11、アーサーという教師を訪ねて
放課後になりピオレットたちに一緒に帰ろうと誘われたものの、用があったのでその誘いを断り、今現在私は人がまばらになりつつある校舎内を一人歩いている。
昇降口へと向かう生徒たちとは逆方法へと進む私の目的地は職員室だ。
『アーサーって教師がいるはずだから、入学したらそいつに頼れ。お前の境遇によく似てるから何かと役立つはずだ』
と、昨年王都に帰る間際の師匠に言われた。どう役立つのかはわからないけど、師匠の言うことを無視すると後々面倒なことになるので言われた通りに挨拶に行くことにした。
それにしても私は、アーサーさんの顔も何も知らないのだけど、誰かに聞けばわかるのだろうか。苗字を言わなかったということは、アーサーさんは平民出なのだろう。いや、師匠のことだから言い忘れているだけなのかもしれないけど。
私の境遇に似てるって、アーサーさんも体が弱いってことだろうか? それとも覚えのないことがいつの間にか自分がやってることになってたりしているほうかな。
師匠曰く、アーサーさんは精霊魔術師と言っていた。と、いうことは精霊に関することかもしれない。オトテール領は精霊がたくさんいるらしいし、案外私の側にも精霊がいたりするのかな。全然見えないけど。
魔術学院ソルシエールのクラス分けは一年時には成績順でクラス分けをしているが、二年からは学科別に変わる。
学科は全部で八つ。錬金術師科、回復魔術師科、従魔師科、精霊魔術師科、付与魔術師科、魔術戦士科、妖術師科、賢者科。
それぞれがどういった魔術師なのかいまいち把握できてはいない。精霊魔術師は精霊を操るんだろうな、とぼんやり思っているくらいだ。知っておくべきなのだろうけれど、追々知っていくだろうから今はいいや。
とりあえず、職員室にいって聞きやすそうな人にアーサーさんについて聞いてみよう。
職員室を覗き込む。見知っている先生がいたらいいなと思ったけれど、残念いないようだ。
「誰かお探しですか?」
「ひゃ!」
突然声をかけられて、驚き飛びあがる。声をかけてきたのは白髪交じりの金髪を後ろで結わえた、五十代くらいの物腰が柔らかそうな老紳士だった。
「おや、すみません。驚かせるつもりはなかったですが……」
話し方や表情から品の良さがうかがえる。この人なら教えてくれるかもしれない。
「あの、精霊魔術師科のアーサー先生っていますか?」
老紳士は顎に手を当て少し考えた後、首を振った。
「今現在アーサーという教師は在籍していませんが、誰かと間違えていませんか?」
「え?」
予想していなかった回答にがっくりする。まさかいないなんて……。師匠も知らなかったのかな。いや、知ってて伝え忘れていた、なんてこともありえそうだ。
まさかの事態に項垂れていたが、視線を感じたので顔を上げると先ほどの先生が私をじっと見つめていた。
「えっと……、私に何か?」
「すみません。貴女がすごいお方を連れていましたので、ついまじまじと見てしまいました」
「凄いお方?」
誰か後ろにいただろうかと振り返るが誰もいない。いったい誰のことを言っているのだろうか。
「ああ、貴女は見えないのですね。なるほど流石清福なる者でしょうね。これほどの力を持ったお方に好かれるなんて、滅多にないことです」
「ジョワイユ……」
今日タイヨン先生が授業で言っていた。確か、生まれつき精霊に愛されて加護を受けている人、だったかな。わたしがその清福なる者だとこの先生は言っている。
じゃあ、このお方ってもしかして精霊なのだろうか。しかし私は精霊なんて生まれてこのかた一度も見たことがない。本当にいるのかすらわからない。
「あの……」
「コルベール先生、生徒が探してましたよー」
「おや。わかりました」
精霊や清福なる者について尋ねようとした時、別の先生から声が掛かった。
「すみません、私はこれで……」
「あ、はい」
引き止めて色々聞きたいが、そういう訳にもいかない。また日を改めようか。いや、この先生は担任でも授業の担当でもないから聞きづらい。第一名前も知らないし。担任であるタイヨン先生に聞いた方がいいかも。
用も済んだしいつまでも扉の前に居ても邪魔になるだろうと、その場から離れようした時、再び声をかけられた。
「お嬢さん、お名前は?」
「ブランシュ・オトテールです」
「私はジェフ・コルベール。精霊魔術科を担当しています。もし何か聞きたいことがあったらいつでも来てくれて構いませんよ」
「ありがとうござます!」
目的の人物はいなかったけれど、その代わり優しそうな先生と知り合えた。その上私に関係ありそうな精霊魔術科だ。また後日精霊のこととかいろいろ聞いてみよう。




