9,清福なる者
「はーい、皆さん授業を始めますよ!」
茶髪のショートヘアの女性が張り切った様子で、教壇から声を張り上げている。彼女はサラ・タイヨン。A組の担任であり基礎魔法学の教師だ。歳は二十代中頃くらい。教師としては若い方だと思う。
「今日は初めての授業なので、簡単に魔法のおはなしでもしましょうか。皆さん優秀なので既に知っているでしょうけど、復習だと思って聞いてくださいね」
そう言うと一呼吸おいて、タイヨン先生は再び口を開く。
「まず私たち人間は二種類に分けることが出来ます。はい、魔法使いと一般人ですね。全ての人間が魔法を使えるわけではありません」
ん? どういう事だろうか。話的に魔法使いが、魔法が使える人ってことはわかるけど、一般人とはどういう事だろうか? 人間は誰しもが魔法を使えて当然のはずだ。魔法が使えない人など見たことがない。
「魔法使いと一般人の違いが何かわかる人はいますか?」
一人手を上げる生徒がいた。マリーロールだ。
「ブルシャルドンさん、どうぞ」
「当然、平民と貴族の違いですわ。たまに特例も生まれてしまうみたいですけれど」
マリーロールは前方に座る黒髪の男性生徒に視線を向けた。
「残念ながら違います」
タイヨン先生のきっぱりとした返答に、マリーロールが苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。
「思い違いされている方が結構いらっしゃるので、毎年入学して初めての授業で説明しているのですが、魔法は貴族の専売特許ではありません。貴族でも魔法の使えない方はいますし、平民でも魔法が使える方もいます。現にこのクラスにも平民の生徒はいますよね」
私は未だに頭の中に大量に疑問符が渦巻いている。魔法が使えない人がいる? オトテール領では貴族、平民関係なく全ての人が魔法が使えた。それが当たり前だと思っていたのだが、もしかしてちがうのだろうか。
「魔法能力の有無がわかれる基準は、血筋、精霊の加護、地域性など様々な理由が挙げられていますが、ハッキリとした今はまだ不明なままです。ですので皆さんは憶測で決めつけて差別するのはやめましょう」
タイヨン先生の言葉に不服そうな顔をしている人が何人かいる。
そこですかさず反論する者がいた。マリーロールだ。
「ですが、実際に平民の方が魔法が使えないことが多いですわ!」
「ええ、確かにそれは事実です。それに関しては魔法能力の有無は遺伝によって引き継がれる割合が高いことから、貴族たちが魔法使いとの婚姻を積極的に行ってきたためだと考えられています。また魔法が使えないと家を継げない、なんて家も多いのも理由の一つです。昔から魔法が使えることは貴族としてのステータスでしたので。反対に平民として生まれた魔法使いは貴族の養子に出されることが多く、平民には魔法使いの血が受け継がれないことが多いのです」
今の説明で納得しているもの、していないもの半々といったところだろう。私は後者だ。しかし理由は違うだろう。
「あの、先生。質問です」
わからないままでは困るので聞いてみることにした。クラス中の視線が一気に私に向かう。
「魔法ってみんなが使えて当然のものじゃないですか?」
私が発言したあと、一瞬の沈黙の後どっと笑いが起こった。
「なに言ってんだ? そんなわけないだろ」
「そんな当たり前のこと聞いて恥ずかしくないわけ?」
「あいつ、すごいだのなんだの言われてたわりには非常識なんだな」
クラス中のバカにする声に今更ながら恥ずかしくなってきた。
「あなた名前は?」
タイヨン先生はクラスメイト達とは違い笑ってなかった。
「ブランシュ・オトテールです」
「どこだっけ?」とか「ああ、あの田舎の」とか声が上がる。
「なるほど、オトテール領ならありあり得る話ね」
先生が一人納得しているようだけれどよくわからない。
「みんなバカにしているようだけど、オトテールさんが常識がないってわけじゃないのよ。ただ視野が狭かったというだけね」
よく聞いてと前置きをした後に、タイヨン先生は話しはじめた。
「オトテール領の辺りは昔から特殊なのよ。あの辺の出身者は全て魔法使い。一般人は生まれないと言われているわ。正確な理由はわからないけれど、あの地は精霊に愛されているからと言われているわ。そして、清福なる者が多く生まれるの」
聞いたこともない言葉が出てきた。
「これは後々の授業で教えることなんだけど……、丁度いいのでこのまま教えますね。清福なる者とは、生まれつき精霊に愛され、精霊の加護を与えられている人のことを言います。特徴としては平均よりもかなり魔力が多く、生まれつき精霊が見える人が多いです。精霊との相性がいいので、精霊魔術師には清福なる者は多いです」
精霊とは自然の力の具現化。魔法の根源とも言われている。昔の人間が精霊との交流によって魔法を会得したという諸説もあるくらいだ。
オトテール領で神々や精霊を祀っていることに何か関係があるのだろうか。
「清福なる者かどうかはどうやって見分けるんですか?」
「簡単よ。契約もしてないのに精霊が傍に居たら清福なる者なのよ。普通は精霊なんて見えないからわからないけど、精霊魔術師なら見ただけで、清福なる者かわかるそうよ。案外本人は気づいていないケースも多いのだけどね」
タイミングと見計らったかのように終わりを知らせる鐘が鳴り響いた。




