔しいので、意趣返しとばかりにピオレットに振ってみると、その言葉を待っていましたと言わんばかりにピオレットはニヤリと笑った。


「だからー、こうやって集まっているわけじゃないの。東の島国には『三人寄れば文殊の知恵』ってことわざがあるらしいわよ。まあ、私たちは四人だけど。多い方がいいに決まっているわ」

「え、お、俺も、数に入って、いるの……?」


 シャルルの隣に座っていたヨルゲンがぎょっとした様子で、ピオレットを見る。


「当然でしょ、友達が困っているんだから助けないと!」

「ヨルゲン、無理強いはしないからね。皆を巻き込むわけにはいかないって。これは元々僕の問題なんだから」

「ううん。俺も、手伝うよ。何ができるかわからないけど……。だって、と、友達だからさ……」


 最後の方は小声で聞き取りづらかったけれど、私の耳にはちゃんと届いた。ヨルゲンは案外、友達思いのいい人なのかもしれない。

 何はともあれ仲間が増えるのは心強いので大歓迎だ。


「っで、どうするの?」


 私が切り出すと、それに続くようにピオレットが答えた。


「そうね、ここはやっぱり聞き込みがセオリーじゃないかしら? 私の好きな推理小説でも主人公の探偵は事件が起きると真っ先に聞き込みにいっていたわ!」


 胸を張りながら言うピオレット。ピオレットも推理小説が好きなようだ。後で何を読んでいるのか聞いてみよう。


「き、聞き込みって、どこに?」

「そうねー、今回の場合だとやっぱり従魔師科かしら? あと事件が起きた時その場にいた人たちとか?」


 確かに、定番中の定番だ。

「っと、いうことでここは二手に別れましょう。従魔師科に聞き込みに行くのはお義姉さんもいることだし、シャルルと、あとヨルゲン。っで、当日の目撃者への聞き込みは私と、その場にいたブランシュね」


 反対意見は誰からも上がらず、今日の放課後から聞き取り調査を始めることが決まった。


「私たちで原因を突き止めてシャルルの義姉に眼にものをみせてやりましょう!」

「何を張り切っているのは知らないけれど、そういう事は授業の後にやってね」


 いつの間にか教室に来ていたタイヨン先生に窘められてしまった。とりあえずは学生の本分である授業が優先事項だ。結局調査は放課後に持ち越しとなった。

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